『カパ・オ・パンゴ』は2005年にハカの専門家により制作され、簡単に訳すと、「黒を着たグループ」という意味。オールブラックスを指しています。『カマテ』にはストーリー性がありましたが、『カパ・オ・パンゴ』はオールブラックスが相手チームを目の前にして、自分たちを鼓舞するためのマオリ語の言葉で構成されています。

実は、初戦での『カパ・オ・パンゴ』は特別なものでした。一般的にハカでグループをリードするのは1人。試合時のオールブラックスのハカも同じです。この時のリード役はスクラムハーフを務めるTJ・ペレナラ選手。ペレナラ選手を中心にハカが始まった直後に、主将のキーラン・リード選手がすぐ横でペレナラ選手を支え、2人でリードしたのです。

試合後、このことをリード選手は、「チーム全体で話し合った上で決めた。僕たち選手間の素晴らしい結束を見てもらえたと思う」とコメント。ワールドカップ優勝を目指すオールブラックスの意気込みを感じさせます。

ニュージーランド人の「心」

カパ・ハカは、マオリ系の人々だけでなく、すべてのニュージーランド人にとって、身近で親しみのあるものです。スポーツの試合前に限らず、さまざまな機会に目にします。

亡くなった人に敬意を表するためにお葬式で、カップルを祝福するために結婚式で、前途の幸運を祈って送別会で、お客さまに歓迎の気持ちを伝えるために歓迎会で、と節目節目で人々はハカを踊ります。国賓がニュージーランドを訪問した際も同様です。2002年皇太子時代に、徳仁天皇と雅子皇后がおいでになった時もハカでお迎えしました。

小学校から高校まで、学校によっては、日本でいうクラブ活動のような形でカパ・ハカ・グループを設けているところもあります。『カマテ』や各校オリジナルの戦士の踊りや、お手玉をひもの一端に付けたような「ポイ」を両手に持ってのダンスなどを練習します。カパ・ハカを通してマオリ独特の習慣や礼儀をも学びます。マオリ系の学生が主ですが、誰でも参加できます。

大人も負けていません。全国各地にカパ・ハカ・グループがあります。「テ・マタティニ」と呼ばれるカパ・ハカのフェスティバルも2年に1度行われています。コンテストも兼ねているので、どのグループも国内で一番になるために切磋琢磨するのです。

以前はマオリ系の人々ためのものだったカパ・ハカですが、今では違います。国内での浸透ぶりからはもちろん、海外に出たニュージーランド人が、在住国でカパ・ハカ・グループを作ることからもわかるように、マオリ系、非マオリ系を問わず、ニュージーランド人のアイデンティティーへと変化してきました。

カパ・ハカは、どのニュージーランド人のハートにも宿っているといっても間違いではありません。

クローディアー 真理