この記事の読みどころ
- 日本経済新聞の主要30業種四半期産業天気図予測は、各産業の担当記者が次の四半期の動向を、生産、販売、操業率、収益などから判断し、晴れ、薄日、曇り、小雨、雨の5段階で評価するものです。
- 今回、7~9月の天気図では、29業種が4~6月から変わらず、化学だけが唯一、薄日から曇り変化していました。
- 化学セクターを担当する筆者は、円高により化学が悪化という書きぶりが気になって、じっくり読んでみると同時に、この天気図を株式投資の「ベンチマーク」に応用できないか検討してみました。
化学だけが変化(悪化)する理由
6月下旬に英国のEU離脱の結果が明らかになった割には、4~6月から7~9月の天気図はほとんどの業種で大きな変化はないとされています。
離脱ショックで円高は進行しましたが、そもそも前の四半期も自動車、電子部品・半導体、百貨店、スーパーは曇り、鉄鋼、非鉄、プラント・造船、産業・工作機械などは小雨と、芳しくない評価だったことが、変化がないとされた理由かもしれません。
今回、30業種中で唯一化学が変化(悪化)したのは、円高によって海外の輸入品の流入が加速することで市況が崩れ、その結果、プラントの稼働率もこれまでのようなフル稼働を維持できなくなるという理由です。
また、石油化学の原料であるナフサ(粗製ガソリン)も2月をボトムに徐々に底値を切り上げており、4~6月のような原料安効果が期待できないということもあるでしょう。
産業天気図を株式投資のベンチマークとして使えないか
長年、株式市場を見てきた筆者の経験からすると、この産業天気図による各産業の見通しは、「先行指標」というよりは、「足元の状況をやや延長した範囲での指標」と見た方が無難なような気がします。実際、これだけグローバル化が進行した世界市場の動向を織り込みながら予測するのは至難の技です。
しかし、この30業種の産業天気図は、株式投資を行う際のある種のベンチマークとして使えるかもしれない、というのが筆者の見方です。以下に、そのポイントをまとめてみました。
- 新規に株を買うケースでは、産業天気図で晴れ、薄日の業種は新規投資としてふさわしくないかもしれません。たとえば、旅行・ホテル等は晴れですが、既にインバウンドはピークアウトしています。
- 薄日はネットサービス、通信、食品・飲料、広告、建設・セメントなど、業績が堅調で、ある意味、既に株価が出来上がっているケースが多いと言えます。テクニカルでのタイミングがより重要な基準になるかもしれません。
- 曇りは化学、電子部品・半導体、自動車、精密機械、百貨店、スーパー等の産業群です。これらは、円高是正、スマホの販売好調のニュースなどで、一転、薄日や晴れに変わる可能性がある業種でもあります。
- 小雨は、やや時間はかかりそうですが注目できる産業群です。具体的にはプラント・造船、産業・工作機械、紙・パルプ、鉄鋼・非鉄、石油などで、新興国企業との競争や設備投資動向などにより足元は厳しく見られています。工作機械などは、景気循環ではLate Cycle(遅行景気循環)に分類され、世界景気が回復に向かうことが確認されると動き出すセクターです。中長期的スタンスで果実のとれそうな産業群と考えます。
- 雨は電力です。電力小売り自由化で収益動向が不透明な点、原発稼働による収益浮上が難しそうな点から、当面、投資チャンスは限られそうです。
まとめ
産業天気図を基準とした株式投資のポイントをまとめると、向こう6~9か月の投資期間では曇り産業が、1~2年の投資期間では小雨産業がスタンスとしていいのではないかと筆者は考えています。
株式投資には様々な考え方がありますが、日経紙の産業天気図は定期的に特集として取り上げられるので、継続的な判断の助けとなるのではないでしょうか。
LIMO編集部