とある会社に勤務する中堅社員の主人公。彼は今、少し焦っていました。というのも、1週間前に上司である係長に送った仕事の依頼のメールの返事が、今日になっても届いていなかったからです。依頼した内容は、「自分の担当する案件に関する書類の確認・承認をしてほしい」というもの。遅くとも本日中には係長の承認印をもらって、その上の課長の承認印をもらわないと、少々ヤバいことになってしまいます。

「まさか、見てないなんてことはないよなあ…?」と思いつつ、係長に確認をする主人公。「係長、1週間前に送ったメールを確認していただけましたか?」。すると、係長の返事は「急ぎの要件か?急ぎなら、メールを送ると同時に口頭で伝えろよ。全く気が利かないな!」

「送った時は、急ぎではなかったのに…。」と心の中でつぶやきつつ、「ああ、見ていないんだな」と悟った主人公。そこで、いつものごとく脳内で妄想スイッチが入ります。

「メールを送ると同時に口頭で伝えろよ。」と係長が叫ぶと同時に、どこから入ってきたのか、スーツ姿の男性たちが、ぞろぞろと係長を取り囲みます。「な、なんだ?」と驚く係長に対し、男たちは話しかけます。
「来週〇日の16時からの会議ですが、17時に変更していただけないでしょうか?」
「先日はありがとうございました。さて、ミーティングへの件ですが…。」
「〇〇の件、添付の資料をご覧いただき、×日までにご回答をいただきたく存じます…。」

どうやら、これはメールの読み上げ。送った本人は仕事で手が離せないため、メールを送ると同時に代行業者が、受信者のもとに駆け付けて、用件を伝えてくれるというシステムのようです。しかも送ったタイミングも正確に再現してくれるものらしく、ひとりが話している途中に別の男が話し出したり、順番でもいいのに同時に話し出したりと、聞くほうにとっては、少々うるさい。煩わしくなったのか、とうとう「うるさい!離れてくれー!」と叫んで立ち上がる係長。

「うーん、でもこれだとメールのメリットが何もないよな…。」(妄想終了)