「PERは15倍前後が目安」・・・株式投資を始めると、わりと早い段階でこの数字に出会います。

では、なぜ15倍なのでしょうか。

10倍でも20倍でもなく15倍である理由を説明した解説は、あまり見かけません。私自身、若い頃は「そういうものらしい」と受け取っていました。

この数字には、きちんと根拠があります。そして根拠をたどると、15倍は「割安の基準」ではなかったことが見えてきます。

1. PERは「利益の何倍か」だけではない

PERは株価を1株当たり利益で割ったものです。利益の何年分まで買われているか、という見方が一般的でしょう。

※指標の基本は「PERとは?株価収益率の意味・計算式・目安から予想PER・実績PER、PBR・ROEとの関係まで元機関投資家が解説」で解説しています。

ただ、プロの現場ではもう一つの見方をします。PERを、市場が何を織り込んでいるかの表示装置として読むという見方です。

株価の理論値は、将来受け取るお金を現在価値に割り引いた合計です。利益が毎年一定の率で伸びていくと置くと、式はかなり単純になります。

株価 = 1株当たり当期純利益(EPS) ÷(資本コスト − 成長率)

両辺を1株当たり当期純利益(EPS)で割れば、PERの形になります。

PER = 1 ÷(資本コスト − 成長率)

資本コストは、投資家がその株に期待する最低限のリターンのことです。日本株なら6〜8%の間で動く印象で、私は特段の理由がなければ7%を基準にしています。

2. 15倍が織り込んでいる成長率は、年0.3%

この式は、逆向きにも使えます。PERが分かっていれば、市場がどれだけの成長を織り込んでいるかを取り出せるということです。

成長率 = 資本コスト −( 1 ÷ PER)

資本コストを7%として計算すると、こうなります。

2.1 PERと織り込んでいる成長率

  • 10倍: ▲3.0%
  • 12倍:▲1.3%
  • 15倍: +0.3%
  • 19倍: +1.7%
  • 20倍: +2.0%
  • 25倍: +3.0%
  • 30倍: +3.7%

PER15倍が織り込んでいるのは、年0.3%の成長です。ほぼゼロ成長と言っていい水準になります。

15倍は割安の基準ではありません。成長をほとんど見込まない会社の、ふつうの値段だったということです。

3. PER10倍は割安ではなく、減益の織り込み

ここで、こう思われた方もいるかもしれません。では15倍を下回る株は、割安ということになるのではないか、と。

表を見ると、そうとも言えません。

PER10倍が織り込んでいるのは、年▲3%です。利益が毎年3%ずつ減り続ける、という前提になります。12倍でも▲1.3%ですから、やはり減益です。

つまりPERが低い株は、安く放置されているのではなく、市場が減益を見ている可能性があるということになります。買う側がすべきなのは「安い」と判断することではなく、市場が見ている減益が本当に起きるのかを確かめることです。

起きないと判断できたときに、初めて割安になります。この順番を飛ばすと、低PER銘柄を買って下がり続ける、といういわゆるバリュートラップに入ります。

4. なぜPER15倍が目安といわれるのか?その答えは成長率には上限があるから

では、15倍という目安はどこから出てきたのでしょうか。

式を順方向に使って、妥当なPERを出してみます。

4.1 成長率/資本コスト7%/資本コスト8%の組み合わせ

  • 0%/ 14.3倍/ 12.5倍
  • 1%/ 16.7倍/ 14.3倍
  • 2%/ 20.0倍/ 16.7倍
  • 3%/ 25.0倍/ 20.0倍

ここで効いてくるのが、この成長率が「永久に続く成長率」だという点です。

ある会社が経済全体より速いペースで永久に成長し続けると置くと、いずれその会社が経済そのものより大きくなってしまいます。つまり永久成長率は、名目の経済成長率を超えられません。

日本の名目成長率を1〜2%程度とすれば、入るべき数字もその範囲です。表のその部分を見ると、おおむね14倍から20倍。真ん中あたりが15倍から16倍ということになります。

15倍という目安は、誰かが決めた慣習ではありません。資本コストと、経済成長率の上限から出てくる数字だったわけです。

5. 資本コストを1%動かすと、答えが1割以上変わる

ただし、この式には弱点があります。

同じ「成長ゼロ」でも、資本コストが7%なら14.3倍、8%なら12.5倍です。1%動かしただけで、答えが12%以上変わります。

分母が小さい引き算なので、わずかな前提の違いが結果を大きく動かします。成長率が資本コストに近づくほど、この影響はさらに大きくなります。

ですから、この式で理論株価を計算して売買の根拠にするのは無理があります。使い道は、いまのPERが何を織り込んでいるかを読むことに限られます。

加えて、利益がすべて株主に渡る前提を置いているので、現実の企業にそのまま当てはまるわけでもありません。赤字の会社ではPER自体が意味を持ちません。PERをPBRやROEと合わせて見る方法は「PBR=PER×ROEとは?」で整理しています。

6. 元機関投資家イズミダの視点

株価は、投資家の期待が形になったものです。PERを逆算すると、その期待が数字として取り出せます。

機関投資家の現場でよく交わされるのは、「この株価は何を織り込んでいるのか」という問いです。高いか安いかではありません。いくらの成長が、すでに値段に入っているのかを確かめにいきます。

これが分かると、調べる対象がはっきりします。PER30倍の会社なら、市場は年3.7%の永久成長を見ている。経済成長率を超える水準ですから、それを正当化できる理由があるのかどうかを調べにいけばいい。逆にPER10倍なら、年▲3%の減益が本当に起きるのかを確かめにいく。

どちらの場合も、やることは市場の織り込みと、自分が調べた事実を突き合わせることです。将来を当てにいく作業ではありません。

PERを見て「15倍だから割安」と判断するのは、この手順を一段飛ばしています。15倍はゼロ成長の値段ですから、その会社が本当にゼロ成長なのかを調べて、違うと分かったときに初めて判断材料になります。

モノサシの目盛りが何を意味しているかを知っておくこと。それだけで、同じPERという数字から読み取れる量が変わってきます。

泉田 良輔