1. 社名の由来は造船。それでも利益の柱は別の場所にある
この会社の商号は、2006年10月まで石川島播磨重工業だった。有価証券報告書の沿革をたどると、起点は1853年、隅田河口の石川島に幕命により創設されたことにさかのぼる。1889年には有限責任石川島造船所となり、1893年に東京石川島造船所へ改称している。
1945年に石川島重工業となり、1960年には播磨造船所を合併して石川島播磨重工業になった。名古屋造船、呉造船所と、合併の相手にも造船会社が並ぶ。社名に造船が残っていたのは自然な流れだった。
その造船事業は、2013年1月にIHIマリンユナイテッドとユニバーサル造船の経営統合という形で、ジャパン マリンユナイテッドへ移っている。橋梁や水門といった鋼構造物の事業も、2009年に別会社へ承継させた。
では今、この会社はどこで稼いでいるのか。2026年3月期の事業別の数字が、それを一行で答えてくれる。
航空・宇宙・防衛の売上収益は6,481億円で、連結売上の39.4%を占める。そして営業利益は1,124億円。連結の営業利益1,655億円のうち、7割近くをこの1事業が生んでいる。
一方で資源・エネルギー・環境は、売上収益3,734億円と構成比22.7%を持ちながら、営業利益は59億円にとどまる。売上の存在感と利益の出方が噛み合っていない。
2. 営業利益率17%台の航空と、1%台の資源・エネルギー
セグメントごとの営業利益率を並べると、この会社の輪郭がはっきりする。航空・宇宙・防衛が17.3%、産業システム・汎用機械が7.0%、社会基盤が2.9%、資源・エネルギー・環境が1.6%だ。
倍率で言えば、航空は資源・エネルギー・環境の10倍を超える利益率で回っている。同じ会社の中に、これだけ性質の違う事業が同居している。
金額で並べても傾きは同じだ。航空・宇宙・防衛の1,124億円に対し、産業システム・汎用機械が307億円、資源・エネルギー・環境が59億円、社会基盤が37億円。4つの報告セグメントを横に置くと、利益がどれだけ一点に寄っているかが分かる。
利益の出方については、2026年3月期3Q累計の短信に会社の説明がある。民間向け航空エンジンのアフターマーケット事業が堅調に推移し、運搬機械事業の譲渡益も計上した一方で、民間向け航空エンジンでの整備費用の増加、研究開発費などの販管費の増加、資源・エネルギー・環境事業での一部海外事業の採算悪化が重なり、営業利益は9億円の減益となって1,025億円で着地した。
そして通期の航空・宇宙・防衛は、売上収益が前期比17.3%増えたのに営業利益は▲8.4%だった。整備費用と開発費が先に立ったという会社の説明は、このセグメントの姿とよく噛み合う。
需要が細ったわけではない。稼働している機体が増えれば整備の仕事も増え、その費用は利益より先に出る。次の世代に向けた開発費も同時に走る。減益の中身は後退ではなく、前のめりの負担だと読み取れる。
他のセグメントは対照的だ。産業システム・汎用機械は減収▲7.7%ながら営業利益が185.0%増え、社会基盤も187.9%増。資源・エネルギー・環境だけが▲63.1%と沈んだ。
そしてこの集中は、過去の話ではない。2022年11月にはIHI原動機の大型エンジン事業を三井E&Sへ譲渡した。
2026年4月には、IHI運搬機械の運搬機械事業をタダノへ、IHI汎用ボイラの全株式をタクマへ、IHI建材工業をベルテクスコーポレーションへ、新潟トランシスをジェイ・ケイ・エフへと、周辺の事業と子会社を次々に手放している。
3Q累計の減収要因として会社が挙げた中核事業での事業譲渡も、この流れの一部だ。売上を削ってでも利益率の高い場所に資源を寄せる。船と橋の会社という見え方が更新されないまま、中身は静かに入れ替わってきた。
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出所:株式会社IHI 有価証券報告書をもとに筆者作成
3. 1カ月で1割下げた株価と、PER16倍台という値段
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出所:各種資料をもとに筆者作成
株価に目を移す。直近1カ月の終値をたどると、8月13日は2,975円、翌14日は3,028円で、この期間では最も高い終値をつけた。
そこから水準が下がる。8月18日は2,988円、19日には2,773円まで一段落ち、以降は2,600円台から2,700円台のレンジに収まった。9月2日の2,600円が、この期間で最も低い終値である。
9月9日には2,801円まで戻したが、9月10日の終値は2,664円。前営業日から4.9%下げている。8月13日を起点にすれば、1カ月で1割程度の下落だ。
この下げを個別の材料に結び付けるのは難しい。直近の決算開示からは1カ月以上が経っている。株価は決算だけでなく、相場全体の地合いや需給でも動く。ここは後者が効いた可能性のほうが高いとみている。
9月10日時点のPER(株価収益率)は16.42倍、PBR(株価純資産倍率)は4.05倍だ。純資産の4倍を超える値段が付いている。
その背景はROE(自己資本利益率)に現れている。2026年3月期のROEは28.4%で、機械業種の中央値7.8%を大きく上回る。稼ぐ力の水準が違えば、純資産に対して市場が付ける値段も違ってくる。
4. 筆者コメント
見逃せないのは、最も稼いでいる事業が、増収のまま利益を減らしていたという点だ。
数字だけ見れば悪材料に映る。だが中身は整備と開発の費用が先に立ったことによるもので、需要の後退ではない。この種の減益は、事業が広がっている局面ほど起きやすい。
私が気になるのは、そこではなく見え方のほうだ。社名から造船が消えて20年近くが経ち、周辺の事業も次々に手放してきた。それでも重工という枠でこの会社を眺める習慣は、なかなか更新されない。
会社の輪郭は、事業の並びよりも利益の出どころで捉えたほうが早い。売上の構成比で見れば主役とまでは言えない事業が、利益では大半を背負っている。この非対称は、決算のたびに確かめておく価値がある。
次の決算では、売上の伸びよりも、この1事業が費用の先行負担をどこまで吸収できたかに目を向けてみてほしい。