海外で大手の航空会社が破綻申請したり、政府に資金援助が要請されたりする中で、投資家はむしろ「航空会社のキャッシュは尽きるのか否か、尽きるとしたらいつか」に注目していると考えられる。
キャッシュが尽きた場合は負債を返済することができなくなり、経営破綻となる。そうなれば株式はほぼ紙切れ同然の価値となり、投資家は多額のキャピタルロスを被ってしまう。通常、バリュエーションは収益性や成長性、効率性などをベースに決まることが多いが、こういった局面では財務の短期的安全性が強く影響してくると考える。
ANAホールディングスの2020年3月末時点の保有キャッシュ(現預金+流動資産の有価証券)は約2400円。連結ベースの売上高で考えると、月商が約1700億円強であり、単純に割れば、キャッシュは月商の1.5カ月分ということになる。
JALについては保有キャッシュが約3300億円で、月商約1200億円強に対して2.6カ月分。
海外大手の航空会社と比較すると、国内の航空2社の安全性はいくらか高いように見える。
しかし、それはあくまで航空業界の中における相対的な話であり、固定費に着目すると危機感は強まる。その固定費については、各社も人稼働やサービスの適正化をはかったり、緊急的な対応策として、役員報酬、人件費の減額、機材関連費用の圧縮や外部委託費の削減などに努めていよう。
JALは2010年に会社更生法の適用を申請し、上場廃止となった経緯がある。その後、企業再生支援機構による支援のもと負債を大幅に減らして復活しており、こういった経緯を経て財務内容としては身軽になることで、2020年3月末時点の純資産比率は61%と、ANAの42%を大きく上回っている。
オンバランス有利子負債ベースのD/EレシオもANAが0.8倍なのに対し、JALはわずか0.1倍だ。
加えてJALは、純有利子負債(有利子負債から保有キャッシュを差し引いたもの)がマイナスであり、実質無借金の財務となっている。
執筆者
1991年生まれ。新潟県新潟市出身。2022年に株式会社モニクル傘下の株式会社ナビゲータープラットフォームに入社し、現在はメディア事業部・メディアグロース企画推進室マネージャー。くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」を中心に、多くの読者の方に幅広いコンテンツを届けるための戦略立案に従事している。
それ以前は、LIMO編集部にてアシスタント・コンテンツマネージャー(ACM)として従事。第一報として報道されるニュースを深堀りし、読者の方が企業財務や金融に対する知的好奇心を満たしたり、客観的データや事実に基づく判断を身に付けられたりできる内容の記事を積極的に発信していた。
入社以前は、株式会社フィスコにて客員アナリストとして約20社を担当し、アナリストレポートを多数執筆。また、営業担当として、IRツール(アナリストレポート、統合報告書、ESGレポートなど)やバーチャル株主総会サービス、株主優待電子化サービスなどもセールス。加えて、財務アドバイザーとしてM&Aや資金調達を提案したほか、上場企業向けにIR全般にわたるコンサルティングも提供。財務アドバイザリーファームからの業務委託で、数千万~数十億円規模の資金調達支援も多数経験。
株式会社第四銀行(現:株式会社第四北越銀行)、オリックス株式会社でも勤務し、中小・中堅企業向け融資を中心に幅広い金融サービスを営業した。株式会社DZHフィナンシャルリサーチでは、日本株アナリストとして上場企業の決算やM&A、資金調達などのニュースと、それを受けた株価の値動きに関する情報・分析を配信。IPOする企業の事業・財務を分析し、初値の予想などに関するレポートを執筆。ロンドン証券取引所傘下のリフィニティブ向けに、週間・月間レポートで、日本株パートを執筆。経済情報番組「日経CNBC」にて毎月電話出演し、相場や株価の状況も解説していた。
新潟県立新津高等学校を経て、2013年に慶応義塾大学商学部を卒業。学部では、岡本大輔研究会にて企業評価論、計量経営学を専攻していた。
最終更新日:2023/11/03