韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が英語以外の言語で初のアカデミー賞作品賞を受賞したことが注目されましたが「アカデミー賞とかどうでもいいや」と思う方も多いかもしれません。
筆者個人的にもそういう思いがあります。しかし、「アジア初」となるアカデミー賞作品賞が日本の作品では無かったということには少しがっかりしてしまいました。
しかし、日本映画が韓国映画に先を越されたのは当然のことだとも言えます。韓国と日本の映画業界では意欲が全く違うからです。
アメリカでの地道な努力で「韓流人気」
映画『パラサイト』は文句のつけようのない傑作映画だと思います。格差という世界共通の問題を誰もが笑えるブラックコメディに仕立て、細かく計算された風刺が観る者を考えさせ、さらにアメリカ人の大好きな暴力も忘れていない。意識高い系もそうでない系もだれもが楽しめるエンターテイメント性の高い作品です。
とはいえ、外国映画がハリウッドを制するのはとても大変なことです。アカデミー賞対象作になるための出品条件の一つとして、ロサンゼルス郡内の映画館で7日間連続商業上映されなければなりません。映画関係者などのアカデミー会員が投票を行う前に、まずは7日間連続商業上映出来るくらいの一般的なアメリカ人の足を映画館に向けなくてはならないということです。
アメリカ人は字幕をあまり好みません。特に、外国語映画でカンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞作品は、やや小難しく文学的すぎるというイメージがあり、その国の文化に馴染みがあったり、期待をもっていなければわざわざ映画館には出向かないでしょう。
そういう意味では、韓国はK-popや韓国ドラマを地道にアメリカで根付かせてきているので、韓流にはまっているアメリカ人も少なくありません。今回、映画『パラサイト』受賞には、韓国のこういった努力が功を奏したといっても過言ではないと思いました。
排他的な日本映画界
Netflix米国版では次々と様々なジャンルの韓国テレビドラマやNetflixオリジナル作品が英語字幕を付けて配信されています。また、韓国内の人気映画の多くも一年後くらいにはNetflixや他の配信サービスで鑑賞することが出来ます。
その一方で日本映画は英語字幕がつけられた作品が非常に少ないです。また、Netflixなどでは、アニメがメインです。アニメ以外の興味深い日本映画の予告編やレビューを見つけても、英語字幕付きはどこで観られるのだ、と日本映画ファンの不満の声をオンライン上でも、また実際に筆者の周りでもよく見聞することです。
英語字幕付きが見つかったとしても、1作、30ドル以上も払ってオンラインで購入しなくては観られないということでは、敷居が高く誰もが気軽に観てみようという気にはなりません。
日本でいくら良い作品が公開されていても、日本語の分かる人だけが、日本の中だけで観ればいいという排他的な態度では、韓流に人気が集まるのも仕方がないでしょう。
日本映画が忘れられてしまう前に
日本映画界の現状について、今、日本を代表する名監督、是枝裕和監督は、「良くも悪くも、日本映画は国内のマーケットだけで投資を回収できる可能性がある。なので、海外に出て行こうとする意欲が作り手にも配給会社にもありません」と現代ビジネスウェブ版のインタビューで述べています(※)。
是枝監督は更に、「そうなると企画が国内で受けるものに特化してくる。この状況に強い危機感を感じます」、「40歳以下の若手映画監督の名前を海外で聞くことは、ほとんどありません。このままでは、日本映画自体が世界から忘れ去られてしまう」と懸念を示しています。
是枝監督、黒澤明監督、小津安二郎監督といった映画史を代表する名監督の名作に魅かれた日本映画ファンが世界中に大勢存在し、新しい作品にも興味を持っているというのに、製作しても世界に公表せず、埋もれさせてしまうのは非常に勿体ないです。
著作権、収益の分配など色々とビジネス上の規制があることとは思います。しかし、積極的に世界に広めていく手段を考えていかなければ、是枝監督が懸念するように、本当に日本映画は忘れ去られてしまいます。
まずは世界中の日本映画ファンのリクエストに応えるためにも、配信サービスが浸透した今、韓国のようにもったいぶらず、有名無名問わず、様々な作品に英語字幕をつけて配信することは出来ないものでしょうか。
世界中で観られるようになれば、役者にも、若手監督にもやりがいがでて、日本映画界が活気あふれるのでは。
今回、韓国に先を越されたことをきっかけに、日本映画業界のやる気に火がついてくれることに期待します。
【参考】
(※)「邦画大ヒットの年に是枝裕和監督が「日本映画への危機感」を抱く理由」現代ビジネス