1. 8月末に一段上がった株価の水準、決算を伴わない切り上がり
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出所:各種資料をもとに筆者作成
直近1カ月の終値をたどると、8月中旬から下旬は930円台から950円前後のレンジに収まっていた。約2週間にわたって、この水準はほとんど動いていない。
変化が起きたのは8月の最終営業日だ。前営業日の941円から1,091円へ、150円高い水準で引けた。翌営業日には1,117円まで乗せ、これが直近1カ月の終値では最も高い。
その後は1,078円から1,100円のレンジで横に流れている。9月11日の終値は1,090円で、前営業日の1,095円からはほぼ横ばいだ。1カ月前の937円と比べれば16%高い水準にある。
この切り上がりは、新しい決算の発表を伴ったものではない。株価は相場全体の地合いや需給でも動くため、単一の材料に帰することはできない。ただ、決算の数字が変わっていない局面で水準が一段上がったのなら、意識されたのは足元の実績ではなく、その先に対する見方の変化だった可能性が高い。
2. 増収でも営業利益が1割以上減った2027年2月期1Qの中身
直近の決算は2027年2月期1Qだ。売上高は169億円で前年同期比+7.8%、営業利益は10億円で同▲14.3%。経常利益は▲15.8%、純利益は▲21.1%と、下の段へ行くほど減益幅が広がっている。
前年同期の営業利益は12億円だった。1年で2億円ほど削られた計算になる。増収が7%台で進んでいるのに利益が減るのだから、稼ぎ方のどこかで目減りが起きている。
会社の説明によると、売上高の増加は主に海外・国内子会社の事業拡大によるもので、利益面は米を始めとする食材仕入価格の上昇や物流費等の増加が効いた。2027年2月期の上期と通期の業績予想に変更はないとしている。
通期の営業利益予想は50億円。1Qの進捗率は21.7%で、直線的なペースの25%には届いていない。もっとも外食には季節性があるため、1Qの進捗だけで通期を判定するのは早い。むしろ、会社が予想を据え置いたという事実のほうが、いまは情報として重い。
3. 売上は4期で45%増えたのに、営業利益は2期前に戻った
少し引いて5期を並べてみよう。売上高は2022年2月期の450億円から2026年2月期の655億円へ、4期で45%増えた。小売業の増収率の中央値が4.0%であることを踏まえれば、伸ばす力そのものは落ちていない。
ところが営業利益は、同じ期間で28億円から47億円まで増えたあと、そこで足を止めている。2024年2月期の営業利益は47億円、2026年2月期も47億円だ。その間に売上高は551億円から655億円へ、100億円以上増えている。
営業利益率で見ると動きはさらにはっきりする。6.3%、7.5%、8.6%と切り上がったあと、8.1%、7.2%と2期続けて下がった。増収と利益率の改善が並走していた局面は、2024年2月期でいったん終わっている。
2026年2月期について、会社は国内CoCo壱番屋における価格改定効果や国内外子会社の事業拡大が増収に寄与した一方、米をはじめとする食材の仕入価格高騰や物流費の増加といった大幅なコスト増を吸収できなかったとしている。純利益が▲19.2%まで落ちたのは、店舗に係る減損損失の増加と、本部のソフトウエア入れ替えに伴う固定資産除却損が重なったためだ。減損損失は前期の5億円から8億円へ増えている。
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出所:株式会社壱番屋 有価証券報告書をもとに筆者作成
4. PER64倍という評価は何を先に見ているのか
9月11日時点のPER(株価収益率)は63.97倍、PBR(株価純資産倍率)は5.47倍だ。小売業全体を見渡せば、いずれもかなり高い側の水準にある。
会社の通期予想EPS(1株当たり当期純利益)は17.04円。PERを「いまの株価を1年分の利益で何年かけて回収できるか」と読み替えると、64倍という数字は60年を超える回収期間を意味する。利益が伸びれば回収は早まるが、その伸びを相当長く見込まないと届かない水準だ。
注意したいのは、この倍率が直近の利益の伸びでは説明できないことだ。2027年2月期の会社予想は営業利益+6.0%、純利益+6.1%で、いずれも1桁の伸びにとどまる。1桁の利益成長に60倍超の倍率が乗っているなら、市場が値付けしているのは今期の数字ではない。
PBR5.47倍のほうは、自己資本の厚みそのものではなく、その自己資本が生み出す収益力への期待が上乗せされている状態だ。2026年2月期のROE(自己資本利益率)は8.0%で、小売業の中央値7.5%をわずかに上回る程度。資本効率の絶対水準だけで5倍台のPBRを説明するのは難しい。
5. 筆者コメント
増収を続けている会社の利益が伸びない。この状態を、市場はどう値付けするのが正しいのだろうか。
素直に考えれば、利益が伸びない期間が続くほど評価は下がるはずだ。ところが足元で起きたのは逆で、株価の水準はむしろ一段上がった。
私はこのねじれを、市場が置いている時間軸の長さのあらわれだと読んでいる。60倍を超える倍率は、今期の利益では到底説明がつかない。説明がつくのは、何年も先まで利益が積み上がる絵を市場が持っている場合だけだ。
裏を返せば、この銘柄のボラティリティ(株価の値動きの激しさ)は決算1回の善し悪しでは決まらない。長い期待が乗った株価は、その期待の前提が崩れたときにだけ大きく動く。8月末の水準切り上がりが決算を伴わなかったのも、前提側で何かが動いたとみるほうが自然だろう。
株価を追うときは、目先の減益幅ではなく、市場が置いている時間軸の長さを意識してほしい。