「個人向け国債は、金利のつく預金」ー——そんな捉え方をされることが多いと思います。

元本が戻ってくる、値動きがない、銀行でも買える。預金の延長線上にある商品だと受け取るのは、自然なことです。

ただ、資産配分という文脈に置いてみると、別の姿が見えてきます。 国の年金運用機関GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がどう扱っているかを見ると、それがはっきりします。

1. GPIFは資産の約25%を国内債券で運用している

GPIFは317兆円を、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式にざっくり25%ずつ配分しています。国内債券だけで約79兆円です。

2026年度第1四半期末の実際の構成割合は25.59%。金額にすると81.3兆円になります。しかもモデルポートフォリオからの乖離許容幅は±6%と定められていて、19%を下回ることも31%を上回ることも許していません。

これは、資金のなんとなく余った分を置いている、という扱いではありません。 4分の1を占めるべき資産として、明確に位置づけられています。

※資産配分の決め方は「国の年金運用機関GPIFは、なぜ4資産に25%ずつ分けるだけなのか?」で解説しました。

2. 期待リターンがわずか0.5%の資産を、GPIFはなぜ4分の1も持つのか?

ここで不思議に思われるかもしれません。

GPIFが基本ポートフォリオの策定時に置いた国内債券の期待リターンは、過去30年投影ケースで0.5%です。国内株式の4.8%、外国株式の5.4%と比べると、ずいぶん見劣りします。

増やすことが目的なら、持つ理由が薄い資産です。それでも4分の1を置いている。

理由は、同じ資料に公開されている相関係数にあります。

国内債券と国内株式の相関は、▲0.254。つまり、逆に動く関係だということです。株式が下がる局面で国内債券の価格が上がれば、全体の下落が和らぎます。

つまり国内債券は、それ自体で増やすために持つ資産ではありません。 他の資産が揺れたときに、全体の振れを抑えるために持つ。そういう役割を与えられています。

※各資産の期待リターンと標準偏差の前提は「年利5%という前提は妥当か?」で整理をしています。

3. 預金と国内債券は、役割が違う

さて、ここから、冒頭の問いに戻ります。

預金の役割は、使うお金を置いておくことだとおもいます。いつでも引き出せること自体、つまり流動性の高さに価値があります。現状の利子率、つまり利回りは、「あれば嬉しい」「ないよりはまし」という程度の位置づけでしょう。

一方、資産配分における国内債券の役割は、値動きの小さい資産として、全体のリスクを調整することです。すぐに使う前提ではありません。

そもそも、役割が違うので、同じものとして扱えません。

そして個人向け国債には、預金の代わりになれない決定的な事情があります。発行後1年間は換金できないという条件です。災害や名義人の死亡といった例外を除けば、手をつけられません。

いつでも引き出せることに価値がある預金と、1年間動かせない商品。ここだけは、置き換えがききません。

4. 個人向け国債は、GPIFが持てない国債

では、国内債券のポジションとしてはどうでしょうか。ここは、むしろ個人のほうが恵まれています。

GPIFが持っている国内債券は、市場で売買される債券です。市場で売買する債券は、金利が上がれば価格が下がります。 標準偏差2.60%という数字は、その値動きを表したものです。

一方、個人向け国債は価格が動きません。 1年を過ぎれば、額面に経過利子を足し、直前2回分の利子相当額を差し引いた金額で国が買い取ってくれます。GPIFがもっている一般的に市中で取引される債券と比べて、市場価格で売る必要がありません。

317兆円を運用する組織には選べない商品を、個人は1万円から買える。 運用額が大きいことは、商品選択の面では制約にもなるということです。

9月募集分の利率は、変動10年が1.95%、固定5年が2.24%でした。

※利率の決まり方は「固定5年と変動10年、なぜ期間が長いほうが利率が低いのか」で解説しています。

5. 債券がリスク資産としての緩衝材の効き方個人とGPIFでは違う

GPIFの国内債券が全体のリスクを抑えるのは、株式と逆に動くからでした。株が下がる局面で債券価格が上がり、下落を打ち消す。相関▲0.254とは、そういう意味です。

ところが個人向け国債は、価格が動きません。株が下がったときに、価格が上がって助けてくれることはないということです。

その代わり、下がりもしません。株式が大きく下落しても、その部分の価値はそのまま残ります。打ち消すのではなく、巻き込まれない。 効き方が違います。

どちらが優れているという話ではありませんが、「GPIFと同じ効果が得られる」とは言えない点は押さえておきたいところです。

6. 元機関投資家イズミダの視点

資産配分を考えるときに、はじめにやっておくとよいことがあります。自分の持っているお金を、役割で分けることです。

預金に入っているお金のうち、どこまでが「来年使うお金」で、どこからが「当面使わないお金」なのか。この線を引かないまま、全部を預金に置いている方は少なくないと思います。

線を引くと、個人向け国債の位置が決まります。来年使うお金は預金のまま。1年以上動かさないお金なら、国内債券の枠として個人向け国債を置ける。 1年間換金できないという制約は、そもそも動かさないお金にとっては制約になりません。

GPIFの配分をそのまま真似る必要はありません。年金には数十年先の給付という負債があり、個人の事情とは違います。GPIFの運用方針からのインプリケーションとしては比率ではなく、「国内債券という枠がある」という考え方のほうです。

預金か、株式か。この二択で考えているうちは、その間にある選択肢が見えてきません。GPIFが4分の1を割いている枠が、自分のお金の中では何%にあたるのかーーーアセット・アロケーションという考え方です。そこから考え始めると、個人向け国債の比率も決まってきます。

泉田 良輔