5. 営業赤字を生んだのは粗利ではない。売上総利益率と販管費率の分岐

化粧品は高い粗利率が取れる事業で、景気の波にも比較的強い。そういうイメージが先に立つ業種だ。前期の営業赤字は、そのイメージと真正面からぶつかる。

ところが、粗利の側を4期並べてみると景色が違う。売上総利益率は2022年12月期の69.4%から、73.3%、76.0%、そして2025年12月期は76.6%まで切り上がっている。赤字の期が、いちばん粗利率の高い期だった。

崩れていたのは粗利ではなく、その粗利を使う側である。販売費及び一般管理費は2022年12月期の7,178億円から2023年12月期に6,966億円まで絞られたが、2024年12月期には7,514億円へ膨らみ、2025年12月期は7,255億円だった。

売上収益に対する比率にすると、67.3%、71.6%、75.9%、74.8%という並びになる。粗利率が7.2ポイント上がるあいだに、販管費率も7.5ポイント上がっている。上がった粗利は、ほぼそのまま販管費に吸われていた。

イメージと実態は対立していない。高い粗利を取る力は落ちていないし、同時に、その粗利が利益として残らない構造も成立していた。二つは同じ会社の中で同時に起きていたことだ。

5.1 減損515億円という一過性と、販管費率という恒常性

売上総利益と販管費の差を取ると、2025年12月期は174億円のプラスである。それでも営業損益は▲287億円だった。その落差を作ったのが減損損失である。

減損損失は2022年12月期165億円、2023年12月期84億円、2024年12月期1億円と縮んできたのち、2025年12月期に515億円へ跳ねた。前期の営業赤字は、この一過性の費用が薄い利益の土台を突き抜けた結果と読み取れる。

ここで二つを分けて考えたい。減損は一度落とせば翌期には残らない。だからこそ上期の増益は起きた。一方で販管費率の高さは恒常的な性質を持つ。上期の増益率が三桁になったのは前期の反動を含むから、そこだけを成長力と受け取らないほうがいい。

設備投資も同じ向きに動いている。2022年12月期の598億円から、554億円、488億円、429億円へと4期連続で縮んだ。減価償却費は2025年12月期で717億円あり、投資を絞りながら過去の投資の償却が続く局面にある。

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出所:株式会社資生堂 決算短信および有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社資生堂 決算短信および有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 人員が9,000人近く減っても研究開発費は落ちていない

費用構造の立て直しで気になるのは、どこを削ったのかという中身だ。連結従業員数は2021年12月期の35,318人から、33,414人、30,540人、27,908人、そして2025年12月期は26,330人になった。4期で9,000人近く減っている。

一方で研究開発費は減っていない。2021年12月期の256億円に対し、2022年12月期267億円、2023年12月期276億円、2024年12月期272億円、2025年12月期271億円である。人員が4分の3に縮むあいだ、研究開発の水準はむしろ上に乗ったまま保たれた。

2021年12月期の販管費に含まれる人件費は1,753億円だった。内訳では給料及び賞与が1,684億円、退職給付費用が68億円を占めている。人件費が販管費の主要な塊であることは、この数字から見て取れる。

そう考えると、費用構造の組み替えの方向は読み取りやすい。人の数を絞りつつ、ブランドと技術の源泉になる研究開発は落とさない。会社が掲げる「高収益構造の確立」は、費用の一律削減ではなかったと解釈できる。

ただし、研究開発費を保ったまま人員を絞る形は、残った組織の負荷を高める。改革が一時的な費用減で終わるのか、売上収益あたりの利益として定着するのかは、これからの数期で分かれてくるだろう。

7. コア営業利益率7%という目標と、化学業種の中での立ち位置

会社が前期の決算で示した2026年のコア営業利益率7%という水準は、非経常的な損益を除いた自社の管理指標での話だ。開示ベースの営業利益率とは水準がそろわない点は押さえておきたい。

開示ベースで見ると、2026年12月期の通期予想は売上収益9,900億円に対して営業利益590億円である。利益率は6.0%になる。実績側では2022年12月期4.4%、2023年12月期2.9%、2024年12月期0.8%、2025年12月期▲3.0%と落ちてきたから、予想は4期前の水準を上回るところに置かれている。

資生堂が属する化学業種の営業利益率の中央値は6.9%である。予想どおりに着地しても、業種の真ん中にはまだ届かない。もっとも、この業種区分には素材系の企業が多く含まれる。売上総利益率の中央値が28.4%であることを思えば、資生堂の76.6%という粗利率をそのまま同じ物差しに載せるのは無理がある。

それでも意味が残るのは営業利益率のほうだ。粗利の構造が違っても、売上収益の何%を営業利益として残せるかは比較の土台になる。中央値6.9%に対して予想6.0%という位置は、収益性の立て直しが「途中」であることを示している。

ROE(自己資本利益率)も同じことを言う。2023年12月期3.6%、2024年12月期▲1.7%、2025年12月期▲6.6%と沈み、業種中央値6.6%からは大きく下振れた。資本の厚みで守るタイプの財務ではない分、利益率の回復がそのまま資本効率に効く構造とも言える。

8. 筆者コメント

注目したいのは、この会社の数字が「粗利は強いのに利益が薄い」という形に整っている点だ。稼ぐ力の弱さではなく、稼いだものを使う側の重さが論点になっている。

この形は、立て直しの見通しを立てやすくする。粗利率が落ちている会社は、値付けや商品力そのものを作り直さねばならず、時間がかかる。費用の側に論点がある会社は、意思決定で動かせる幅がその分だけ広い。

裏を返せば、動かせるはずのものが動かないときの評価は厳しくなる。上期の増益は前期の反動を含む。数字の折り返しが構造の変化として定着したかどうかは、まだ判定の途中にある。

キャッシュの厚みと損益の薄さが同居している点も見逃せない。損益が赤字でも営業CFは残り、投資は絞られ、償却は続く。この組み合わせは、過去に積んだ資産を回収しながら次の形を探している会社の典型的な姿だ。

株価の倍率だけを見て会社の現在地を決めないほうがいい。粗利率と販管費率、そして利益率の三つを並べて追う。この切り口で決算を見ていくことをおすすめしたい。

参考資料

9.1 免責事項

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石津 大希