1. クボタの出発点は農業機械ではなく、鋳物と水道用鋳鉄管だった

沿革の記録は、1890年2月から始まる。創業者の久保田権四郎が大阪市南区御蔵跡町に久保田鉄工所を興し、各種鋳物の製造・販売を開始した。

水道用鋳鉄管の製造を始めたのは、その3年後の1893年7月である。都市に水を通すための管を鋳るところから、この会社の歴史は動き出した。

では農機はいつ始まったのか。農工用小型エンジンである発動機の製造開始は1922年2月だ。水回りのインフラ部材が、農機より30年近く先を走っていたことになる。

社名も長く出自を映していた。1953年6月に久保田鉄工株式会社へ、そして1990年4月に株式会社クボタへと改められている。「鉄工」の二文字が20世紀の終盤まで残っていたわけだ。

社名からトラクターが立ち上がるようになったのは、むしろ改称後の話だろう。名前が抽象化され、農機の海外展開が進むにつれて、鋳物と鉄管という出自は語られにくくなったのではないだろうか。

2. 水・環境の営業利益+35.9%が、機械部門の減益を補った構造

では、その出自は現在のどこに残っているのか。答えはセグメントの並びにある。

2025年12月期のセグメント別売上収益(IFRS)を見ると、機械が2兆6,286億円で全体の87.1%を占める。水・環境は3,743億円で12.4%、その他が159億円だ。トラクターの会社という見え方は、この構成比のとおりでもある。

ところが利益の動きは逆を向いた。機械の営業利益は2,536億円で前期比▲21.6%、売上収益も▲0.3%と伸びを欠いた。一方の水・環境は営業利益329億円で+35.9%、売上収益も+3.2%と増えている。

利益率で並べると差はさらに縮む。機械の営業利益率は9.7%、水・環境は8.8%だ。1ポイント弱しか開いていない。構成比では8分の1に見える事業が、利益を生む効率では主力とほぼ肩を並べている。

機械業種160社の営業利益率の中央値は7.9%である。水・環境の8.8%はこれを上回る。「農機のついでの水回り」という位置づけでは説明しきれない水準だ。

沿革を並べ直すと、この部門が細くならなかった理由が見えてくる。1941年10月に遠心力鋳鉄管の鋳造を開始し、1952年12月には武庫川機械工場でポンプの製造に入った。そして1962年12月、水処理事業部を新設して環境事業へ本格進出している。

管を鋳る、水を送る、水を処理する。技術の系譜が途切れずに次の事業へ渡っていった格好だ。

対照的なのは住宅建材である。1967年6月に久保田建材工業の製造部門を吸収して本格進出したこの事業は、2003年12月に会社分割でグループの外へ出た。同じ多角化の産物でも、残ったものと出したものがある。

会社は次期の見通しについて、水・環境部門もパイプシステム事業および産業機材事業の販売増加で増収を見込むとしている。創業事業の系譜は、過去の逸話ではなく足元の増収要因として語られている。

1/2

出所:株式会社 クボタ 2025年12月期 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社 クボタ 2025年12月期 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 1カ月でほぼ横ばい、9月初めの3,000円台からは下押し

2/2

出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

株価に目を移す。直近1カ月の起点となる2026年8月14日の終値は2,752円、終点の2026年9月11日は2,783円だった。1カ月を通せばほぼ横ばい圏である。

もっとも、その中身は平坦ではない。直近1カ月の日次終値でみると、最も低い水準は2026年8月19日の2,498円、最も高い水準は2026年9月3日の3,028円だ。500円を超える振れ幅が1カ月に収まっている。

9月に入ってからは、上旬の3,000円台から10日ほどで2,700円台まで水準を戻す動きになった。9月11日は前営業日からも小幅に下げている。

何がこの下押しを招いたのか。株価の動きは相場全体の地合いや需給も絡むため断定はできないが、9月初めに切り上がった水準に対するバリュエーション面の調整が意識された可能性はある。

9月11日時点のPER(株価収益率)は10.93倍、PBR(株価純資産倍率)は1.12倍である。機械業種の他社と比べて突出して高い水準ではない。

一方で、一般的な見方とずれる数字もある。2025年12月期の自己資本比率は42.3%だが、機械業種160社の中央値は67.3%だ。総資産6兆2,049億円に対し、有利子負債は2兆2,420億円を抱える。

機械メーカーは自己資本が厚い、というイメージとは明らかに違う姿だ。事業構成の違いが効いている可能性はあるが、いずれにせよPBR1.12倍という数字は、この資本構成の上に乗っている。

4. 筆者コメント

セグメントごとの利益の動きを並べてみると、この会社の輪郭が少し変わって見える。

機械が全体の9割近くを占めるという事実は変わらない。それでも、利益の増減の向きが部門ごとに逆を向く年がある。景気感応度の異なる事業を抱えることの意味は、構成比の大きさだけでは測れないということだろう。

イメージが更新されにくいのは、おそらく事業の見え方と収益構造がずれているからだ。トラクターは道路を走り、人の目に触れる。地中に埋まった管は見えない。見えないものは語られず、語られないものはイメージに入らない。

もっとも、投資家が見るべきは見えやすさではなく、利益がどこから出ているかだ。構成比の小さい事業を「その他」としてまとめて処理せず、部門別の利益の増減の方向まで追ってみることをおすすめしたい。