この記事の読みどころ

  • 5月24日に可決された確定拠出年金法の改正により、今まであまり普及が進んでこなかった「個人型確定拠出年金」の仕組みが変わります。
  • 年金制度の概要を踏まえつつ、今回の法改正での3つの大きな変更点を紹介します。
  • 確定拠出年金は、資産運用の目的が老後資金の準備である場合、メリットの方がデメリットよりもはるかに大きい制度です。加入を検討する場合には、複数の金融機関のプランを比較することをおすすめします。

けっこう大きなインパクトがある確定拠出年金法の改正

先週は、伊勢志摩サミットやオバマ大統領の広島訪問で持ちきりの週となりましたが、その裏側では国会が粛々と開催されていて、多くの法案が可決されました。そのうちの1つに、「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」の可決(5月24日)があります。資産運用をされる人にとっては、けっこうインパクトの大きい法改正となります。

参考:「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案の概要」(厚生労働省)

使われてこなかった個人型確定拠出年金

複雑な日本の年金制度は、ざっくり言うと、(1)20歳以上が加入する国民年金(基礎年金)はみんな同じ、(2)立場によって基礎年金に上乗せされるものがあったりなかったりする、という形になっています。

給付を受ける年ごろになった時、いろいろな上乗せがあって一番手厚くもらえそうな人は、民間企業に勤める人たち(第2号被保険者、以下、勤め人)です。(1)の国民年金の上に厚生年金保険*が上乗せされます。加えて、勤め先が制度を整えていれば、確定拠出年金(企業型DC)か確定給付企業年金(DB)のどちらかが上乗せされ、最大で3階建てとなります。

* 厚生年金保険はすべての法人に加入義務がありますが、未加入の法人も多く存在するというのが実態です。

公務員には企業型DCやDBはありませんが、(1)の国民年金と厚生年金保険は必ずあります(従来の共済年金は厚生年金保険に統合)。その上に年金払い退職給付が上乗せされますから、変則の3階建てとなり、勤め人に準じていると言って良いでしょう。

対して、第1号被保険者と呼ばれる自営業者などの人たち(以下、自営業者)、第3号被保険者と呼ばれる会社勤めの人たちの被扶養配偶者(以下、配偶者)は、基本的には国民年金のみです。これだと、いざ給付を受ける時に、自営業者と勤め人との間でのもらえる額の差が歴然です。そのため、自営業者は、任意で国民年金基金や個人型確定拠出年金(個人型DC)**をつけることが可能です。

** 個人型DCは、自営業者だけでなく、勤務先に厚生年金基金や企業型確定拠出年金の制度がない勤め人も加入することができます。

ところが、このせっかく用意されているオプションは、まったくと言って良いほど普及していませんでした。1,805万人いると言われる自営業者のうち、国民年金基金に加入しているのは2.7%の48万人、個人型DCにいたっては、1.0%の18万人しか加入していません。

今回の法改正の大きなポイント1:個人型確定拠出年金に加入できる人が増える

この個人型DCの使い勝手を良くして、もっと使われるようにしようというのが、今回の法改正の趣旨になります。

今回の改正により、ほぼ自営業者のみに限られていた加入対象は、配偶者、公務員、さらには、一定の条件を満たした勤め人にまで広がることになりました。国民年金の保険料をきちんと納付していれば、けっこう多くの人が対象になると思われます。

今回の法改正の大きなポイント2:小規模事業主掛金納付制度

もうひとつの大きな変更として、「小規模事業主掛金納付制度」の創設があります。事業主は、個人型DCに加入している従業員に対して、追加で掛金を拠出することができるようになります。その際、拠出分を事業主の損金に算入することができ、さらに、その拠出分を従業員の給与所得に含めなくて良いという扱いになります。

事業主にとっては法人税を少なくできることが、従業員にとっては拠出された分には所得税がかからないことが、それぞれメリットになります。これは、従業員100人以下の中小企業が対象となりますが、事業主が掛金を追加拠出することで、企業型確定拠出年金制度を導入したのと同じになるというものです。

今回の法改正の大きなポイント3:ポータビリティの拡充

これまで、転職や退職に伴い、加入していたDCはどうなるのか、という問題がありました。たとえば、企業年金の制度がない会社に勤めているために、個人型DCに加入していたAさん。企業型DCがなくDBしかない会社に転職すると、資金の移行ができませんでした。こうなってしまうと、今まで貯めてきた資金の運用はできますが、新しく掛け金を拠出することができず、一方で、口座管理手数料はかかり続ける状況になっていました。

複数の制度が併存していたがために生じていた問題ですが、今回の法改正によって、かなりの部分が解消されることになりそうです。上のケースでは、企業年金の制度がある会社に転職する場合でも、個人型DCに加入・継続することが可能になります。

確定拠出年金のメリットとデメリット

長期の資産運用においては、手数料と税金が少ないほど運用成績(リターン)は上がります。複利効果を考えると、長期であるほど、その差は大きくなります。その意味では、資産形成の目的が老後資金の準備である場合、企業型でも個人型でも、確定拠出年金は力強いツールとなります。

それは、(1)運用益が全額非課税となる、(2)掛金が所得控除の対象になる、(3)受給時にも控除される枠がある、といったように、節税メリットが大きいためです。

もちろん、デメリットもあります。たとえば、原則60歳になるまで掛け金は引き出せません。日々の余剰資金の範囲内にとどめておくことが不可欠です(掛け金の金額は変更できるので、ある程度は柔軟に対応できます)。さらに、運用がうまくいかない場合は、受給される金額が掛け金の総額を下回ることもあります。

まとめ

確定拠出年金にもデメリットはありますが、老後資金の準備が目的の場合、こうしたデメリットよりもメリットの方がはるかに上回ると考えられます。

加入対象の拡大は、2017年1月からです。そのため、今後半年くらいは、各金融機関も「ぜひうちで」と色めき立っていると思われます。手数料も、選択できる金融商品の品ぞろえも、金融機関によってまちまちですから、個人型DCの加入を検討する場合は、必ず複数の金融機関のプランを比較することをお勧めいたします。

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藤野 敬太