世帯年収1000万円と聞けば、多くの人は余裕のある家庭を思い浮かべるのではないでしょうか。そんな世帯にも、遠方に住む親が生活保護を申請し、役所から「扶養照会」が届くことがあります。

私が金融の現場を見てきた経験からいえば、家族のお金の問題は、気持ちだけで決めると後で無理が出やすいものです。制度の仕組みと、自分の家計と、親の手元に残るお金。この3つを数字で確かめてからでも、答えは遅くありません。

ここでは、世帯年収1000万円の共働き子育て世帯と、年金で暮らす68歳の母をモデルケースに、扶養照会と仕送りの考え方を整理します。

※編集部注:本記事のケースは、公的統計や制度をもとに設定した試算例です。

扶養照会とは何なのか?援助できるかを確かめる手続きで、生活保護の「要件」ではない

まずは、扶養照会の位置づけからみていきましょう。

生活保護は、預貯金や働く力、年金など、使えるものをすべて生活に生かすことが前提の制度です。そして、親族による扶養は生活保護に優先する、とされています(厚生労働省「生活保護制度」)。扶養照会は、この扶養ができるかどうかを、福祉事務所が親族に確かめる手続きです。

ただし、ここで大事なのは、「優先する」と「要件である」は違うということです。厚生労働省の事務連絡では、扶養義務者の扶養は「保護の要件」とは異なる位置づけで、扶養の可否が保護を受けられるかどうかの判定に影響するものではないと整理されています(厚生労働省 社会・援護局保護課「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」2021年2月26日)。

つまり、子が「援助できない」と答えたことだけで、親が生活保護を受けられなくなるわけではありません。

また、この事務連絡では、一定期間(たとえば10年程度)音信不通の場合など、扶養が期待できない親族には、基本的に扶養照会を行わない取り扱いも示されています。以前は「20年間音信不通」が例として挙げられていたものです。

世帯年収1000万円は多いのか?子育て世帯の平均を約140万円上回るが、手取りは多くても月約68万円

では、世帯年収1000万円とは、日本の中でどのくらいの水準なのでしょうか。厚生労働省の調査では、世帯の所得は次のとおりです(厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」)。

  • 【児童のいる世帯の平均所得】857万3000円
  • 【全世帯の平均所得】575万2000円(中央値は451万円)
  • 【所得1000万円以上の世帯】全世帯の約14%

※編集部注:所得は2024年の1年間の税込みの収入。1000万円以上の割合は、調査の所得分布の図から各階級を足し合わせた参考値です。

世帯年収1000万円は、子育て世帯の平均を約140万円上回り、全世帯で見れば上位約14%に入る水準です。周りから「余裕がある家庭」と見られやすいのも、無理はないでしょう。

もっとも、年収はそのまま使えるお金ではありません。

総務省の家計調査によると、二人以上の世帯のうち勤労者世帯では、毎月の実収入65万3901円のうち、12万1493円が税金や社会保険料です(総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」)。収入の約19%にあたります。

この割合を年収1000万円に当てはめると、手取りは年約814万円、月約68万円です。ただし、所得税は収入が多いほど税率が上がる仕組みなので、年収1000万円では実際の手取りはこれより少なくなります。月約68万円は、あくまで「多くても」の数字ということになります。

※編集部注:家計調査の勤労者世帯の平均的な負担割合をもとにした試算。実際の手取りは、夫婦それぞれの年収や家族構成、勤務先の健康保険などで変わります。

世帯年収1000万円で仕送りの余裕はあるのか?子2人の教育費だけで月約9万~26万円

手取りの月約68万円から、子育て世帯にはどうしても大きな支出が2つあります。教育費と住宅ローンです。

まず教育費です。文部科学省の調査によると、子ども1人あたりの年間の学習費総額(学校の費用、給食費、塾や習い事など)は次のとおりです(文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します」2024年12月25日)。

