「アメリカン・ドリーム崩壊」と「男の義務」

男性の銃信者の多くが銃所持の権利を支持するのは「銃そのものへのこだわりだけではない」と、アリゾナ大学の社会学准教授ジェニファー・カールソン博士は指摘しています(※4)。

カールソン博士は銃信者が多いと知られるミシガン州で、銃を携帯する人々を対象にインタビューした様子をロサンゼルス・タイムズに寄稿しました。

銃を携帯する理由として、銃を(見えないように)携帯する許可をもつある男性は「いつ必要になるか分からない、常に持ち歩くのは最良の慣習だ…財布を持ち歩くように」と述べ、他の男性は「銃を持ち歩かないのは全裸でいるような感じだ」と話しています。

ミシガン州は1970年代までは自動車産業が栄え、学歴がなくても自動車工場で真面目に働くことで、誰もが十分な給料を稼ぎ安定した平和な家庭を築けました。いわゆる「アメリカン・ドリーム」です。しかし今はそうはいかず「生活保護を受けて暮らす人が増えた」と、彼らは訴えています。

ミシガン州などの脱工業化で経済が衰退した地域では、「多くの男性たちは自分の(経済的な)『提供する』という能力に疑問をもつにつれ、『守る』という願望がますます重要に感じるようになった」。彼らは、銃で自分自身や家族、女性、子供、脆弱な他人を危機から守ることを『男の義務』と考え、自分達を『銃をもつ良い人』とみなしているのだ、とカールソン博士は指摘しているのです。

いくら、銃が自己防衛よりも犯罪や自殺などに使われるていることの方が顕著であっても、彼らのような背景の銃信者にとってアメリカン・ドリームに頼れなくなった今、銃に男の「威厳」を見出しそれを制限されることは「男性に対する個人的な侮辱」と感じているのだ、ということです。

正義の味方という名目で銃を支持するという理想は、結局銃を簡単に入手できる社会をつくり、乱射事件の絶えないアメリカにしてしまったのは残念です。終息が見えないCOVID-19の感染拡大で手一杯のアメリカ、社会不安の中で次は乱射事件が増えてしまわぬことを願います。

(※1)“Second-Highest Ever: March Gun Sales Spiked as Virus Fears Grew”The New York Times
(※2)『銃器店のコロナ閉鎖に反対、米業界「必要不可欠」』The Wall Street Journal
(※3)“Gun Threats and Self-Defense Gun Use”Harvard Injury Control Research Center
(※4)“Op-Ed: Why men feel the need to carry guns”The Los Angeles Times

美紀 ブライト