インド準備銀行(RBI:中央銀行)は全土封鎖開始から2日後の3月27日に政策金利を0.75%引き下げた。この緊急利下げの幅は市場予想を上回る格好となった。RBIは同時に、銀行部門への大規模な流動性の供給、その他の景気下支え策も発表した。これらの緊急対策によって、銀行部門での流動性の需給バランス、金融政策の波及効果、実体経済への資金の流れの改善への期待が高まっている。

RBIの金融緩和策は借り手の救済策としても有効で、存続の可能性がある企業の事業継続を確かなものとするとともに、資金調達やクレジット市場におけるリスクの軽減にもつながると期待されている。RBIは、金融政策目標の達成に必要であれば伝統的および非伝統的な金融政策をさらに打ち出す用意があることも表明した。

効果は不透明

マクロ経済面では、世界の他の諸国同様に、インドも今後は成長減速に直面せざるを得ない。政府の財政基盤は弱いが、財政出動規模の大小によって経済の先行き見通しが大きく違ってくることは言をまたない。

全土封鎖が続くなか、「不要不急」の消費、特にサービス関連消費(とりわけ低所得世帯の消費)が、最も大きな打撃を受ける可能性が高い。国内全体の家計消費支出に占めるサービス支出の割合はこれまでは上昇傾向にあり、コロナ危機に見舞われる直前には総消費支出の50%、国内総生産(GDP)の30%を占めていた。しかし今後は、感染拡大による失業や家計の減収を受けて家計の消費マインドが急激に悪化することが予想される。

インドの労働市場では「非組織労働者」と呼ばれる、労働法や社会保障制度の適用対象外である「インフォーマル・セクター」で「自営業者」または「日雇い労働者」として働く人たちが圧倒的な割合を占めるが、インドでは全土封鎖が彼らに及ぼす極めて深刻な影響への懸念が高まっている。

また、パンデミック(世界的大流行)で起きたサプライチェーンの分断による影響はインドでも顕著だ。さらに、世界的なリセッションのリスクが増すなかでの需要の大幅減が懸念される。コロナ危機によって悪化した金融市場環境の二次的な影響も心配である。

原油価格の急落(今回の状況ではインドにとっては異例のポジティブな要因)、政府の緊急対策、さらにインドの場合、世界のバリューチェーンへの統合が限定的である事実などいくつかのプラス要因はあるものの、全体として見れば、多大な経済的損失が予想される。

新型コロナウイルスの感染拡大は、マクロ経済にどのような影響をもたらすのだろうか。それには、パンデミックがどこまで広がるか、収束がいつになるか、社会的距離(social distancing)を保つ措置がどこまで厳しく、どれだけ長い間講じられるか、政府の緊急対策で感染拡大を抑制できるのか、さらにそれで経済への影響を抑えることができるのかを注視するしかないのが実情だ。

そうした制約があるなかで、当社では2020年度の実質GDP成長率見通しについては、上期(2020年4~9月)は「横ばいからマイナス」で推移し、下期(2020年10月~2021年3月)に入ると、感染拡大の行方次第では景気回復があると見ている。

しかし、当社では、封鎖終了後もウイルス感染への「恐怖心」が社会からすぐに消えるとは考えにくいため、インドの経済活動が数ヶ月間は通常以下の水準で推移すると予想している。新型コロナウイルスへの警戒感が民間消費及び企業設備投資にもたらすマイナス効果が解消するまでには、長い時間がかかりそうだ。経済活動の中には、とりわけサービス産業の一部では、永久に消滅するところが出てくることさえ考えられる。

インド経済がコロナ危機以前の水準まで回復するには長い時間がかかるだろう。長く待ち望まれてきたインド経済の景気の循環的回復は新型コロナウイルスの感染拡大によってさらに先延ばしされたと言える。