「年収600万円」と求人票や源泉徴収票で見かけても、実際に手元に残る金額がいくらなのかは意外とわかりにくいものです。額面と手取りの差は、社会保険料・所得税・住民税という複数の制度が絡み合って生まれるため、単純な割合では説明しきれません。
さらに厄介なのは、同じ「年収600万円」でも、賞与(ボーナス)をどう配分して受け取るか、40歳を迎えて介護保険料の対象になるかどうかで、手取りの中身が変わってくる点です。この記事では、令和8年度の実際の社会保険料率・税率を使い、東京23区在住・独身・扶養親族なしという前提で、年収600万円の手取りを具体的に試算します。
1. 年収600万円の手取りは、何がどれだけ引かれて決まるか
まず、年収600万円という額面から手取りを出すために、実際に何が天引きされるのかを確認しておきます。大きく分けると、天引きされるのは社会保険料と税金の2種類です。
1.1 天引きされる4つの社会保険料と2つの税金
社会保険料は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・子ども子育て支援金の4つで構成されます。会社員の場合、このうち健康保険料と厚生年金保険料は会社と折半で負担します。
税金は所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の2つです。所得税はその年の所得に対して、住民税は前年の所得に対して課税されるという時期のズレがあります。
これらを合計600万円から差し引いた残りが、いわゆる「手取り」です。
1.2 令和8年度の料率で試算した年収600万円の手取り
東京23区在住・40歳未満・独身・扶養親族なし・賞与なし(月给50万円×12か月)という前提で、令和8年度の実際の料率を積み上げて計算すると、年間の手取りは465万9400円になります。月平均では約38万8000円です。
2. 「年収600万円の手取り」は一つの数字ではない――賞与配分で変わるのは月々の受取額
年収600万円の内訳には、実は2つのパターンがあります。ボーナスが出ない代わりに月给が高い会社と、月给は抑えめでも年2回のボーナスがある会社です。同じ「年収600万円」でも、この配分によって手取りは変わるのでしょうか。
2.1 賞与なしと賞与ありを比較する
賞与なしのケースは、月给50万円×12か月=年収600万円です。賞与ありのケースは、月给40万円×12か月+賞与60万円×年2回=年収600万円とします(実在の統計に基づく平均的な配分ではなく、本記事のシミュレーション例です)。
2.2 【賞与配分の違いによる年間手取りの比較】
賞与なし(月给50万円×12)
- 社会保険料:88万1400円
- 所得税等:14万9400円
- 住民税:30万9800円
- 年間手取り:465万9400円
賞与あり(月给40万円×12+賞与60万円×2)
- 社会保険料:88万1400円(月给分70万5120円+賞与分17万6280円)
- 所得税等:14万9400円
- 住民税:30万9800円
- 年間手取り:465万9400円
健康保険・厚生年金・雇用保険・子ども子育て支援金は、いずれも収入に比例した料率で決まるため、月给と賞与のどちらに配分しても、年間の合計額は変わりません。所得税・住民税も、年間の給与所得をもとに1年分まとめて計算されるため、同じ結果になります。つまり、賞与の有無や配分は、年間の手取り総額そのものには影響しないということです。
ただし、月々の受取額は大きく変わります。賞与なしのケースは毎月ほぼ同じ金額が振り込まれますが、賞与ありのケースは、賞与月とそれ以外の月とで手取りの振れ幅が大きくなります。「年間の手取りは同じでも、月々の家計の見え方は別物」という点が、この記事の1つ目のポイントです。
3. 【編集者の視点】
年収600万円の手取りを「月収」として扱う場面で、実務上つまずきやすいのが住宅ローンや賃貸物件の審査です。多くの金融機関・不動産会社の審査書類には「月収」を記入する欄がありますが、賞与を含む年収を単純に12で割った金額を書いてしまうと、実際の月给と大きくずれることがあります。
審査で見られるのは、源泉徴収票に記載された「支払金額」(年収)であることが一般的で、月収欄はあくまで参考情報として扱われるケースが多いのですが、記入時に「実際に毎月振り込まれる月给」なのか「年収を12で割った金額」なのかを混同すると、担当者との認識のズレが生じることがあります。
また、賞与ありの給与体系の場合、賞与月とそれ以外の月とで手取りの差が大きくなるため、生活費の引き落とし口座の残高管理を「毎月同じ金額が入る」前提で組んでしまうと、賞与のない月に資金繰りが厳しくなることがあります。
対策としては、まず自分の給与明細・雇用契約書を確認し、月给と賞与の内訳を把握したうえで、生活費は月给部分でまかない、賞与部分は住居費のボーナス払いや貯蓄・特別支出に充てるという形で、あらかじめ役割を分けておくことが実務上の防衛策になります。不明な点は、勤務先の給与担当窓口に確認するとよいでしょう。
