香港市場の優位性が変わらない理由。中国にとって金融面でどう重要なのか?

1997年に香港がイギリスから中華人民共和国に返還されてから、鄧小平が提唱した「一国二制度」により、中国の一部でありながら、中国本土とは別の制度を維持してきた香港の特殊な状況は、多くの社会的な矛盾や、政治的懸念を蓄積してきました。

中国にとっての香港の役割

2019年6月から続いている大規模なデモや反政府活動は、そうした矛盾や不満が表面化し噴出した結果なのだと筆者は感じています。しかし香港は、国際金融の世界において、資金調達や貿易や投資で中国と世界をつなぐパイプ役として、なくてはならない役割を担ってきたことは事実であり、中国の台頭を経済面で支えてきたのも、また香港なのです。

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中国への直接投資に関しては、貿易や投資の際の優遇税制措置を定めた中国・香港間の取り決めがあります。そのため、外国の企業や投資家は、中国本土内にある企業や設備への投資のために中継点として香港を活用してきました。また、中国からの対外投資の多くも、香港を経由して行われています。

加えて、投資に対する優遇条件を利用し、中国からの資金が香港を経由して、いったん外へ出たあと再び本土へ戻る「出戻り」投資のケースもあります。

経済規模で見れば、中国経済が巨大化する中で、現在、香港経済が中国経済全体に占める比率は、22年前と比べると大幅に縮小しています。しかし、資金の出入り口としての香港の役割は依然衰えていません。

香港は法の支配、有能な規制当局、低い税率、自由な資本移動、英語の使用といった面で、中国本土のライバル都市との違いが際立っています。そして、香港のありようと香港が果たしている国際金融都市としての役割は、とても中国本土の都市には担えません。中国にとってなぜ香港が金融面で重要なのかを、改めて考えてみましょう。

株式発行による資金調達の場

株式市場としての香港(香港証券取引所)は、時価総額ベースで見た規模では、ニューヨーク証券取引所、ナスダックに次ぐ世界で3番目の地位を占めています。しかし、IPOだけを見てみると、実は、毎年ニューヨーク証券取引所と首位の座を競い合う取引所です。2018年のIPOによる資金調達額では、香港証券取引所は、ニューヨーク証券取引所を超えて世界第1位でした。

1997年以降、香港証券取引所で中国本土の企業が売り出した株式の総額は、3350億ドル(約36兆3500億円)に上ります。これは、中国本土で発行された、中国本土の企業の調達額を上回ります。もちろん、中国本土で調達できる資本の金額は、最近、大幅に増えてきています。しかし、まだまだ香港にはかないません。

上海と深圳は以前より利用しやすい市場になってきました。ただ、本土の市場は、資金の引き揚げ・回収が難しいといった懸念も考えられます。香港ドルは米ドルに連動(ペッグ制)しているうえ、香港には本土と違って資本規制がないため、香港市場へ上場したほうが、そうした心配がなく、資金も集まりやすいのです。

また、外国企業の買収や国外投資を見通すと、人民元だけではなく、他の主要通貨で調達が可能な香港市場は、アドバンテージがあると言えます。

もちろん、ニューヨーク市場は、香港と同様に資金を集めやすいと言えますが、最近は米中関係の悪化から影響を受けることを懸念する動きもあります。実際に、最近では米中摩擦の影響から、中国企業を米国の証券市場から締め出すなどの雑音が聞こえてくることもあります。

しかし、香港は、中国になじみのある投資家を集めるのに便利な場所で、中国本土の企業にとっては、米国のような懸念を持つ必要はありません。

デット(借り入れ)での市場からの調達にも利点

中国本土の企業は香港を通じ、巨額の資金を調達しています。銀行の融資もそうですし、社債の発行を通じても資金を借り入れることができます。

中国企業にとっては、オフショアで債券が発行できる市場として、香港への信頼感は大きいのです。金額だけではなく、調達方法が多様であることと、期間も長期の資金を含めて調達できること、通貨のバリエーションも多様であることから、企業ごとに異なる調達ニーズに合わせて資金調達できることは、香港金融市場の大きな利点です。

中国本土では、米ドル建てで債券を発行することは至難の業です。特に外貨建ての場合の調達は、中国の政府系銀行や巨大なユニコーン企業でも、香港での発行を選択します。

オフショア人民元の市場

中国政府は、中国国内から国外への資本流出を厳しく規制しています。この資本規制は2017年以降、非常に厳しくなってきています。そのため、貿易決済にしても、金融取引にしても、国際間のものは、人民元建てであっても香港で行われることがほとんどです。

オフショア人民元のハブとしては、融資、債券、為替取引のいずれにおいても、香港は最大のハブです。また、中国政府が国営銀行にオフショア人民元の買い入れを指示したり、中国人民銀行(中央銀行)が香港で債券を発行して金融市場から資金を吸収したりすることで、オフショア人民元の為替レートに影響を及ぼすことができます。

このオフショア人民元市場の存在は、中国市場にとっても、都合の良い部分があるのです。

公平で自由な経済活動が可能な香港の経済環境

香港には、イギリスが155年間の統治期間で作り上げた公平で非政治的な欧米型の法・規制制度があります。国際金融の世界では、イギリス統治下で長い年月をかけて金融機能や規制が整えられ、市場参加者を集めてきました。それが、中国のみならず、世界から金融やビジネスをする参加者が、取引を行う場所としての香港市場を形成してきたのです。

ブレクジットに揺れるロンドンもそうですが、金融市場センターとしては、果たしている役割や機能をすぐに移転できないと筆者は見ています。もちろん中国も、上海や深圳をはじめとして、そうした法や規制の整備を進めてきてはいますが、政治から完全に独立し、経済活動が保証されるかといえば、一抹の不安が残るのも事実です。

香港は、国際金融市場としては、引き続き競争上の優位性を維持しています。香港での今回の一連の反対運動は、一国二制度の将来に影を投げかけ、香港の優位性や将来に疑問を抱かせたことも事実でしょう。しかし、これからも国際金融の世界で、優位な機能を果たすことを期待されていることは、変わらないと考えています。

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。