この記事の読みどころ

通信セクターは2016年に入り業績は総じて好調で、株価もほぼ横ばいの水準です。しかし、個別に見ると着実に業績を伸ばすKDDI(9433)に対して、復調しつつある日本電信電話(9432)とNTTドコモ(9437)、停滞感の強いソフトバンク(9984)という構図になっています。

ソフトバンクがスプリントの建て直しと新しい投資事業の成果を示せるのかが2016年3月期決算のポイントです。

いずれの会社も顧客の囲い込みと収益源の多様化を進めています。中長期の競争基盤と収益ポテンシャルを決定する重要な戦略として注目です。

好調なパフォーマンスだった通信株

今年に入り通信株は堅調です。TOPIXは2015年末から2016年4月末まで▲13%下落しましたが、日本電信電話は+1%、KDDI+1%、NTTドコモ+5%と好調です。ソフトバンクは▲3%とやや下落していますが、市場全体から見れば堅調と言えるでしょう。

実は、アベノミクスが始まって以来で見ても通信株は大変堅調でした。2011年末から2016年4月末までの期間、TOPIXの+84%上昇に対して日本電信電話は+147%、KDDI+284%、NTTドコモ+84%、ソフトバンク+164%上昇という好成績でした。

抜群の業績安定感がその背景

いずれの企業も収益の基盤は国内です。確かに人口が減少に転じ、携帯電話・スマホの浸透率も極めて高くなったため、業績の伸びしろがないように思われます。

しかし、電波という希少資源を基本的に3社で押さえていること、データ通信に対する需要が増加の一方であること、通信品質や端末の点で各社に差がなくなったこと、ユーザーの囲い込みと固定化(他社へ移行しないようにすること)が進んだことから、収益管理を間違えなければしっかり利益が出る業界構造にあると思われます。

確かにMVNOの台頭や、総務省からの値下げ圧力もありますが、今のところこの業界構造を劇的に変えていくことにはつながっていません。

ドコモの2016年は「飛躍の年」へ

NTTドコモは一足早く2016年3月期決算を発表しました。会社予想を上回る好決算で着地し、その中身も顧客数、顧客の利用料金、コスト削減、設備投資と通信品質などさまざまな点で復活を印象付ける内容です。

ドコモの営業利益は長らく8,000億円台で推移してきましたが、2015年3月期に約6,400億円まで低下するなど心配されました。しかし、2016年3月期に7,830億円まで回復し、さらに2017年3月は会社計画9,100億円を目指すことになります。

ただし、ここにはからくりがあります。減価償却費を定率法から定額法に変更することで一時的に費用が減少するからです。

会社側によれば、この一過性の影響を除いても営業利益を8,600億円にするということですので、この数字を見ても収益力の回復がわかります。こうした数字的な背景もあり、加藤社長は、決算説明会で2016年をドコモ飛躍の年にしたい、と抱負を述べています。

実は、長らく移動体通信事業はドコモ一人負けの時代が続きました。これはドコモ自身の戦略が機能しなかった面もありますが、他方で制度的に自由に動けなかったという面もありました。

たとえば、KDDIは固定回線とモバイル回線のセット化であるauスマートバリューを着々と進めて顧客の固定化と利便性の訴求をしていましたが、ドコモはなかなかこれができませんでした。潮目が変わったのは昨年、NTTの光回線をドコモのモバイル回線とセット化できるようになってからです。

今後ドコモは既存顧客をしっかりグリップし、モバイル、固定回線、あるいは電力などをセット化して顧客を定着化させながら、コンテンツ事業を拡大し、かつユーザーの財布に近づく(dポイント、dカード)ことで顧客当たりの利益を高めることが重要になります。この戦略がしっかり成果を上げていけるのかが注目点になるでしょう。

変わる日本電信電話(NTT)

NTTも変化を続けています。現在の中期経営戦略の主要目標が一株利益(2018年3月期350円以上)であることがその象徴です。ドコモで述べたように、NTTの光回線とモバイル回線のセット化が可能になったことから、効率よく顧客基盤を固めることができるようになりました。

さらに全て自前でやるというスタンスから、パートナーと組んで稼ぐという収益志向も強まっています。伝統があり、大きな組織であるNTTがどう収益体質を高めるのか、今後も目が離せません。

とはいえ、成長の柱の1つでありM&Aを進めているグローバル・クラウドサービスなどではまだまだ収益性は低く止まっています。NTTのグローバル化の成否がかかるポイントですので、この事業の収益性改善が最大の注目点でしょう。

また、NTTも減価償却費を定額法に変更します。一時的に利益のかさ上げにつながると思われますが、その利益の原資で中長期的な収益基盤強化の手を打つことができるのかも、ぜひ押さえておきたいポイントです。

一歩先を行くKDDI

さて、これまで絶好調だったKDDIですが、ドコモが光回線とモバイルをセット化できるように変わったことで、新しい局面に入ると見ておくべきでしょう。

つまり、顧客数のシェア拡大というよりも、顧客の深堀りの成果が問われます。しかし、KDDIはいち早くモバイルと固定網のセット化を成功させ、コンテンツ、金融などでユーザーの囲い込みを進めています。とくにau Walletの今後に大いに注目したいと思います。

スプリントとヤフーの進捗に期待がかかるソフトバンク

最後になりますが、ソフトバンクはスプリントの再建に時間がかかっていることが株価伸び悩みの最大の背景と言えそうです。

スプリントは通信品質の向上と消費者への価格訴求を同時に実現しつつ、コストも抜本的に下げるというやさしくはないチャレンジをしていると思います。しかし、さまざまな施策は既に打たれているので、来る決算ではその成果を数字で確認できるかが問われます。

また、既に決算を発表したヤフーは、広告ビジネスではPCからスマホへのユーザーインターフェースの移行に成功しましたが、Eコマースではまだ先行投資期にあると言え、利益はやや足踏み気味です。

ソフトバンクの投資先には大変有望な先が多いと思われます。この楽しみに投資家の視線を向けるためにも、課題のスプリントとヤフーで次のステージが見えるのか、大いに関心を寄せたいと思います。

【2016年5月4日 投信1編集部】

■参考記事■

>>失敗しない投資信託の選び方:おさえるべき3つのNGと6つのポイント

>>ネット証券会社徹底比較:株も投資信託も気になるあなたへ

>>資産運用初心者に分かりやすい日本株投資信託の見分け方

LIMO編集部