社員に「片想い」する社長が、かえって社員を苦しめる

スモールカンパニーのための経営の原理原則

 社員数100名以下、売上数億円規模の小さな会社(スモールカンパニー)の中には、成長拡大を夢見ている会社も少なくありません。しかし、組織を拡大していくと、会社は必ずと言っていいほど「人材マネジメントの壁」にぶつかります。

『スモールカンパニー 本気の経営加速ノート』の著者で、2001年の米国同時多発テロ発生時には現地レスキューチームに参加するなど異色の経験を持つ経営コンサルタントの原田将司氏は、そうした会社の社長の特徴として「ダメ社員に対して情け深い」「社員をよく叱る」といった点を指摘します。

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 この記事では、社長が陥りがちな人材マネジメントの「落とし穴」について、原田氏がわかりやすく解説します。

社員への「片想い」をやめよう

 スモールカンパニーでは、業績に関しては、「社員一人ひとりのパフォーマンス」への依存度がとても高いので、社長は無意識に社員に対して依存心を持ちます。一方で、組織をコントロールできないと不安になるので、社員に対する支配欲を増幅させてしまいがちです。結果的に、スモールカンパニーの社長は、自社の組織に対して目が曇りがちになってしまうのです。

 たとえば、性格のよさだけが取り柄で、何をどうやっても学びが薄く、意欲に欠け、成果を上げないようなダメな社員もいるでしょう。スモールカンパニーほど、社員一人ひとりのパフォーマンスが事業の盛衰を決める大切な要素なのに、どういうわけか、ダメ社員に対しては情け深く、できれば何とかしたいと考える社長は多いのです。

 逆に組織が大きく、儲かっている会社ほど、社員に対する処遇は冷酷で情け容赦がありません。そうした仕組みが出来上がっていることもあり、大きな会社の社長は決して末端の社員を叱りません。組織規模が大きくなってくると、社員一人ひとりを見ていられなくなるのでしょうが、とにかく小さい会社の社長ほど人情味が前面に出やすいようです。

 そうした人情味溢れるスモールカンパニーの社長は、社員救済意識から支配欲を複雑に増幅させて、いつの間にか「あいつには成長してほしい! きっと成長するはずだ! いや、成長してもらわないと困る!」と社員に対して一方的な「片想い」を募らせてしまうのです。そして、社員救済意識が強い社長ほど、社員をよく叱ります。

「ダメな社員」が他の環境で輝くこともある

 しかし、あなた(社長)の下を離れたほうがよくなる事業や、幸せになる社員もいるはずです。「あいつはうちだからやっていられる。うちを辞めたら拾ってもらえる先なんてないはずだ」という話をよく耳にしますが、果たして本当でしょうか? 筆者の経験から言えば、多くの場合、それは社長の思い込みです。

 とあるソフトウェア開発会社で、意欲がなく、知識不足でどうにもならなかった問題社員が、飲食店に転職して、数店舗を統括するスーパーバイザーにまで出世したケースがありました。彼は、次のように話していました。

「開発会社にいた頃は、社風になじめず顧客の要求事項をこなすだけの仕事に辟易していたので、半ば人生に絶望感すらありました。
 しかし、退職して、お金がないから仕方なく始めた飲食チェーン店のバイト先で偶然、天職を見つけました。店長が真剣に面倒を見てくれたことや、お客様から直接、「おいしい」とか「ありがとう」とか言ってもらえたことに感動して、いつの間にかのめり込んで店長にまで抜擢してもらえました。
​ その後、自分の店の業績を上げることが楽しくなってきたし、そういう楽しみを他の店長にも教えてあげようとお節介ばかりしていたら、本社からスーパーバイザーに任命されるまでになりました」

 このように嬉しそうに語っていた彼の笑顔が、今でも思い出されます。

社長も社員もストレスを溜めてしまう悪循環

 日本国内だけでも400万事業所、7万人超の社長がいます。非営利団体や個人事業主を含めると、さらにその何倍ものビジネスチャンス、就業チャンスがあるのです。ハローワークでは創設以来、公開される求人がゼロになったことは一度もありません。仕事は常にあります。

 つまり、御社でどうにもならない社員も、一歩外に出れば、新たな人生が待っているのです。

 そもそも、あれこれ理由をつけ、頼まれもしないのに自社に縛りつけて、社長も社員もストレスを溜めていくことは、果たしてお互いのためになるのでしょうか?

 いろんな想いが巡るかもしれませんが、そろそろ「こいつを何とかしてあげたい」という社長の片想いから一度離れてみてはどうでしょうか。社長には、そんな社員を今日までどうにもできなかった、という「実績」があるのですから。

筆者の原田将司人氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

「社員に期待しない」からこそ「感謝」が生まれる

 また、社長が社員に対する片想いから離れると、社長自身のパフォーマンスが上がり、事業が仕組みで動くようになります。筆者自身も経験しているのでよくわかるのですが、社員に対する依存心と支配欲が片想いなのですから、逆を言えば、片想いをしなくなるというのは依存心も支配欲もなくなるということです。

 そもそも社員に対する期待が薄まるので、彼らの失敗に寛容になり、力量不足に悩むこともなくなるため、社長が精神衛生上とても健康になります。もちろん、社内の雰囲気もよくなります。

 また、社長のプレッシャーから解放された社員は活き活きとしてくるので、パフォーマンスを上げる環境が整います。

 社員への期待を薄めることは、決して悪いことではありません。逆にスモールカンパニーにとってはよいことだと考えられます。期待が薄いわけですから、最初から多くを求めなくなります。「社長が自分でやる、社員にそれを少し手伝ってもらう」。そういう気概で臨めば、社員に対しては感謝しか残らないはずです。

 最悪な片想いが、「社員に辞められると困る」というものです。「いてくれれば助かるけど、いなくても大丈夫」という経営状態や社長の心の状態をキープしなければ、近い将来、追い詰められて泣きを見るのは社長自身です。社員の未来は御社にだけあるわけではありませんが、御社の未来も今いる社員だけに依存しているわけではありません。この点については、社長は毅然たるマインドセットを持っておくのがよいのです。

 

■ 原田 将司(はらだ しょうじ)
 兵庫県芦屋市出身。リソースアクティベーション株式会社および株式会社ことぷろの両社の代表取締役。中京大学経営学部を卒業後、証券会社を経て渡米。プロ格闘家とビジネスの両立を目指す中、米国同時多発テロに遭遇し、発生当初からレスキューチームに参加。帰国後、2006年に経営コンサルティングのリソースアクティベーション株式会社を設立。数々の販路開拓・新規事業プロジェクトを成功させている。

原田氏の著書:
スモールカンパニー 本気の経営加速ノート

原田 将司

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兵庫県芦屋市出身。リソースアクティベーション株式会社および株式会社ことぷろの両社の代表取締役。
中京大学経営学部を卒業後、証券会社を経て渡米。プロ格闘家とビジネスの両立を目指す中、米国同時多発テロに遭遇し、発生当初からレスキューチームに参加。帰国後、2006年に経営コンサルティングのリソースアクティベーション株式会社を設立。
数々の販路開拓・新規事業プロジェクトを成功させている。