5. 売上の45%を占める人材派遣が、利益では主役でない構図

2026年3月期のセグメントを開くと、この会社の利益の出どころがはっきりする。

売上収益で最も大きいのは人材派遣で1兆6,793億円、構成比45.4%。全体のほぼ半分を占める。ところが営業利益は997億円で、セグメントの営業利益率は5.9%にとどまる。

次に大きいHRテクノロジーは売上収益1兆4,544億円、構成比39.3%。人材派遣より売上は小さいのに、営業利益は5,499億円ある。利益率は37.8%だ。

997億円と5,499億円。売上規模の近い2つの事業が、同じ会社の中でこれだけ違う金額を残している。

3つ目のマーケティング・マッチング・テクノロジーは売上収益5,635億円で構成比15.2%、営業利益1,549億円、利益率27.5%。売上では最も小さいが、営業利益では人材派遣を上回る。

5.1 リクルートホールディングスの利益率を押し上げているのはどこか

伸び方も揃っていない。人材派遣は増収率2.3%、増益率2.4%でほぼ同率だった。売上が伸びた分だけ利益が伸びる、素直だが平坦な姿である。

対してHRテクノロジーは増収率6.3%に対して増益率21.5%。売上の伸びの3倍を超える速さで利益が増えた。マーケティング・マッチング・テクノロジーも増収率4.6%に対し増益率13.0%で、同じ形をしている。

会社全体の営業利益率が4期続けて切り上がってきた理由は、この非対称にある。労働力をそのまま供給する事業は、売上に人件費が比例して付いてくるため利益率が上がりにくい。一方、マッチングの仕組みを提供する事業は、利用が増えても原価が同じ速さでは増えない。

リクルートホールディングスと聞いて人材派遣の会社を思い浮かべる人は少なくないだろう。売上の構成比で言えば、その印象は正しい。

ただ利益の構成比で見ると、主役はすでに別の事業へ移っている。売上のイメージと利益の実体が、同じ会社の中で二重になっているわけだ。

6. ROE31.0%は利益の増加だけで説明できるのか

2026年3月期のROEは31.0%だった。5期で追うと24.2%、18.0%、19.5%、22.6%、31.0%と動いており、直近が最も高い。

ただしROEは、分子の利益と分母の自己資本の比率である。分子だけを見て納得するのは早い。

自己資本は2024年3月期の2兆9億円から、2025年3月期に1兆6,175億円、2026年3月期に1兆5,833億円へ縮んでいる。利益が増える一方で自己資本が減ったのだから、比率はその両側から押し上げられた計算になる。

発行済株式数も2022年3月末の16億9,596万株から、2026年3月末には14億7,250万株へ減った。2026年3月期の1株当たり当期利益が28.9%増の349.78円と、当期利益の伸び21.6%を上回ったのは、株数が減ったぶんが1株に乗ったからだ。

自己資本比率は56.8%で、サービス業の中央値54.5%とほぼ同じところにある。非流動の有利子負債は6億円、手元資金は7,255億円。借入にほとんど頼らない財務だ。

もっとも、負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点になる。ROEが31.0%まで上がった主因がレバレッジではなく利益率と自己資本の縮小だとすれば、資本の使い方にはまだ動く余地が残っていると読み取れる。

ROEという1つの数字を、利益率の話とだけ結び付けて解釈しないよう気をつけたい。

7. 筆者コメント

過去5期の数字を並べ直すと、この会社は「大きくなる」より「濃くなる」方向へ振れてきたことが見えてくる。

従業員数は2023年3月期の5万8,493人から2026年3月期の4万5,586人へ減った。その間に売上収益は増えている。1人が運ぶ売上は、4割近く重くなった計算だ。

販管費の比率も2023年3月期の46.8%から41.3%へ下がっている。人を増やして売上を積む形から、仕組みで回して取り分を厚くする形へ、体の作りが変わってきたと言えるだろう。

こうした変化は、四半期ごとの増減率を追っているだけでは見えにくい。人数と売上と販管費比率を同じ表に並べて初めて、利益率が4期続けて切り上がった理由に手が届く。

決算を読むとき、増収率と増益率の差ばかりを見て終わらせないことをおすすめしたい。その差がどこから来ているのかは、従業員数のような地味な欄に書かれていることが多い。数字の並びを自分で組み替える手間が、いちばん効く。

参考資料

8.1 免責事項

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石津 大希