1. 昨秋の高い水準から半値近くまで沈み、夏に戻した株価

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

まず値動きの形を押さえておきたい。2025年10月末の終値は1万3,000円台だった。11月末は1万3,200円台で、2025年10月末以降の月末終値ではここが最も高い。

そこからの下げは、途中で止まらなかった。12月末に1万500円台、2026年1月末に1万円台、2月末は8,900円台、3月末は8,700円台。4月末7,600円台、5月末7,100円台と切り下がり、6月末には6,800円台をつけた。この期間で最も低い月末終値である。

起点からの下落幅はおよそ半分に迫る。決算の数字が伸びていた期間に、株価はこれだけ削られた。

もっとも、そこからの戻りも速かった。7月末は7,600円台、8月末は9,000円台まで切り返している。2026年9月時点の直近終値は8,200円台で、6月末の低い水準からは大きく戻したが、昨秋の水準には遠い。

なぜ沈み、なぜ戻ったのか。株価の理由を1つに絞ることはできない。相場全体の地合いや、新しいハードの立ち上がりに対する見方の揺れが意識された可能性はある。ただ、決算の中身を見ておくと、市場が何を織り込もうとしていたのかを推し量る手がかりにはなる。

2. 売上がほぼ倍増した期に、利益率が5期で最も低くなった

2026年3月期通期の売上高は2兆3,130億円で、前期比+98.6%。営業利益は3,601億円で+27.5%、経常利益は5,421億円で+45.6%、純利益は4,240億円で+52.1%となった。数字だけを読めば大幅な増収増益である。

ところが利益率の側を見ると、景色が変わる。

売上総利益率は前期の61.0%から39.3%へ、20ポイント以上も下がった。営業利益率も前期の24.3%から15.6%へ低下している。2022年3月期の35.0%と並べると、5期で最も低い水準だ。

構造は単純である。売上高が1兆1,481億円増えた一方で、売上原価は9,493億円増えた。差し引きの売上総利益は1,987億円の増加にとどまる。そこへ販売費及び一般管理費の1,212億円増が乗り、営業利益の増加は775億円に収まった。増えた売上の大半が原価で吸われた計算になる。

ゲーム会社の業績はソフトの当たり外れで振れる、という見方は一般的だ。今回の期も確かに振れている。だが振れの中身は、売れたか売れなかったかという単純な話ではない。原価率の高いものが売上構成の前面に出ると、売上が伸びるほど利益率は下がる。立ち上げ期に特有の姿だと読み取れる。

業種の物差しも当てておきたい。その他製品67社の営業利益率の中央値は4.7%、売上総利益率の中央値は29.0%である。任天堂の15.6%と39.3%は、低下したあとでも中央値を大きく上回る。絶対水準は5期で最低でありながら、相対水準では依然として上位にいる。この2つは同時に成り立っている。

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出所:任天堂株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:任天堂株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 営業利益を1,800億円上回る経常利益は何を映すのか

もう1つ、この決算には見逃せない点がある。経常利益5,421億円が、営業利益3,601億円を1,800億円あまり上回っていることだ。

差を埋めているのは営業外収益1,829億円である。会社の説明によれば、持分法による投資利益827億円、受取利息460億円、為替差益443億円などを計上したことが経常利益を押し上げた。さらに投資有価証券売却益326億円を特別利益に計上したため、純利益は4,240億円となっている。

受取利息460億円という数字は、事業会社としてはかなり大きい。現金及び預金は1兆3,166億円、短期有価証券は4,250億円あり、投資有価証券も4,208億円を抱える。この厚い金融資産が、本業とは別の場所で利益を生んでいる。

持分法による投資利益827億円も同じ性質を持つ。連結の外側にある会社の稼ぎが、任天堂の利益に乗ってくる構図だ。

つまりこの会社の利益は、ソフトとハードの売上だけで決まっているわけではない。本業の利益率が立ち上げ期に押し下げられても、営業外の厚みが最終利益を支える。ROE(自己資本利益率)が前期の10.5%から14.9%へ戻ったのも、この重ね方と無関係ではないだろう。

金融資産の大きさは安心材料に見えやすい。もっとも、これだけの手元資金を抱えたまま自己資本比率77.6%を維持する財務が、資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。

4. 筆者コメント

売上と株価が逆を向いたこの1年は、会社の稼ぎ方が次の世代へ切り替わる途中の期間だったと整理できる。

株価は実績ではなく、これから起きることの見積もりで動く。売上が倍になった事実はすでに開示されており、市場が次に測ろうとしていたのは、この利益率がどこまで戻るのかという点だったのではないか。立ち上げ期の原価率は、時間とともに下がることもあれば、下がらないこともある。そこに答えが無いあいだ、株価は揺れる。

興味深いのは、6月末の低い水準からの戻り方だ。2か月あまりで3割近く切り返している。1年かけて半値近くまで削った市場が、短い期間でこれだけ見方を変えたことになる。

決算の数字は年に4回しか更新されないが、株価は毎日つく。両者の速度差が、この1年のような食い違いを生む。数字が出そろうまで判断を急がない姿勢を持っておきたい局面だ。