そもそも、住宅ローンを組む際(金融機関から見ると貸し付けの際)は、厳格な審査が行われているはずです。確かに、スルガ銀行の不正な過剰融資事件に代表されるように、個人向け融資を伸ばそうとする金融機関は増えてきました。

それでも、低所得層など返済が滞る懸念がある人に、最初から住宅ローンの融資をする可能性は低いはずです。本来ならば、3%とか4%の破綻比率は考え難いのです。

しかしながら、現実には住宅ローンの返済に困窮する債務者は後を絶ちません。その背景には、住宅ローンを組んだ後に、外的要因(自営業者の会社経営不振、投資運用失敗、ギャンブル等の浪費)、健康問題(病気、ケガによる収入減)、職場問題(リストラ、転職の失敗、退職金の減額)、家庭問題(離婚、介護、年金減額)などによって、借入債務者の財政状況が大きく悪化することが珍しくなくなったことがあります。

しかも、返済が順調に進んでいたにもかかわらず、気が付いたら返済困難に陥ってしまっていたケースが少なくないようです。

住宅ローン返済に困窮する債務者の最後の一手は売却だが…

住宅ローンの返済が滞り、いよいよ破綻が迫った時、多くの債務者が“最後の一手”として考えるのが売却による返済です。つまり、今現在住んでいる自宅を売却して、その売却金額を返済に充てるというものです。

しかし、この考えは甘過ぎると言わざるを得ません。最大の理由は、その自宅に(金融機関の)抵当権が設定されているからです。抵当権が設定されたままでは不動産を(勝手に)売却できません。自宅の売却には金融機関の許可が必要になります。

「アンダーローン」と「オーバーローン」はどのような状況か

ここで重要になるのが、「アンダーローン」と「オーバーローン」という状況です。簡単なモデルで考えてみましょう。

たとえば、何らかの理由(リストラや病気等)によって収入が激減し、住宅ローン残高3,000万円の返済が難しくなったとします。

この時、自宅の評価額(=市場取引額。相続税評価額ではない)が3,500万円の場合、金融機関は抵当権を抹消して売却を承諾するでしょう。なぜならば、金融機関は残額3,000万円を回収できるからです。これが「アンダーローン」です。

しかし、もし自宅の評価額が2,500万円の場合、単純に売却しても金融機関は残債3,000万円を回収することはできず、▲500万円の不良債権が発生します。

金融機関は、この不足分▲500万円の返済を繰り延べたり、新たなローンとして設定したりするような生温いことはしません。自宅は強制的に競売に掛けられ、自己破産を迫られます(もう自己破産するしかありません)。

あるいは任意売却の手続きが取られますが、どちらにしても抵当権設定者である金融機関の主導で行われます。これを「オーバーローン」と称します。

“まさか、そこまではしないだろう”、“一定の猶予期間はあるだろう”という希望的観測はハッキリ言って楽観的過ぎます。

住宅ローンを組んでいる方(借入債務者)にとっては、アンダーローンの状態が望ましいことは言うまでもありません。

しかしながら、最初からオーバーローンで借入するケースが多いため、アンダーローンの状況は稀とまでは言いませんが、非常に少ないのが実情です。それでも、オーバーローンならば、常日頃からローン残高と自宅の評価額を把握しておくべきです。

元利均等返済はローン残高の減り方が遅くなる