資産の劣化にも要注意

財務諸表には資産の質についての記載は原則としてありませんが、よく見ると、資産の質が劣化している可能性が見て取れる場合があります。

たとえば在庫が増加を続けている場合です。一度限りの増加であれば、新製品発売前に在庫を積み増しているのかもしれませんが、増加が続いているならば、製品に競争力が乏しくて売れ行きが落ちている可能性があるでしょう。

売上が落ち込んでいないのに在庫が積み上がっているという場合には、売れ残って廃棄すべき在庫がそのまま財務諸表に計上されている可能性があります。あるいは、最悪の場合には粉飾決算として架空の在庫が計上してあるかもしれません。

売掛金の増加に関しても、製品の競争力が足りないために代金支払い条件で大幅に譲歩して無理に販売を伸ばしている可能性が考えられます。あるいは、製品納入先の財務状況が悪化して資金回収に苦労しているのかもしれません。

さらには、決算期の異なる企業に頼み込んで決算前に不良在庫を買い取ってもらい、決算後に買い戻す、といったことが行われているかもしれません。最悪の場合には、粉飾決算として架空の売掛金が計上してあるかもしれません。

在庫や売掛金が増加していなくても、売上高と比較して過大である場合には、過去の負の遺産が残っているのかもしれません。売上高と在庫等の比率を同業他社と比較してみることは重要かもしれませんね。

仮払金や短期貸付金についても、在庫や売上金と同様に、増加を続けていたり高水準であったりすれば、資産の質が劣化している可能性が高いかもしれませんので、要注意ですね。

他人を性悪説で見るのは一般論としては望ましいことではありませんが、倒産寸前の企業は粉飾決算をしてでも生き延びたいというインセンティブがありますので、本稿では敢えて粉飾決算の可能性もチェックすべきだと考えているわけです。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義