6. 粗利率は上がったのに営業利益率が下がった理由
価格改定が効いたかどうかは、粗利率を見れば分かる。2024年2月期の粗利率は48.6%、2026年2月期は49.7%。2期で1.1ポイント上がっている。値上げは粗利の段階では、たしかに通っている。
問題はその先だ。売上高に対する販管費の比率は、同じ2期で40.1%から42.5%へ2.4ポイント上がった。差し引きすると営業利益率は8.6%から7.2%へ1.4ポイント下がる。粗利で積み増した分を、販管費がそれを上回るペースで食っている。
外食のカレーチェーンと聞くと、原材料高が来ても値上げで吸収できる業態というイメージが先に立つ。だが数字の並びが示しているのは、吸収しきれていないのは原材料ではなく、原材料の外側にある費用だという姿だ。価格と原価の話だけを追っていると、この構図は見えてこない。
2026年2月期の販管費の中身を見ると、人件費が63億円、地代家賃が30億円、運賃荷造費が29億円という並びになる。人件費のうち給料及び手当が54億円を占める。従業員数は2024年2月期の1,175人から1,298人へ増えた。店を増やし、人を増やし、運ぶコストと借りるコストも一緒に増える。売上が伸びるほど膨らむ費用が、販管費の中心に座っている。
7. 営業キャッシュフローを設備投資と配当が使い切る局面
費用が増えているのは、会社が縮んでいるからではない。2026年2月期の設備投資は48億円で、2024年2月期の23億円から倍増している。減価償却費は20億円。投資額が償却額を大きく上回る状態が続いており、資産は増える方向にある。
実際、有形固定資産は141億円から160億円へ、のれんは20億円から32億円へ増えた。子会社の取得を含む外への投資が混ざっているとみられる。会社が増収の要因として国内外子会社の事業拡大を挙げていることと、この並びは整合する。
そこで手元のキャッシュを見ると、話がつながる。2026年2月期の営業キャッシュフローは55億円。一方で設備投資が48億円、配当の支払いが25億円あり、合計は営業キャッシュフローを上回る。現金及び預金は前期末の152億円から130億円へ減った。
配当は年16円で据え置かれ、配当総額も25億円でほぼ動いていない。それでも配当性向は前期の80.5%から99.6%へ上がった。増配したからではなく、純利益が減ったからだ。小売業の配当性向の中央値が32.9%であることを踏まえると、この水準は相当に高い。
自己資本比率は67.0%、借入金は2億円程度しかない。一般には財務の安全性として好感される姿だろう。もっとも、成長投資を続けながら利益のほぼ全額を配当へ回し、負債をほとんど使わない資本構成が最適かどうかは別の論点になる。使える負債余力を遊ばせている状態とも読める。
8. 絶対水準は後退、相対水準はまだ厚いという同時進行
ここまで自社の時系列で見てきたが、外の物差しも当ててみよう。2026年2月期の営業利益率7.2%に対し、小売業259社の中央値は3.7%。倍近い水準にある。粗利率49.7%も中央値46.0%を上回り、自己資本比率67.0%は中央値48.1%を大きく超える。
小売業は薄利多売で利益率が低いという一般的な見方は、この会社に限れば当てはまらない。ただし小売業という区分にはスーパーもコンビニも専門店も同居しており、中央値は粗い目安にすぎない。外食のフランチャイズ型の収益構造は、そもそも物販の小売とは費用の出方が違う。中央値との比較は、位置の確認までにとどめるのが妥当だろう。
それでも一つ、比較がはっきり効く場所がある。増収率と増益率のねじれだ。2026年2月期の増収率+7.4%は小売業の中央値4.0%を上回る。一方で営業増益率は▲4.3%で、中央値の+4.9%を下回った。売上の伸びでは業種平均より速く、利益の伸びでは業種平均より遅い。
絶対水準は自社の過去に対して後退し、相対水準は業種に対してまだ厚い。この2つは矛盾せず、同時に成立している。どちらか片方だけを見て評価すると、判断を誤りやすい局面だ。
9. 筆者コメント
同社の5期を並べて気づくのは、利益の天井が売上の側ではなく費用の側で決まっているという点だ。
売上は途切れずに伸びている。伸ばす力は落ちていない。それでも利益の絵が変わったのは、伸びた売上が利益に届く前に、以前より多くの費用に取られているからだ。
このとき経営が選べる手は多くない。値上げをさらに重ねるか、出店と人の増やし方を緩めるか、費用の中身を組み替えるかだ。会社は当面、厳しい経営環境が続くという見方を示している。短期に費用が軽くなる前提は置いていないということになる。
私が注目したいのは、次の決算で粗利率と販管費率のどちらが先に動くかだ。粗利率が先に伸びれば価格の効き方が変わったサインになり、販管費率が先に止まれば費用側に手当てが入ったサインになる。どちらが先かで、この会社の利益がどこから戻るのかが見えてくる。
売上高の増減だけを追う読み方からは、この差は出てこない。決算短信を開いたら、売上の伸びを確認したあとに必ず費用の並びまで下りていく習慣をおすすめしたい。
参考資料
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石津 大希