  • 【公立小学校】年33万6265円
  • 【公立中学校】年54万2475円
  • 【私立中学校】年156万0359円

中学生が2人いると、公立でも年約108万円、月にすると約9万円。私立なら年約312万円、月約26万円になります。
次に住宅ローンです。4000万円を金利1.0%、35年で借りた場合、毎月の返済額は約11万3000円です。

※編集部注:元利均等返済、ボーナス返済なし、金利が変わらないと仮定した試算。

手取りの月約68万円から、公立中学生2人の教育費(約9万円)と住宅ローン(約11万3000円)を引くと、残りは約48万円。ここから食費、光熱費、保険料、通信費などの生活費、そして大学進学に備えた貯蓄や自分たちの老後資金も用意する必要があります。私立中学なら、残りは約31万円まで減ります。

年収だけを見ると余裕がありそうでも、子育て世帯の家計は固定的な支出が大きく、毎月決まった額を仕送りに回すのは簡単ではないといえるでしょう。

年金月約7万円の母が生活保護を受けると、いくら支給されるのか?地方なら月約3万円、都市部なら月約6万1000円
では、親の側はどうなるのでしょうか。生活保護では、国が定める基準で計算した最低生活費と収入を比べ、収入が足りない分が保護費として支給されます(厚生労働省「生活保護制度」)。

ここでは、母は68歳の一人暮らしで、収入は国民年金(老齢基礎年金)の満額、月7万608円だけとします(日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」2026年4月1日)。住まいは賃貸です。

厚生労働省の資料では、高齢者単身世帯(68歳)の生活扶助基準額と住宅扶助の上限額の例が、地域ごとに示されています(厚生労働省 第52回社会保障審議会生活保護基準部会 参考資料「生活保護制度の概要等について」2025年6月24日、令和7年4月1日現在の額)。これをもとに、家賃が住宅扶助の上限ちょうどだとして計算すると、次のようになります。

  • 【地方(3級地-2)】生活扶助6万8450円+住宅扶助3万2000円=最低生活費10万450円。年金を引いた保護費は月約3万円(2万9842円)
  • 【都市部(1級地-1、東京都区部など)】生活扶助7万7980円+住宅扶助5万3700円=最低生活費13万1680円。年金を引いた保護費は月約6万1000円(6万1072円)

※編集部注:家賃を住宅扶助の上限額と同じとし、冬季加算や医療・介護などの扶助、年金から差し引かれる保険料などは含めない試算。基準額は改定されることがあり、実際の支給額は福祉事務所が個別に決めます。

国民年金だけで暮らす親の場合、生活保護で補われるのは月数万円ということになります。そして、この「月数万円」という規模が、次の仕送りの話で大きな意味を持ちます。

仕送りをすると生活保護費はどうなるのか?月3万円送れば保護費が月3万円減り、母の手元の額は変わらない

厚生労働省は、生活保護で収入として認定するものに、就労収入や年金と並んで「親族による援助」を挙げています(厚生労働省「生活保護制度」)。つまり、子からの仕送りは母の収入として扱われ、その分だけ保護費が減ることになります。

都市部のケース(最低生活費13万1680円)で、仕送りの額ごとに見てみましょう。

  • 【仕送りなし】保護費は月約6万1000円、母の手元は月13万1680円
  • 【仕送り月3万円】保護費は月約3万1000円、母の手元は月13万1680円
  • 【仕送り月5万円】保護費は月約1万1000円、母の手元は月13万1680円

保護費を上回らない範囲であれば、子が仕送りをしても、母の手元に残るお金は変わらないということです。仕送りは、母の生活を上乗せするのではなく、保護費の一部を置き換えるお金になります。

一方、子の側の負担は確実に積み重なります。月3万円なら年36万円、10年続ければ360万円です。子の大学費用や、自分たちの老後資金に回せたかもしれないお金です。

もっとも、仕送りに意味がないということではありません。

地方のケース(最低生活費10万450円)では、月3万円の仕送りで母の収入は10万608円となり、最低生活費を上回ります。この場合、母は生活保護を受けずに暮らせる計算になります。ただし、生活保護を受けなければ、医療や介護の扶助も受けられなくなります。仕送りで保護から外れることが本当に親のためになるのかは、医療費の見通しも含めて考える必要があります。

