5. 営業利益+63.0%、営業CF▲32.6%。逆を向いた2つの数字

2026年3月期の営業利益は605億円で、前期の371億円から+63.0%伸びた。売上高は1兆8,440億円で▲6.0%の減収だったから、減収増益である。ここまでは利益の改善局面に見える。

ところが営業キャッシュフローは396億円で、前期の588億円から▲32.6%減った。利益が6割増えて、現金の入りは3割減る。方向が逆を向いている。

差の正体は運転資本だ。棚卸資産は前期末の4,834億円から6,100億円へ、1,265億円増えている。売上債権も1,710億円から1,983億円へ膨らんだ。仕入債務の増加241億円ではとても埋まらない。利益として計上されても、在庫と売掛に化けた分は現金として残らない。

回転の数字にもそれが出ている。棚卸資産回転日数は98.3日から135.3日へ、37日ほど伸びた。現金循環日数(仕入代金の支払いから売上代金の回収までにかかる日数)は109.9日から147.2日である。1カ月半近く、資金が事業のなかに滞留する時間が長くなった。

加えて、この期の減損損失は303億円で、前期の134億円から倍以上に増えた。減損は現金が出ていかない費用であり、営業キャッシュフローの計算では利益に足し戻される。つまり非資金の費用がこれだけ増えたにもかかわらず営業CFは減った。運転資本の膨らみがそれだけ重かったということだ。

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出所:三菱マテリアル株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:三菱マテリアル株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 設備投資はピークから2期連続で縮小。現金はどこへ向かったのか

投資の側も見ておきたい。設備投資は2024年3月期の878億円をピークに、2025年3月期588億円、2026年3月期549億円と2期連続で縮んだ。同じ期の減価償却費は474億円だから、投資と償却の比率は1.16倍まで下がっている。2024年3月期は878億円対466億円で1.88倍だった。

投資キャッシュフローも同じ向きだ。2024年3月期の▲1,029億円から、▲793億円、▲350億円へと流出が細っている。営業と投資を足した収支は2024年3月期▲516億円、2025年3月期▲204億円と2期続けてマイナスだったが、2026年3月期は+46億円でかろうじて表に出た。

では膨らんだ資産は何なのか。総資産は2兆9,997億円で前期比+26.1%。一方、有形固定資産は2024年3月期の4,720億円から4,438億円、4,345億円へと減り続けている。装置産業と聞いて思い浮かぶ「工場に現金を注ぎ込む」姿とは向きが違う。増えたのは設備ではなく、先に見た在庫のほうだ。

財務キャッシュフローは2025年3月期の▲132億円から2026年3月期は+232億円へ転じた。外から資金を入れ直している。自己資本比率は30.2%、28.5%、24.5%と3期連続で下がった。運転資本の膨張を有利子負債で支える形になっている、と整理できる。

株主還元のほうは1株100円の年間配当を維持し、配当性向は32.2%だった。非鉄金属の中央値31.6%とほぼ重なる。還元の水準そのものは業種の真ん中にあり、この局面で無理をしている様子はない。

6.1 三菱マテリアルのセグメント別に見た設備投資と減価償却のねじれ

資本がどこへ向いているかは、セグメント別の数字にも表れる。金属事業の売上高は9,378億円で全体の50.9%を占めるが、前期比▲22.0%の大幅減収だった。セグメント資産は1兆7,861億円で、残る4区分を合わせた規模を上回る。

それでいて設備投資は197億円にとどまる。高機能製品の148億円、加工事業の120億円と大差ない水準だ。抱えている資産の重さと、そこへ振り向けている投資額が釣り合っていない。減損損失203億円がこのセグメントに集中していることも、現在の位置づけを物語る。

対照的なのが加工事業である。売上高2,305億円は前期比+59.9%と伸びた一方、設備投資120億円は減価償却費152億円を下回っている。伸びている事業で償却以下の投資という組み合わせは、自前の設備を増やして伸ばしたのではないことを示す。

高機能製品は売上高5,679億円で+15.5%、設備投資148億円が減価償却125億円をやや上回る。経常利益は金属事業570億円、高機能製品200億円、加工事業149億円で、利益の重心もなお金属事業に寄っている。伸びる側にまだ十分な資本が回り切っていない、という読み方もできるだろう。

7. 筆者コメント

投資キャッシュフローの縮小と、貸借対照表の膨張を並べて見ると、この会社の現在地が見えてくる。

設備への支出は抑えられているのに、資産の総額は大きく増えた。伸びたのは工場ではなく在庫だ。資源・製錬という商売の資本配分と聞いて思い浮かぶ姿とは、向きがずれている。

在庫は、扱う金属の価格が上がれば評価額も膨らむ。原料を買い付けて売り切るまでの時間が長い商売では、その膨らみがそのまま資金の滞留になる。だから在庫の増加は、事業が詰まった印とも、価格上昇を抱え込んだ印とも読める。どちらなのかは、回転日数と利益率を次の四半期に並べてみないと決まらない。

自己資本比率は業種の中央値から大きく離れた低い位置にある。一般には財務の弱さと結び付けられやすい数字だ。ただ、負債をどこまで使うのが最適かは事業の作り次第で、在庫を抱えて回す商売には運転資金の器が要る。低い比率をそのまま危うさへ読み替えるのは早い。

在庫の回転が戻るかどうか。私はそこを次の決算で最初に確かめたい。

参考資料

8.1 免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希