老後の赤字をどう埋めるかを考えるとき、65歳以降も働くという選択肢が出てきます。
そこで見落とされやすいのが、65歳以上で離職したときにも雇用保険から給付があるという点です。名前は高年齢求職者給付金といいます。
この記事では、e-Gov法令検索で雇用保険法と同法施行規則、そして厚生年金保険法の条文を確認してこの給付の中身を整理したうえで、65歳以降の家計の赤字がどれだけあるのかを見ていきます。
1. 【雇用保険】65歳以上で辞めても給付がある
65歳を過ぎたら雇用保険の対象外、という理解は正確ではありません。条文には65歳以上の被保険者についての節が置かれています。
1.1 高年齢被保険者という区分
雇用保険法第37条の2は、65歳以上の被保険者を高年齢被保険者と定めています。短期雇用特例被保険者と日雇労働被保険者は除かれます。
この高年齢被保険者が失業した場合には、高年齢求職者給付金を支給すると書かれています。65歳未満が受け取る基本手当とは、別に用意された給付です。
1.2 受給資格は1年間で6か月
第37条の3によると、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上あったときに支給されます。
65歳未満の基本手当は、第13条第1項により離職の日以前2年間に通算12か月以上です。高年齢求職者給付金は離職前1年だけを見るので、それ以前の勤務歴は問われません。
疾病や負傷などの理由で引き続き30日以上賃金の支払を受けられなかった場合は、その日数を1年に加算した期間で数えます。加算しても4年が上限です。
1.3 金額は50日分か30日分
第37条の4は、基本手当の日額に日数を掛けた額とすると定めています。日数は算定基礎期間が1年以上なら50日、1年未満なら30日です。
65歳未満の基本手当は、算定基礎期間や離職理由によって所定給付日数が90日から150日、特定受給資格者なら最大330日、就職が困難な人なら最大360日に分かれます。それと比べると、高年齢求職者給付金は2つしかありません。かわりに、分割ではなく一時金としてまとめて受け取ります。
ただし、まとめてもらえる前提には期限があります。第37条の4第5項は、離職の日の翌日から起算して1年を経過する日までに公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをした上で、失業していることについての認定を受けなければならないと定めています。
そして第1項の括弧書きにより、認定を受けた日からこの1年の最終日までの日数が50日や30日に満たないときは、その残り日数分に減ります。手続きが遅れるほど受け取れる額が削られる仕組みです。
2. 週20時間未満でも加入できる道がある
もうひとつ、65歳以上の人だけに用意された仕組みがあります。厚生労働省が「雇用保険マルチジョブホルダー制度」と呼んでいるもので、令和4年1月1日から65歳以上の労働者を対象に新設されました。
2.1 2つの事業所を合算する特例
第37条の5は、次の要件をすべて満たす人が申し出て高年齢被保険者になれると定めています。2以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること、1つの事業主のところでの1週間の所定労働時間が20時間未満であること、そして2つの事業主のところでの所定労働時間の合計が20時間以上であることです。
ここで見落とされやすいのが、3つめの要件に付いた括弧書きです。合算できるのは、申出を行う労働者のその事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数以上であるものに限られ、施行規則第65条の7はこの時間数を5時間と定めています。
つまり、1か所あたり週5時間以上20時間未満の事業所を2つ足して、合計20時間以上になることが条件です。厚生労働省は、これに加えて2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であることを適用要件に挙げています。短時間の仕事をいくつ重ねても、1か所が週5時間に届かなければ対象になりません。
2.2 届け出る先はハローワーク
条文の申出先は厚生労働大臣ですが、施行規則第1条によりこの権限は都道府県労働局長を経て公共職業安定所長に委任されています。
施行規則第65条の6は、申出の方法を具体的に定めています。氏名や住所などを記載した届書に、労働契約に係る契約書、労働者名簿、賃金台帳といった事実を証明できる書類を添え、個人番号登録届(様式第十号の二)と併せて管轄公共職業安定所の長に提出する、という形です。マイナンバーの登録が同時に必要になる点は、窓口へ行く前に押さえておくところです。
申し出た日から高年齢被保険者になります。厚生労働省の呼び方はマルチ高年齢被保険者、施行規則上の呼び方は特例高年齢被保険者です。
この特例で加入した人は、要件を満たさなくなったときも申し出なければなりません。施行規則第65条の8により、期限はその事実があった日の翌日から起算して10日以内です。短い時間で2か所を掛け持ちしている人ほど、この制度を知っているかどうかで差がつきます。
なお、65歳以降の家計の赤字については、LIMOの記事「「ゆとりある老後」に公的な基準はない。夫婦2人の赤字はどのくらい?年齢が上がるとどうなるかもチェック」より一部を引用・参照しています。
