40、50年先は想定できない

若い人たちは、自身の退職後の生活のためにどれくらいの資産を積み上げるべきでしょうか。このテーマを2回に分けてまとめていきますが、難しいのは40年、50年先のことがなかなか想定できない点です。どんなに精緻に分析しても、前提となる多くの事柄に現実感がなく、そのため結果にも納得できにくいように思えます。

ただ、「あまりに遠くて想定できない」とあきらめるのではなく、遠い将来の想定でもそれを達成するために「目先、どこまで辿り着けばいいのか」という足元の目標に置き換えることで、それを「見える化」する必要があります。

若年層には現実感が乏しい定額の必要額

積立投資の機運が少しずつ高まり、「老後資金2,000万円問題」が図らずも多くの現役層に退職準備の重要性に目を向けさせる結果となりました。

ただ、退職後の生活を想定しながら、生活費、住宅リフォーム、海外旅行などの項目を一つ一つ積み上げていく方法は20-30代の人には無理があります。そもそもそうした退職後の生活を想定し難い上に、積み上げるイベントが不確定に過ぎるからです。しかもイベントごとにコストを一定額に想定しがちなことも柔軟性に欠けます。

また、アンケート調査からゆとりある老後の生活費を算出し、年金収入との差額から、月間や年間の必要額を簡便に算出する方法なども使われます。しかし、こちらも平均値を使った一定額をすべての人に当てはまるかのように使っている点で、現実感に乏しいといわざるを得ません。

こうした定額による資産形成アドバイスは「退職準備の見える化 Ver1.0」と呼べるものです。この方法は、生活や就労の多様化が進む若年層にとっては、「なぜ一律の金額なのか?」、「40年後、50年後もその金額で変わらないのか?」という基本的な疑問に答え切れていません。

年収帯ごとに異なる目標代替率は若年層には使い難い

そこでフィデリティ退職・投資教育研究所は10年以上前から、現役時代の生活水準は、退職したからといって簡単には引き下げられないものだという前提に立って、世界中で多くの事例とともに使われている「目標代替率」による簡便方法を紹介してきました。

退職後の年間必要生活費(=退職後年収)は退職直前の年収に、「目標代替率」と呼ぶ一定率を掛けた金額になると計算します。米国会計検査院の調査によると、米国では70-85%が最も使われている比率で、日本では当研究所が70%前後の数値を公表しています。

この方法を「退職準備の見える化 Ver2.0」と呼んでいます。将来の年収が退職後の生活の資金額を想定する際に重要な要素になるという点が大きなポイントで、40代、50代の方々にはより実感のあるアプローチになるでしょう。

ただ、これでもまだ、20代、30代には不十分な点があります。次回、さらに一歩進んだ「退職準備の見える化 Ver3.0」を紹介します。

退職準備の見える化の新しい考え方

(出所)フィデリティ退職・投資教育研究所作成

 

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史