そんな岡田さんの脚本の特徴が、最新作『空青』、『キミモテ』でも表現されていました。
『空青』の主人公となる17歳の女子高生のあおい(CV:若山詩音さん)とその姉、あかね(CV:吉岡里帆さん)は、幼いころに交通事故で両親を亡くしており、ふたりで生活をしています。
そこに現れたのが、あかねの高校時代の同級生だった金室慎之介(CV:吉沢亮さん)です。さらに、日々ベースを演奏して自分の世界に浸るあおいの元には、過去からやってきた、金室慎之介の高校時代の”しんの”(CV:吉沢亮さん)が現れました。
あかねとしんのは高校時代、お互いに恋心を抱いており、ふたりで上京する夢を持っていたのですが、その当時幼かった妹・あおいの面倒を見るためにあおいは地元の秩父に残る決断をしました。以来ふたりは会っておらず、地元で行われる音楽祭に出演するために戻ってきた慎之介と13年ぶりに再開したことから物語が動き始めます。
これまでの岡田さん脚本の作品と違うのは、ファンタジー要素が強いことです。現実において、過去の自分が現在に現れることはないでしょうし、作品のクライマックスにあたる部分でも、フィクションだからこそできる展開が用意されていました。
しかし、過去の自分と協力して今を乗り越えようとする慎之介や、姉の妹想いな行動を知って戸惑うあおいに、オトナな対応で寄り添うツグ(あかねの同級生・正道の小学5年生の息子)、長年、あかねに気持ちを寄せながら、慎之介との両思いを応援しようとする正道など、家族や友人、恋人、夢などさまざまな要素に問題を抱えた登場人物たちが、思いを寄せる人のために行動することで、いつのまにか複雑に絡んでしまった人間関係も、1人ひとりの人生も前進できるように描かれていました。
『キミモテ』はどストレートな告白が魅力
さらに『キミモテ』は、本作のヒロインである堀ノ宮早紀子(CV:石川由依さん)が抱えた借金を返済するため、優勝賞金1000万円の『モテメン甲子園』に出場することになった同じ高校に通う男子5人が、優勝を目指して協力しながら、1人ひとりの初恋の想いに向き合う作品です。
本作は本編52分と映画としては短めで、『空青』とは毛色を変えて、非常にわかりやすいストーリーに、どストレートな告白シーンが見どころの作品です。
女子と関わることに苦手意識がある時夫(CV:斉藤壮馬さん)、元気で熱血なアシモ(CV:内山昂輝さん)、女子から見てもかわいらしい幸太郎(CV:富園力也さん)、クールで大人っぽい亜紀(CV:松岡禎丞さん)、そしてヒロインの執事である後藤田(CV:梅原裕一郎さん)の男子5人が、モテるために一緒になって頑張り、それぞれの性格や魅力を知っていくという「みんなと協力する」過程が描かれています。
一方で、5人ともがヒロインの堀ノ宮に恋をすることで、自分の気持ちと向き合い、自分の言葉で思いの丈を伝えるという個人の奮闘も描かれています。
苦手なコミュニケーション、そこから見えてくるもの
最新2作品を踏まえても、これまでにはない人物設定やストーリー展開で観る人を楽しませてくれるエンタメ要素を持ちながら、一貫して「みんなと協力する」ことを描き、その協力や協調を通して周りの人と向き合い、さらには自分自身を見つめ直す要素を含んでいるのが岡田さんの脚本の魅力です。
岡田さん自身が、これまでの人生で周囲の人との関わりやコミュニケーションに悩み、繊細に感じ取っていたからこそ、「みんなと協力する」ことの重要性や、それらを通して見えてくる自分自身と向き合い、乗り越えることの素晴らしさを描くことができるのではないでしょうか。
ひきこもりを経験し、その後、アニメや脚本の仕事に出会ったことで作品づくりに生きがいを見つけた岡田さんの作品を鑑賞して、私たちも明日を迎える勇気がもらえる気がします。フィクションの世界から得る勇気が連なって、観る人の「生きがい」につながりますようにという祈りにも似た強いメッセージが、心に響きます。
【参考】
『空の青さを知る人よ』 公式HP
『キミだけにモテたいんだ』 公式HP
『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(文藝春秋)
岡田 麿里 著
1,400円(税抜き)
藤枝 あおい