3. シニアの働き方を左右する「年収の壁」にどんな変化が?
こうした背景から、シニア層にとって「どこまで働くか」を左右するのが、社会保険や年金にまつわる年収の壁です。現役世代の“扶養の壁”とは基準が異なる部分もあるため、整理しておきましょう。
3.1 60歳以上は、130万円の壁が「180万円」になる
会社員の配偶者や家族の扶養に入っている人が社会保険上の被扶養者でいられるかどうかは、年間収入が130万円未満であることが基準になります。ところが60歳以上(および障害者)の場合は、この基準が180万円未満に緩和されます。年金を受け取りながらパートなどで働くシニアにとっては、現役世代より少し広めの“壁”が設定されている形です。
なお、人手不足による労働時間の延長などで一時的に収入がこの基準を超えてしまった場合には、事業主の証明を添付することで、原則連続2回まで被扶養者の認定を継続できる特例も設けられています。急な繁忙期に頼まれてシフトを増やした結果、たまたま年収が基準を超えてしまったようなケースを想定した仕組みです。
3.2 年収「106万円の壁」は2026年10月に撤廃
パート・アルバイトが厚生年金・健康保険に加入する義務が生じる目安として知られてきたのが「106万円の壁」(月額賃金8.8万円以上)です。これが2026年10月には撤廃される予定です。撤廃後は、賃金の額にかかわらず、次の条件で社会保険への加入対象となります。
- 従業員51人以上の企業に勤務
- 週の所定労働時間が20時間以上
いわば「106万円の壁」から「週20時間の壁」への切り替わりです。企業規模の要件についても、今後段階的に引き下げられ、将来的には撤廃される予定とされています。シニアがパートで働く場合も、この見直しによって「年収を抑えるより、週の労働時間を意識する」働き方への転換が求められることになりそうです。
3.3 在職老齢年金の壁は「65万円」に引き上げ
厚生年金を受け取りながら働くシニアにとって、特に大きいのが「在職老齢年金」の仕組みです。老齢厚生年金の月額と、給与から算出される総報酬月額相当額の合計が一定の基準額を超えると、超えた分の半額が年金から支給停止になります。この基準額の推移は以下の通りです。
- 2024年度:50万円
- 2025年度:51万円
- 2026年4月〜:65万円
厚生労働省の試算では、65歳以降で年金を受け取りながら働く人のうち、これまで年金の一部が支給停止されていた約50万人のうち、約20万人が全額を受け取れるようになる見込みだといいます。「年金が減るなら働くのをセーブしよう」という就業調整の動きを和らげ、専門知識や経験を持つシニア層がより積極的に働ける環境を後押しする狙いがあります。
4. まとめにかえて
企業側は人手不足や技術継承の必要性から、シニア層により長く活躍してほしいと考えています。一方で働く側は、扶養やパート収入に関わる「130万円・180万円の壁」、そして2026年に大きく動く「106万円の壁」「在職老齢年金の壁」という、複数の基準を意識しながら働き方を選ぶことになります。
いずれも一律に「壁を越えない方が得」とは言い切れません。特に在職老齢年金の基準額引き上げや106万円の壁の撤廃は、これまで収入を抑えていた人にとって、むしろ働きやすくなる方向の改正です。自分の年金の受給状況や勤務先の従業員規模、労働時間によって最適な働き方は変わってくるため、迷ったときは年金事務所や勤務先の担当窓口に条件を確認しながら、制度の変化を味方につけて働き方を組み立てていきましょう。
参考資料
- 帝国データバンク「企業が期待する「活躍年齢」に関する動向アンケート」(2026年9月11日発表)
- 内閣府「令和8年版高齢社会白書(全体版)」
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
- 日本年金機構「働きながら年金を受給する皆さま 在職老齢年金制度が改正されます」
- 協会けんぽ「被扶養者の認定における特例について」
村岸 理美
