eスポーツの普及、新型コロナウイルスの影響に伴う巣ごもり需要からゲーム産業が好調だ。足元では「Nintendo Switch」の品薄状態が続いているほか、年末商戦に向けて次世代機の登場も控える。次世代機ではストレージに初めてSSDを採用し、新たな半導体需要を生み出している。一方で中長期的にはクラウドへの移行も予想され、専用機が数年サイクルで登場してくるような時代は終焉を迎える可能性も出てきている。

「Switch」の品薄状態続く

 新型コロナの影響でゲーム市場は予想以上の盛り上がりを見せている。休校措置や外出自粛によって、「おうち時間」が増え、その余暇の過ごし方としてゲームを楽しむ人が増えている。VGCharz.comが公表している週間販売台数をもとに集計すると、2020年2~4月の3カ月トータルのハードウエアのグローバル販売台数(セルスルーベース)は前年同期比で11%増加している。

 任天堂も19年度(20年3月期)は当初、「Nintendo Switch」の販売台数見通し(セルインベース)について、1800万台を見込んでいたが、結果は2103万台と300万台程度上ぶれる結果となった。

 「Switch」人気は足元でも衰えることなく、ハイペースの普及が続いている。しかし、2月以降は中国のEMS工場が新型コロナの影響で操業停止を余儀なくされたほか、3~4月から部品サプライヤーの操業度もASEAN地域を中心に低下したことから、需要に見合った生産・出荷体制からは程遠い。転売業者の買い占め行為も横行しており、入手困難な状況は夏ごろまで続くとの見方も出ている。

NANDで月あたり4万枚の新規ウエハー需要

 ゲーム産業が活気づくなかで、年末に向けてはSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、マイクロソフト(MS)の両社が次世代ハードを市場に投入する。「PlayStation 5」(PS5)、「Xbox Series X」ともに11月ごろの発売開始と目されており、ハードのスペックやソフトのラインアップなど、続々と情報が開示されている。

 スペック上、大きな注目を集めているのが、両ハードともにストレージにSSDを採用している点だ。従来機種ではHDDを搭載していたが、SSDの採用によってローディング時間を大幅に短縮できるなどのメリットがある。PS5は825GB、新型Xboxは1TBの大容量ストレージを搭載しており、NANDフラッシュのウエハー換算でも月あたり4万枚程度の新規需要を生み出すことになりそうだ。

 プロセッサー(CPUとGPUの統合チップ)は、現行機種と同様に、AMDが設計。これにカスタムを加えるという従来スタイルを踏襲している。引き続きTSMCが受託し、7nmプロセスで製造する。ダイサイズは360m㎡前後と見られ、大型サイズとなることからウエハー消費の増大につながりそうだ。価格設定は両ハードともに500~600ドルと予想されており、「PS5は20年度(21年3月期)ベースで約600万台、その後徐々に増えていき、23年度にピークを迎える」(セルサイドアナリスト)見通しだ。

クラウド化で専用機市場縮小の懸念

 一方でゲーム産業にとってはソニーや任天堂、MSのような既存プレーヤーに対抗するかたちで、グーグルやアマゾンなどの大手IT企業もゲーム分野での攻勢を強めている。これらIT企業は、基本的に専用機などは用意せずに、クラウドベースでコンテンツを提供する。

 こうしたクラウドゲームにユーザーが流出していった場合、専用機市場が縮小する懸念もあり、半導体などのデバイス分野にとってはマイナス影響が想定される。クラウドゲームの拡大によって、サーバー投資が生み出されるという期待もあるが、クラウドにおけるゲーム需要の負荷はそれほど高くなく、「専用機対クラウド」という業界勢力図の行方についても、半導体業界としては注視していく必要がありそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