3. せっかく書いた遺言書が無効に?NG例は4つあります
遺言書を作成しても、民法で定められた方式要件を満たしていなければ、法的な効力が認められず無効となってしまいます。また、内容が曖昧だと、実際の手続きで支障が出る場合もあるでしょう。
せっかくの想いが無駄にならないよう、代表的な4つの作成ミスを押さえておきましょう。
3.1 民法の方式要件に注意。無効や手続きの停滞を招く4つの作成ミス
民法第968条などの規定で、自筆証書遺言の作成要件や注意点が厳格に定められています。
- 1) 日付の特定不足:「◯年◯月吉日」といった記載は、作成年月日が特定できないため無効となります。必ず「2026年10月6日」のように、正確な年月日を自署しなければなりません。
- 2) 署名・押印の欠落:遺言者本人の自署と押印が必須条件です。認印や指印でも効力は認められますが、押印漏れや署名の欠落は無効の原因となるため、慎重な確認が欠かせません。
- 3) パソコンでの本文作成:財産目録を除き、遺言本文は全文を自筆で書く決まりとなっています。パソコンで作成して印刷した本文に署名押印をしても、無効になるため注意が必要です。なお、財産目録はパソコン作成や通帳のコピー添付が認められていますが、目録の毎頁に署名押印を行う必要があります。
- 4) 財産の特定が曖昧:「自宅の土地建物」や「預貯金」といった曖昧な表現では、無効とまではいえない場合でも、名義変更や解約の手続きで支障が生じかねません。登記事項証明書の地番・家屋番号や、金融機関名・支店名・口座番号を正確に記載することが求められます。
なお、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」では、日付や署名押印の有無といった外形的な確認は行われるものの、遺言内容の有効性(意思能力の有無や遺留分侵害など)までは保証されません。この点は見落としやすい盲点といえます。
4. 年末の帰省で、何から話し始める?
年末年始の帰省は、実家の親と将来の準備について穏やかに話し合える機会です。
司法書士佐伯啓輔事務所が2026年9月8日から10日にかけて実施した「相続手続きに関する意識調査」(全国の40代〜60代男女310人対象)によると、「相続手続きについて詳しい内容を知らない」と答えた人は50%(5割)でした。同調査で「負担に感じそうなこと」として挙がったのは、書類の作成(173人・約55.8%)、預貯金や株式の解約・名義変更(167人)、不動産の名義変更(155人)の順です。
4.1 エンディングノートや実家の片付けをきっかけにした会話の切り出し方
切り出し方としては、「万が一の際に私たちが手続きで困らないように教えてほしい」という視点が効果的です。
親に「遺言書を書いてほしい」とストレートに伝えると抵抗感を生みかねないため、まずはエンディングノートの記入や、実家の通帳・不動産書類の整理を会話のきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
家族間での話し合いが難しい場合や権利関係が複雑なケースでは、特定の事務所や金融機関に偏らず、公的な相談窓口や司法書士・弁護士といった専門家に助言を求める選択肢もあります。
5. まとめにかえて|残される家族の手続き負担を抑える備えを
本記事のポイントを、改めて振り返りましょう。
- 相続手続きでは、平日日中の役所対応や書類収集が大きな負担となり、仕事の調整が必要になる人もいます。
- 自筆証書遺言(法務局保管)や公正証書遺言を活用すれば、家庭裁判所での検認手続きを省略できます。ただし、戸籍収集などの手続き自体は残る点に注意が必要です。
- 日付の特定や本文の自署、財産の正確な記載など、民法の方式要件を守って無効リスクを避けることが大切です。
年末年始の帰省をきっかけに、まずは実家の書類整理や将来の希望について、家族で話し合うところから始めてみてはいかがでしょうか。
遺言書の準備は、「財産をどう分けるか」という争い防止の側面だけでなく、残される家族が仕事や日常の合間に直面する「手続きの手間」を減らす備えでもあります。
完璧な書類をいきなり仕上げる必要はありません。まずは親の想いや大切な資産の所在を一覧にする作業から始めてみてください。
元気なうちに親子でお金や資産の話をオープンにできる関係を整えておくことが、将来の安心につながります。
6. 【コラム】相続《基本の豆知識》法定相続人と法定相続分
遺言書がない場合、誰がどれだけ相続するのかは、民法の定めが基準となります。ここでは、法定相続人と法定相続分の基本を整理しておきましょう。
6.1 法定相続人は誰?順位のルール
国税庁の「相続人の範囲と法定相続分」(令和8年4月1日現在法令等)によると、亡くなった方の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。
- 第1順位:子(子がすでに死亡している場合は、その直系卑属)
- 第2順位:親や祖父母などの直系尊属(第1順位の人がいない場合)
- 第3順位:兄弟姉妹とその子ども(第1・第2順位の人がいない場合)
なお、内縁関係の人は相続人に含まれません。また、相続を放棄した人は、初めから相続人でなかったものとされます。
6.2 法定相続分はどう決まる?
法定相続分は、相続人の組み合わせによって次のとおりです。
- 配偶者と子:配偶者2分の1、子2分の1
- 配偶者と直系尊属:配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
同じ順位の相続人が複数いる場合は、その人数で等分するのが原則です。たとえば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、配偶者が2分の1、子どもは残る2分の1を2人で分けるため、1人あたり4分の1となります。
法定相続分は遺産分割協議の目安となるものの、遺言書がある場合は、原則として遺言書の内容が優先されます。遺言書で財産の分け方を示しておくことは、家族間の話し合いの負担を減らす備えにもなるでしょう。
参考資料
- 弁護士法人東京新宿法律事務所「相続手続きに関する実態調査」(2026年9月16日公表)
- 司法書士佐伯啓輔事務所「相続手続きに関する意識調査」(調査期間:2026年9月8日〜10日)
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」(令和7年3月21日更新)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」
- 法務省「遺言書保管制度 統計(月次)」(令和8年8月分)
- 最高裁判所「令和6年司法統計年報 3 家事編」(令和6年)
- 日本公証人連合会「令和6年の遺言公正証書作成件数について」(令和6年)
- 国税庁「相続人の範囲と法定相続分」(令和8年4月1日現在法令等)
- デジタル庁 e-Gov法令検索「民法」(第968条ほか)