4. 賞与からは住民税が天引きされない――所得税との知られざる非対称性
賞与が出た月の手取りを見て、「思ったより多く残る」と感じたことはないでしょうか。実はこれには、住民税の仕組みが関係しています。
4.1 所得税は賞与にもかかるが、住民税はかからない
所得税は、その月に支払われる給与や賞与の金額に応じて、その都度源泉徴収されます。一方、住民税は前年の所得をもとに市区町村が年間の税額をあらかじめ決定し、その税額を分割して天引きする仕組みです。
所得税は、その月の給与やボーナスなどの金額に応じて源泉徴収(給与天引き)されますが、個人住民税は、前年の収入や控除を基にして給与から差し引く税額を市区町村が決定します。ここで決定した税額は、その年の6月から翌年5月まで12回に分けて毎月の給与から差し引かれます(ボーナスなどからは差し引かれません)。
出典:鎌倉市「給与から個人住民税が天引きされるのはなぜですか」
つまり、住民税は毎月の給与からのみ分割で天引きされ、賞与からは天引きされません。社会保険料と所得税は賞与にもかかるのに対し、住民税だけは例外的な扱いになっているのです。
4.2 賞与月の手取り率が高く見える理由
先ほどの試算では、年収600万円にかかる住民税は年間30万9800円でした。これは年収に対しておよそ5.16%にあたります。賞与からは社会保険料(8万8140円)と所得税が天引きされますが、住民税はかかりません。
一方、通常の月給からは、社会保険料と所得税に加えて、住民税の月割額(年間30万9800円を12等分した金額)も毎月天引きされます。賞与にはこの住民税の負担が乗らない分、毎月の給与と比較して手取りの割合が高く見えるというわけです。
5. 【編集者の視点】
住民税をめぐる実務の罠としてよく相談に上がるのが、「6月の給与から急に手取りが減った」という戸惑いです。これは、5月末に勤務先へ届く「特別徴収税額決定通知書」をもとに、6月分の給与から新しい年度の住民税額が反映されるために起こります。
特に、前年に賞与が多かった、あるいは昇給した年の翌年6月は、住民税額も連動して上がるため、給与そのものは変わっていないのに手取りが目減りしたように感じやすいタイミングです。所得税がその月の収入に応じてすぐ反映されるのに対し、住民税は1年遅れで反映されるという時期のズレが、この体感のギャップを生んでいます。
防衛策としては、給与明細の「住民税」欄を6月に必ず確認し、前年からの増減を把握しておくことです。特に前年に賞与が多かった人や転職・昇進で年収が大きく上がった人は、翌年6月の手取り減少をあらかじめ想定して、家計の引き落としに余裕を持たせておくとよいでしょう。金額の詳細や算定根拠に疑問がある場合は、特別徴収税額決定通知書に記載された市区町村の税務担当窓口に問い合わせることができます。
6. 40歳になると、同じ年収600万円でも手取りが変わる――介護保険料の影響
ここまでの試算は「40歳未満」を前提にしていました。しかし、40歳の誕生日を迎えると、公的介護保険の第2号被保険者となり、新たに介護保険料が上乗せされます。同じ年収600万円でも、40歳を境に手取りは変わるのでしょうか。
6.1 介護保険料が加わると、社会保険料は約4万8600円増える
令和8年度の東京都の場合、介護保険料率は1.62%(本人負担0.81%)です。年収600万円にこの料率を当てはめると、介護保険料の本人負担は年間4万8600円になります。
6.2 【40歳未満と40歳以上(介護保険料あり)の年収600万円の手取り比較】
40歳未満
- 社会保険料:88万1400円
- 年間手取り:465万9400円
40歳以上65歳未満(介護保険料あり)
- 社会保険料:93万円(介護保険料本人負担4万8600円を含む)
- 年間手取り:462万0600円
介護保険料が加わると、その分だけ社会保険料控除も増えるため、所得税・住民税はわずかに軽くなります。それでも差し引きすると、40歳以上の年収600万円の手取りは、40歳未満より年間3万8800円少なくなる計算です。月に換算すると3000円強ですが、年単位で見ると小さくない差です。
手取り月額でいうと、年収600万円は手取り26万〜45万円は年収いくらか(中堅層向け)で扱った手取り帯にちょうど重なります。あわせて確認すると、年収と手取りの対応関係がより立体的につかめます。
7. 【編集者の視点】
40歳到達にまつわる実務の罠として見落とされがちなのが、介護保険料の徴収開始タイミングです。介護保険料は40歳の誕生日の前日が属する月から徴収が始まるため、誕生日が月の初日(1日)の人は、前月分から徴収対象になります。
多くの場合、給与計算のタイミングによっては、誕生日を迎えた月やその翌月の給与明細で急に社会保険料の天引き額が増え、「何かの間違いではないか」と戸惑う人がいます。金額の変化自体は正しい制度上の反映であり、給与計算のミスではないことがほとんどです。
