床に就いた大石さんの血圧を測る大塚さんは、大石さんに恋愛相談を持ちかけました。「好きな人がいるけど連絡を取っていない、相手も仕事をがんばっていて忙しいし邪魔したくないから」。
「仕事を理由にしちゃダメだろう」と大石さん。そうですか?と問い返すと「そうだよ、それにこんなべっぴんさんを放っとくなんて、俺が嫁にもらっちゃうぞ」。
どちらも、じわじわと心にしみてくるエピソードです。年齢を経なければ口にできない言葉は確かにあるものです。老人だからこそ言えて、意味が深くなる言葉が。
大変だけどそれだけじゃない介護のお仕事
大塚さんは特別養護老人ホームに就職して現在2年目。利用者と関わる中でおもしろい話や心に残ったできごとをイラストや漫画に描き、TwitterなどSNSで発表しています。
介護職の大変さを描いた漫画が近頃はたくさんありますが、大塚さんのイラストや漫画のように利用者との間にあった、しかもいい話を描いたものはめずらしいようです。描き始めたきっかけは何だったでしょうか。
「利用者との関わりで、毎日爆笑させてもらったり涙が出そうになるほど感動することがあり、仕事にやりがいや楽しさを感じていました。一方で身内や知人からは「なんでこんな仕事に…」と悲観的に捉えられていたので、マイナスなイメージだけではないことを伝えたいと思ったんです」
介護の仕事は、体力的にも精神的にも重労働だという「大変な」イメージを持つ人は多いでしょう。大塚さんの周囲の人もそんなふうに思っていたのかもしれません。しかし、大塚さん自身は毎日が楽しく、やりがいを感じてもいます。
「大変だけど、それだけじゃない」ということを発信するために、大塚さんは介護のイラストや漫画を描くようになり、やがてそれは『老人ホームに恋してる。』という1冊の本にまとまりました。心にじわじわとしみてくるエピソードがたくさん詰まった本です。