2. 年金以外にいくら必要か、その不足額は何と何の差か

一人暮らしが増えていくなかで、老後に必要な金額はよく試算されます。ただしその不足額が何を引いた数字なのかは、あまり確かめられていません。

不足額の中身は、LIMOの記事「年金以外にいくら必要か?「不足額」の中身と、額面・手取りの差という落とし穴を試算で検証する」から要点を借りて確認します。

2.1 よく使われる4万2434円という数字

まず出発点になっている数字です。

総務省「家計調査報告(家計収支編)」2025年(令和7年)平均(2026年2月6日公表)によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の実収入は月25万4395円、消費支出は26万3979円でした。

この不足額は、月4万2434円です。この数字が「老後は年金だけで月4万円強足りない」という文脈でよく使われます。

出所:LIMO「年金以外にいくら必要か?「不足額」の中身と、額面・手取りの差という落とし穴を試算で検証する」

この4万2434円は、実収入と消費支出の差ではありません。家計調査は不足分を、実収入と消費支出および非消費支出の計との差として示しています。非消費支出は税や社会保険料で、月3万2850円です。

26万3979円に3万2850円を足した29万6829円から実収入25万4395円を引くと、4万2434円になります。

2.2 実収入には年金以外の収入も入っている

ここにもう1つ前提のずれがあります。

同記事によると、この実収入25万4395円には、社会保障給付だけでなく、勤め先収入や事業収入といった年金以外の収入も含まれています。統計上の実収入は、それらを合算した概念です。

実収入のうち社会保障給付は22万8614円で、実収入の89.9パーセントを占めます。残りの10.1パーセント、約2万5781円は勤労収入などの年金以外の収入です。

つまり4万2434円という不足額は、年金と支出の差ではありません。年金に働いて得た収入を足したものと、支出との差です。

2.3 年金だけで見ると不足額はもっと大きい

年金以外の収入を除くとどうなるかです。

同記事は単身世帯についても同じ分解をしています。実収入13万1456円のうち社会保障給付は12万212円で91.4パーセント、残り8.6パーセントにあたる約1万1244円が年金以外の収入です。家計調査が示す単身無職世帯の不足分は2万9980円です。

年金だけで支出をまかなうと考えると、夫婦のみ無職世帯は29万6829円と22万8614円の差で月6万8215円、単身無職世帯は16万1435円と12万212円の差で月4万1223円が足りません。

非消費支出を入れるかどうかで、不足額は1.5倍以上に変わる2/2

65歳以上の夫婦のみ無職世帯と単身無職世帯について、実収入・社会保障給付・消費支出・非消費支出・不足分・年金だけで見た不足額を並べた表

出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」をもとにLIMO編集部作成

30年間、360か月で単純計算すると、夫婦世帯で約2456万円、単身世帯で約1484万円になります。よく使われる4万2434円を前提にした試算は約1528万円なので、年金だけで見た不足額のほうが夫婦世帯では大きくなります。

年金以外の収入を含めた不足額のほうが公表資料として目にする機会が多い一方、年金だけで見た不足額はそれより大きくなります。同記事は、直感的な予想を裏切る結果だと述べています。

2.4 働いている世帯が平均を押し下げている

なぜそうなるのかにも説明があります。

同記事は、これは勤労収入がある世帯とない世帯を平均した数字である以上、当然に起きる現象だと整理しています。継続雇用で働く世帯の存在が、全体の不足額を見かけ上小さく見せているという構造です。

したがって、退職して年金だけで暮らす前提の人が4万2434円をそのまま自分に当てはめると、必要額を小さく見積もることになります。前提が違うためです。

2.5 年金の平均額も夫婦モデルとは開きがある

収入の側も確かめておきます。

厚生労働省の令和8年度の年金額改定の資料では、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額が月額23万7279円と示されています。令和7年度は23万2784円でした。

一方、同記事が引く厚生労働省年金局の令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況では、厚生年金保険の老齢年金の平均年金月額は全体で15万289円、男性16万9967円、女性11万1413円です。この平均年金月額には、併給する老齢基礎年金の額が含まれています。

モデルケースは一定の前提を置いた標準的な世帯の額で、しかも令和8年度の額です。令和6年度末時点の個人の平均年金月額とは、前提も年度も違います。男性16万9967円と女性11万1413円の差も5万8554円あり、どちらの数字を前提にするかで見通しが変わります。

2.6 額面と手取りの差も残っている

もう1つ落とし穴があります。

同記事は、年金額として示される数字が額面であり、そこから税や社会保険料が引かれる点を挙げています。手元に残る額は、示された金額より少なくなります。

不足額を計算するときに、収入側だけ額面を使うと差が小さく出ます。支出は実際に払う額なので、比べる基準を揃える必要があるという整理です。家計調査で非消費支出として計上されている3万2850円が、まさにこの引かれる分にあたります。

3. 世帯の姿と、不足額の前提を分けて確かめる

ここまで、高齢者世帯の姿の変化と、老後の不足額の中身を見てきました。

世帯の側は、令和6年現在で65歳以上の者のいる世帯が2760万4千世帯、全世帯5482万5千世帯の50.3パーセントです。昭和55年に半数を占めていた三世代世帯に代わり、令和6年では夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割になりました。一人暮らしの割合は昭和55年の男性4.3パーセント・女性11.2パーセントから、令和2年に男性15.0パーセント・女性22.1パーセント、令和32年には男性26.1パーセント・女性29.3パーセントと見込まれています。

金額の側は、よく使われる月4万2434円が実収入と「消費支出および非消費支出の計」との差であること、しかもその実収入には年金以外の収入が含まれていることの2点です。年金だけで見ると不足額は夫婦のみ無職世帯で月6万8215円、単身無職世帯で月4万1223円になり、30年では約2456万円と約1484万円になります。

まずは自分が年金以外の収入を見込むのかどうかを決めるところからになります。自分の年金見込額はねんきん定期便やねんきんネットで確認でき、額面から引かれる税や保険料の見込みは、お住まいの市区町村の窓口や年金事務所にご確認ください。

参考資料

LIMO編集部貯蓄解説班