防衛策としては、40歳の誕生日を迎える前後の給与明細で、健康保険料・介護保険料の項目を確認し、金額が変わっていたら理由(介護保険料の追加)を給与担当窓口に確認しておくと安心です。
あわせて、40歳から65歳未満の期間は特定の疾病により要介護状態になった場合に介護サービスを利用できる立場になる点も、知っておくとよいでしょう。詳しい認定手続きは、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口で確認できます。
※本記事は、編集部が全国健康保険協会・日本年金機構・厚生労働省・国税庁・東京都主税局・鎌倉市が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
8. まとめ
- 年収600万円(東京23区・40歳未満・独身・扶養親族なし・賞与なし)の手取りは、令和8年度の料率で試算すると年間465万9400円、月平均約38万8000円になります。
- 賞与の配分(月给のみか、月给と賞与に分けるか)によって、年間の手取り総額は変わりませんが、月々の受取額の変動幅は大きく異なります。
- 住民税は毎月の給与からのみ天引きされ、賞与からは天引きされません。所得税・社会保険料は賞与にもかかるため、賞与月は住民税分だけ手取り率が高く見えます。
- 40歳になり介護保険料が加わると、同じ年収600万円でも手取りは年間約3万8800円少なくなります。
年収600万円という一つの数字の裏には、賞与の受け取り方や年齢によって変わる、いくつもの前提条件が隠れています。早見表の「約〇〇万円」という数字だけを見て安心するのではなく、自分自身の給与体系や年齢に照らして数字を読み直すことが、家計を正確に把握する第一歩になります。
気になる場合は、自分の給与明細・源泉徴収票を手元に用意し、社会保険料・所得税・住民税それぞれの金額が本記事の試算とどう違うかを見比べてみてください。不明な点があれば、勤務先の給与担当窓口や、お住まいの市区町村の税務担当窓口に確認すると、より正確な状況がわかります。
9. よくある質問
9.1 Q. 年収600万円の手取りは月収でいくらですか?
A. 東京23区在住・40歳未満・独身・扶養親族なし・賞与なしという前提で試算すると、年間手取り465万9400円を12等分した月平均は約38万8000円になります。ただし賞与ありの給与体系の場合、月々の実際の受取額はこの平均値より変動します。
9.2 Q. 年収600万円は独身か、配偶者や子どもがいるかで手取りは変わりますか?
A. 変わります。扶養親族が1人いる場合、所得税・住民税の扶養控除の分だけ税負担が軽くなります。地域による健康保険料率の違いとあわせて、手取り26万〜45万円は年収いくらか(中堅層向け)などで扶養控除の影響を試算していますので、あわせてご確認ください。
9.3 Q. 年収600万円の手取りはボーナスの有無で変わりますか?
A. 年間の手取り総額は、ボーナスの有無や配分によって基本的に変わりません。社会保険料・所得税・住民税はいずれも年間の給与所得全体をもとに計算されるためです。ただし、月々の受取額の変動幅は大きく異なります。
9.4 Q. 40歳になると年収600万円の手取りはどのくらい変わりますか?
A. 介護保険料(本人負担0.81%、令和8年度の東京都の場合)が加わるため、40歳未満より年間約3万8800円手取りが少なくなる計算です。介護保険料の徴収は40歳の誕生日の前日が属する月分から始まります。
9.5 Q. 年収600万円の住民税は、ボーナスからも天引きされますか?
A. 天引きされません。住民税は前年の所得をもとに市区町村が年間税額を決定し、6月から翌年5月までの12回に分けて毎月の給与からのみ特別徴収されます。所得税や社会保険料とは異なり、賞与から住民税が天引きされることはありません。
参考資料
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表(東京支部)」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表(令和8年度版)」
- 厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」
- 国税庁タックスアンサー「No.1410 給与所得控除」
- 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表・税率表」
- 国税庁タックスアンサー「No.1199 基礎控除」
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」(令和8年4月)
- 東京都主税局「個人住民税」
- 鎌倉市「給与から個人住民税が天引きされるのはなぜですか(特別徴収とはなんですか)?」
LIMO編集部年収解説班
