因果関係の特定を可能にするRCTのイメージ

この特定することが容易ではない因果関係を明らかにするのが、先ほどお伝えしたRCTです。それでは具体的にどのように用いられるのでしょうか。先ほどの職業訓練校の例を使って解説します。

職業訓練校の数の増加が貧困削減の原因であるとして特定するために、ここでは統計上の厳密な議論は横に置いてイメージで捉えていただきたいと思います。

まず、A国の似たような特徴(人口、年齢分布、収入分布、等々)を持った20の都市をランダムに選定します。その中から、さらにランダムに10都市を選び、その10都市では職業訓練校の数を増やします(この10都市を「トリートメントグループ」と呼びます)。一方で、選ばれなかった残りの10都市には何もしません(この10都市を「コントロールグループ」と呼びます)。

この状況で、一定の期間(3年とします)、トリートメントグループとコントロールグループの貧困率をモニタリングします。さて、その結果が次のようになったとしましょう。

上のグラフを一見すると、「職業訓練校の数を増やしたことで、貧困率が下がった」といえそうです。何もしなかったコントロールグループよりも、職業訓練校の数を増やしたトリートメントグループのほうが貧困率は下がっているわけですから。

さらに「職業訓練校の数を増やしたことで、どのくらいの貧困削減に寄与したか」を推定したい場合は以下のように見ていきます。

職業訓練校の数を増やしたトリートメントグループだけを見ていると、「職業訓練校を増やしてからαだけ貧困が削減された!」と思ってしまい、あたかも職業訓練校を増やしたことでαだけ貧困が削減された!と考えてしまいがちです。

しかしながら、何もしなかったコントロールグループでも、時間の経過とともにある程度は貧困率が下がっているのが見て取れますので、職業訓練校の数を増やしたことによる貧困削減の寄与分はその時点での差分にあたるβとなります。

このようにRCTを用いて何をすれば貧困削減に資するか(貧困削減の原因となる施策)を厳密に考えていった点が、昨年のノーベル経済学賞受賞に繋がったと言えるでしょう。