※編集部注:仕送りの収入認定や保護の要否は、福祉事務所が個別に判断します。

扶養照会にはどう答えればよいのか?家計の状況を具体的に書き、お金以外の支え方も伝える

では、実際に扶養照会が届いたら、どう答えればよいのでしょうか。

厚生労働省の実施要領では、扶養できるかどうかを調べる際に、世帯の構成や職業、収入、課税所得などを確認するとされています。「年収がいくら以上なら月いくら援助すべき」という一律の基準があるわけではありません。

そのため、回答では次の点を具体的に伝えることが大切です。

  • 【家族の状況】子どもの人数や年齢、共働きかどうか
  • 【固定的な支出】住宅ローンの返済額、教育費など
  • 【援助できる範囲】継続的な金銭援助が難しい理由と、できることがあればその内容

大事なのは、援助はお金だけではないということです。定期的に電話をかける、体調を崩したときに駆けつける、介護の手続きを手伝う。こうした支え方も、親の生活にとっては大きな意味があります。金銭の援助は難しくても、そうした形での関わりを伝えることはできます。

援助を断ることに後ろめたさを感じる方もいるでしょう。しかし、自分の家計が無理をして破綻すれば、将来、自分たちの老後が危うくなります。家族それぞれの生活を守るために制度がある、と考えてよいのではないでしょうか。

※編集部注:扶養照会の具体的な取り扱いは自治体によって異なる場合があります。不明な点は、照会を送ってきた福祉事務所に確認しましょう。

アナリストからの一言:仕送りの前に「親の手元に何が残るか」と「自分の老後資金」を確かめる

親の生活が苦しいと知れば、「少しでも仕送りしたい」と考えるのは自然なことです。しかし、ここまでの試算で見たとおり、生活保護を受けている親への仕送りは、保護費の範囲内であれば親の手元を増やしません。都市部のケースで月3万円を送っても、母の手元は13万1680円のままでした。

一方で、世帯年収1000万円の家計にも、教育費と住宅ローンという大きな固定費があります。公立中学生2人と住宅ローンだけで、手取りの約3割が消える計算です。さらに、この世代は自分たちの老後資金も自分で用意しなければなりません。

家計の世界でも企業の世界でも、限られたお金をどこに配分するかを決めるときには、「そのお金で何が変わるのか」を確かめるのが基本です。仕送りについても同じで、親の手元に残る金額が変わらないなら、そのお金を子の教育費や自分たちの老後に回す選択も合理的といえるでしょう。

もちろん、親が保護の対象外になるほど仕送りをすれば、親の生活は生活保護を使わずに成り立ちます。それを望む家族もいるはずです。ただ、その場合は医療費や介護費の負担まで含めて、長く続けられるかを考えておきたいところです。
私は、親の生活保護と仕送りの問題は、「いくら送れるか」より先に制度をしっかり理解した上で、「送ったお金で親の生活の何が変わるのか」を確かめることが出発点だと考えています。

まとめ

扶養照会は、親族が援助できるかを確かめる手続きです。援助は生活保護の要件ではなく、世帯年収1000万円の世帯でも、家計の状況を伝えて断ることはできます。年収1000万円でも手取りは多くて月約68万円、子2人の教育費だけで月約9万~26万円かかります。

また、仕送りは親の収入として扱われ、送った分だけ保護費が減ります。年金月約7万円の母の保護費は都市部で月約6万1000円。その範囲で仕送りをしても、母の手元の額は変わりません。送るかどうかは、親の手元に何が残るかと、自分たちの家計と老後資金を並べて考えるとよいでしょう。

※本記事は情報提供を目的としています。ケースは公的統計や制度をもとに設定した試算例で、試算は一定の前提に基づく概算です。生活保護の基準額や扶養照会の取り扱いは改定や自治体の運用によって異なる場合があります。個別の状況については、お住まいの地域の福祉事務所にご確認ください。

参考資料

青山 諭志