4. この調査を読むときの注意点は3つ

日銀の調査結果を家計の判断に生かすうえで、押さえておきたい注意点が3つあります。あわせて、見落とされやすい収入の数字も確認しておきましょう。

4.1 注意点1:「上がった」の95.5%は、回答者の体感を合計した数字

95.5%の内訳は、「かなり上がった」の68.9%と「少し上がった」の26.6%です。設問では物価が「あなたが購入される物やサービスの価格全体」と定義されており、買う品目や頻度によって実感の中身は人それぞれ異なります。

回答者の構成も、母集団と完全には一致しません。同調査の属性分布では、20代が6.8%(母集団は11.5%)、60代が18.8%(同14.4%)でした。

4.2 注意点2:1年後予想の低下は、「下がる」が増えたからではない

「上がる」は90.4%から88.6%へ下がりましたが、「下がる」と答えた人は6月も9月も1.5%で変わっていません。一方、「ほとんど変わらない」は6.7%から8.5%へ1.8ポイント増えました。「上がる」の減少幅と同じだけ、「ほとんど変わらない」が増えた形です。

4.3 注意点3:実感の平均プラス16.2%と消費者物価指数は、単純に比べられない

日銀の調査で、1年前と比べた物価の変化率の平均値はプラス16.2%でした。一方、総務省が2026年9月18日に公表した8月分の全国消費者物価指数は、総合が前年同月比プラス1.9%で、7月分も同じ1.9%です。

両者は物差しが異なります。調査が尋ねたのは、回答者が購入する物やサービスの価格全体に対する実感でした。消費者物価指数は、総務省統計局の説明によると、家計の消費構造を一定のものに固定したうえで、それに要する費用の変化を指数で示したものです。

日銀の調査には、消費者物価指数の前年比について数値のイメージがあるかを尋ねる設問もあります。「イメージを持っている」は8.3%にとどまり、その人たちが思い浮かべた数値は中央値がプラス2.0%、平均値がプラス4.3%でした。実感の数字と公的統計の数字を並べて差を論じることは、避けたほうがよさそうです。

4.4 【盲点】収入が「増えた」は19.3%でも、収入D.I.はマイナス

世帯収入の変化と収入D.I.2/4

世帯収入の変化と収入D.I.

出所:日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(第107回)」をもとにLIMO編集部作成

1年前と比べた世帯収入が「増えた」は、19.3%(6月調査は16.3%)に上昇しました。一方で「減った」は24.7%(同27.0%)あり、「増えた」を依然として上回っています。「増えた」から「減った」を引いた現在の収入D.I.は、マイナス5.4です。

日銀の注記によると、この水準は郵送調査となった2006年9月以降で最も高く、6月調査のマイナス10.7から5.3ポイント改善しました。それでもマイナス圏にあることに変わりはありません。

収入が増えた人にその理由を尋ねると(複数回答)、「定期支給額や基本給・時給が変化したから」が68.7%で最多となり、「物価の変化が収入に反映されたから」は8.2%でした。

5. 収入が増えてもゆとりが戻らないのはなぜ?家計が先に動かしている支出

世帯支出の変化3/4

世帯支出の変化

出所:日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(第107回)」をもとにLIMO編集部作成

暮らし向きの回答からは、収入が増えたと感じる人が増えても、ゆとりの実感が大きく改善していないことがうかがえます。1年前と比べた世帯の支出は、「増えた」が58.0%(6月調査は60.3%)で、「変わらない」は29.7%、「減った」は10.2%でした。

支出が増えた理由(複数回答)では、「生活関連の物やサービスの値段が上がったから」が87.7%を占めています。

5.1 家計は何を増やし、何を減らしている?

金額を増やした支出・減らした支出の上位3品目4/4

金額を増やした支出・減らした支出の上位3品目

出所:日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(第107回)」をもとにLIMO編集部作成

1年前と比べて金額を増やした支出(3つまでの複数回答)は、「食料品」が60.8%で最も多く、「日用品(洗剤、雑貨等)」の40.1%、「自動車(ガソリン等、維持費用は含まない)」の15.0%が続きました。

一方、金額を減らした支出では、「外食」が36.2%、「衣服、履物類」が32.7%、「旅行」が27.5%で上位を占めています。

支出のタイプ別では、趣味やレジャーなど選択的な支出を「減らしている」と答えた人も48.5%(6月調査は49.6%)に達しました。

今後1年間の支出を考えるうえで重視することでは、「今後の物価の動向」が70.4%で最も多い結果です。

6. まとめにかえて|物価の「見通し」より先に、家計の「固定費」と「選択的支出」を点検

日銀の調査では、物価が「上がった」と感じる人が95.5%、「ゆとりがなくなってきた」と答えた人が54.4%にのぼりました。物価の先行きは自分では動かせないため、手元の家計から点検してみましょう。

  1. 食費と日用品費の月ごとの推移を確認する:通帳や家計簿アプリで直近数か月分を並べると、値上がりの影響額が見えてきます。
  2. 選択的支出に予算の枠を決める:外食やレジャーなどは、あらかじめ上限を決めておくのが有効です。
  3. 固定費を見直す:通信費や保険料などの契約内容を確認し、不要なものがないか点検しましょう。

予想の数字に一喜一憂するより、毎月の支出を自分で把握し直すことが、家計を守る第一歩になります。

熊谷 良子

物価の先行きは、誰にも正確には読めません。だからこそ、自分の家計で確かめられる部分から手を付けるのが近道です。まずは直近数か月の食費と日用品費を並べて、どのくらい増えたのかを把握してみてください。

次に、毎月かかっている通信費や保険料といった固定費を、年に一度は見直す習慣を持つと、物価が動いても慌てにくくなります。外食や旅行などの楽しみまで一律に削る必要はありません。予算の枠を決めたうえで上手に使う工夫も、家計管理の大切な一部です。

数字に振り回されすぎず、できることから一つずつ進めていきましょう。小さな見直しの積み重ねが、半年後、1年後の安心につながります。

参考資料