3. 共働きの妻ほど、65歳以降の遺族厚生年金は少なくなる

65歳以降の遺族厚生年金で意外と知られていないのが、「自分の老齢厚生年金が先に支給される」というルールです。

遺族厚生年金は、計算上の額から自分の老齢厚生年金を差し引いた分だけが支給されます。そのため、会社員として長く働いてきた妻ほど、遺族厚生年金として上乗せされる額は小さくなります。

妻自身の老齢厚生年金が多いほど、遺族厚生年金の上乗せは小さくなる2/2

妻自身の老齢厚生年金が多いほど、遺族厚生年金の上乗せは小さくなる

出所:日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」を参考にLIMO編集部作成

3.1 妻の老齢厚生年金が年30万円・100万円・150万円の場合で比べる

夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)を年120万円、妻の老齢基礎年金を年80万円として、妻自身の老齢厚生年金の額だけを変えてみます。

  • 年30万円の場合:遺族厚生年金は60万円で、受け取る年金の合計は年170万円
  • 年100万円の場合:計算上の額は90万円×3分の2+100万円×2分の1=110万円。ここから100万円を差し引いた10万円が遺族厚生年金で、合計は年190万円
  • 年150万円の場合:計算上の額は60万円+75万円=135万円で、自分の老齢厚生年金150万円を下回るため、遺族厚生年金は支給されない。合計は年230万円

妻自身の老齢厚生年金が30万円から100万円へ70万円増えても、受け取る年金の合計は20万円しか増えない計算です。

3.2 ひとりになった後の年金も世帯単位で見積もっておく

共働きの世帯では、配偶者が亡くなった後も「夫婦2人分の年金の多く」を受け取れると考えている方もいるかもしれません。しかし上の試算のように、自分の年金が多いほど遺族厚生年金の上乗せは小さくなります。

夫婦の老後資金を考えるときは、2人そろっている期間の年金だけでなく、ひとりになった後の年金も世帯単位で見積もっておくと安心です。

4. 遺族年金を受け取る権利があると、老齢年金は原則繰下げできない

遺族年金を受け取る方が注意したいのが、老齢年金の繰下げ受給との関係です。

日本年金機構の遺族年金ガイドによると、原則として66歳に到達する前に遺族年金を受け取る権利を得た場合、老齢年金を繰り下げて受給することはできません。

また、66歳以降の繰下げ待機中に遺族年金の受給権を得た場合は、その時点で増額率が固定されます。それ以上手続きを遅らせても、増額率は増えません。

なお、令和7年の法律改正により、令和10年3月31日時点で遺族厚生年金を受け取る権利があり、65歳に到達していない方(昭和38年4月2日以降生まれ)は扱いが変わります。

  • 老齢厚生年金:遺族厚生年金の請求を行っていない場合に限り、繰下げ請求ができる
  • 老齢基礎年金:遺族厚生年金の請求の有無にかかわらず、繰下げ請求ができる

繰下げで年金を増やす計画を立てている方は、配偶者に万一のことがあった場合の扱いもあわせて確認しておきましょう。

5. 2028年4月から遺族厚生年金の仕組みが見直される予定

令和7年に成立した年金制度改正法により、遺族厚生年金は2028年4月から見直される予定です。主なポイントは次の3つです。

  • 18歳年度末までの子のいない60歳未満の配偶者は、男女とも原則5年間の有期給付になる(女性は20年かけて段階的に実施され、2028年度に40歳以上になる方は対象外)
  • 有期給付には「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の約1.3倍になる
  • 中高齢寡婦加算は、新たに受け取る方の額が25年かけて段階的に縮小される

すでに遺族厚生年金を受け取っている方や、60歳以降に受給権が発生する方、18歳年度末までの子を養育している間の給付内容は変わりません。

見直しの対象になるかどうかは、「亡くなった時点の年齢」「子どもの有無」「受給権が発生する時期」によって細かく分かれるため、単純に年齢だけで判断しないよう注意が必要です。

また、5年の有期給付が終わったあとに関わる仕組みとして「死亡分割」があります。これは亡くなった配偶者の厚生年金記録の一部を分割して引き継ぐ仕組みで、上乗せされた分は遺族厚生年金としてではなく、遺された配偶者自身の将来の老齢厚生年金に反映されます。

6. 遺族年金の請求手続きで確認しておきたいこと

遺族年金は自動的に支給が始まるものではなく、年金請求書の提出が必要です。

  • 提出先:年金事務所または街角の年金相談センター(遺族基礎年金のみを請求する場合は、お住まいの市区町村役場)
  • 添付書類:戸籍謄本や死亡診断書など。マイナンバーの登録状況や子の有無などで異なるため、事前に問い合わせておく
  • 支給開始までの目安:請求書の提出から1〜2カ月程度で年金証書が届き、その約1〜2カ月後から振り込みが始まる

遺族年金は、亡くなった月の翌月分から受け取れます。手続きには時間がかかることもあるため、早めに準備を始めることが大切です。

夫婦それぞれの年金の加入記録は、ねんきん定期便や「ねんきんネット」で確認できます。いざというときに慌てないよう、一度記録を見ながら遺族年金の目安を計算しておくとよいでしょう。

7. まとめ

遺族年金は、子どもの有無や配偶者の年齢、自分自身の年金額によって受け取れる額が大きく変わります。今回の試算では、子育て中の妻で月約15万円、子のいない50歳の妻で月約9万円でした。

65歳以降は自分の老齢厚生年金が優先されるため、共働きで長く働いてきた方ほど、遺族厚生年金の上乗せは小さくなります。

もしものときの生活費を、遺族年金だけでまかなえるとは限りません。まずは夫婦それぞれのねんきん定期便で加入記録を確認し、足りない部分を貯蓄や生命保険でどう補うか、家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

なお、試算の金額は一定の仮定に基づく目安です。実際の受給額は加入記録や家族構成によって異なるため、詳しくは年金事務所などで確認してください。

参考資料

和田 直子