この記事の読みどころ
- 2015年度の国内自動車生産は、実質的には37年ぶりの低水準に止まりました。
- 中長期的に見ても国内生産は漸減傾向にあるため、余剰な生産能力を議論する必要があると考えられます。
- ただ、他産業への波及も大きいため、なかなか進んでいません。今回の円高進行が、そのきっかけになるか注目されます。
株価急落の中、2015年度の国内自動車生産実績が発表
日銀が追加緩和実施の見送りを発表した4月28日の午後、東京株式市場は急落し、金融市場が大騒ぎになったことは記憶に新しいところです。その28日、注目度は大きく低下しましたが、3月ならびに2015年度(2015年4月~2016年3月)の国内自動車生産台数が発表されています。実は、この結果は(特に年度)なかなか厳しいものとなっていました。
自動車産業は広い裾野を有する、他産業への波及も大きい産業
改めて簡単に説明しておきます。自動車産業は、トヨタやホンダなど完成車メーカーを頂点とするピラミッド構造を成しています。つまり、非常に広い裾野を持つ産業です。裾野が広いということは、波及効果が大きいことを意味します。特に、他の産業への波及が大きいのです。
自動車は1台当たり約2万点の部品が使われています(注:車種や数え方で違いがある)。そして、その約2万点の部品は、各々が様々な素材や部品で構成されています。したがって、自動車の生産に関しては、自動車部品産業だけでなく、素材産業、化学産業、電機産業、機械産業など多くの産業が関わっています。それ故、自動車生産は非常に重要な経済指標とも言えましょう。
2015年度は対前期比▲4%減の919万台に終わる
さて、4月28日に発表された2015年度の国内生産台数は、対前期比▲4%減の約919万台となりました。なお、同じ2015年度の国内新車販売台数は同▲7%減、輸出台数は同+2%増となっています。つまり、2015年度は、輸出は小幅伸長したものの、国内販売の大幅減少が影響した結果、生産は▲4%減に落ち込んだことになります。しかし、本当に気がかりなのは、▲4%減になったことよりも、919万台という実数そのものです。
特殊要因がなかった2015年度は実質的に37年ぶりの低水準
国内生産台数は、2009年度~2011年度にかけて非常に厳しい状況を経験しています(2009年度886万台、2010年度899万台、2011年度927万台)。ご存知の通り、この時期にはリーマンショック、東日本大震災という未曽有の危機がありました。さらに、もう1つ付け加えるならば、80円/ドル前後の超円高にも見舞われていました。
しかし、今回はこのような”特殊要因”は一切ありませんでした。もちろん、“特殊要因”の定義にもよりますが、新興国経済の減速や、消費増税影響の長期化などは特殊要因とは言えません。このように考えると、2015年度実績の919万台は1978年度(約895万台)以来、37年ぶりの低水準と見ることができます。
国内生産台数は漸減傾向が避けられない
しかも、この先の国内生産台数は再び大幅増加に転じる可能性は低いと考えられます。確かに、消費再増税が予定通り行われた場合、駆け込み需要が発生して一時的に970万台程度まで増加する局面はあり得ます。しかし、その後に大きな反動減少が起きるのは明らかです。国内の生産台数は、中長期的に見ても漸減傾向に入ったと見られます。
そこで問題になるのが、自動車メーカー各社の生産能力です。現在、国内には約1,150万台の生産能力があると推測されます(年間、以下同)。単純計算では200万台以上の余剰を抱えています。これでも、ピーク時よりは▲100万台以上減少していますが、リーマンショック前に計画・着手した新工場が稼働したりしています。この余剰生産能力の問題は、もう十数年前から議論されてきました。
今回の円高進行が、この問題を議論するきっかけになるか
ただ、生産能力の削減は、工場の規模縮小(閉鎖を含む)に伴って、大幅な雇用減少が避けられません。しかも、その影響が他の産業にも波及します。そのため、政府のみならず、とりわけ工場が立地する地方自治体は、こうした生産能力削減に神経を尖らせています。色々な意見はあるでしょうが、これも生産能力削減がなかなか進まない一因と言えましょう。
しかも、不幸なことに、直近の2~3年は、この問題に目を向けられることが少なかったように思われます。それは、円安効果によって自動車メーカーの収益が潤っていたからに他なりません。今回の円高がどの水準まで達するかにもよりますが、自動車メーカーの収益が悪化して、日本の自動車産業が抱える抜本的な問題にメスが入るならば、円高は必ずしも悪いことばかりとは言えないかもしれません。今後の推移を見守りたいと思います。
LIMO編集部