9月は、多くの会社で下半期が始まり、上期の振り返りや来期の役割について面談が組まれる時期です。
役職が一つ上がると、毎月の賃金と賞与の両方が動きます。ところが、増えた分をどこに置くかを決めるのは、たいてい辞令が出てからになります。
お金の相談に来られる時期は、人によってかなり違います。昇進が決まったあとに来られる方と、その前に来られる方では、そのとき残っている選択肢の数が変わってきます。同じ年収差でも、いつから動かし始めたかで10年後の残高は開くからです。
ここでは役職別の賃金と年収、そして管理職の時間と負担の配分を確かめたうえで、昇進で生まれた年収差をそのまま積み立てに回した場合、10年後にどこまで届くのかを試算します。
なお、中間管理職の賃金と働き方に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 役職ごとの賃金と年収は、統計のうえでどこまで開いているのか「係長・課長・部長」
係長から部長までの金額を段ごとに並べて確かめたいときは、中間管理職はいくらもらっている?【年収一覧表】部長と課長、係長の年収はいくらか。プレイングマネージャーは9割「マネジメントにさける時間」を民間企業等と行政・自治体別にみるが参考になります。
手がかりにするのは、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職別データです。月額と年収を続けて並べ、段が一つ上がるごとに何がどれだけ動くのかを見ていきます。
1.1 税引き前の月額でみた役職別の平均は、どの水準に並ぶのか「男女計と男女別」
統計に並ぶ所定内給与は、6月に支払われたきまって支給する給与から、残業代などを除いたあとの金額です。税や社会保険料を引く前の額面にあたります。
【所定内給与の平均(月額・税引き前)】
- 部長:男女計 63万5800円(男性 64万2400円/女性 57万8300円)
- 課長:男女計 52万9200円(男性 54万1400円/女性 47万300円)
- 係長:男女計 39万9200円(男性 41万900円/女性 36万5700円)
- 非役職者:男女計 31万500円(男性 33万2100円/女性 28万100円)
段ごとの上がり幅を出しておきます。非役職者から係長までは月8万8700円、係長から課長までは月13万円、課長から部長までは月10万6600円です。いちばん大きく動くのは課長に上がる段で、しかもこの段は担う役割の変わり方も大きいところです。
男女別も一緒に置いておきたいところです。課長でみると男性が54万1400円、女性が47万300円で、その間に男女計の52万9200円があります。同じ役職名でも金額には幅があるので、男女計だけを見て自分の位置を決めると、実際とはずれた読み方になりかねません。
もう一点、この金額には残業代が入っていません。役職に就くと残業代の扱いが変わる勤め先もあるため、いま受け取っている総支給額と表の金額をそのまま比べると、上がり幅を大きく見積もることになります。比べるときは、残業代を除いた部分だけを取り出してそろえてみてください。
1.2 賞与を4か月分として足した年収は、全国の平均給与とどれだけ離れているのか
月額に、賞与を年4か月分と仮定して足すと、年収の目安は次のようになります。
【役職別の平均年収(賞与を年4か月分と仮定・男女計)】
- 部長:約1017万円
- 課長:約847万円
- 係長:約639万円
- 非役職者:約497万円
この4つの金額は、月額を16か月分にならしたものにあたります。賞与が4か月分より少ない年もあれば、支給されない年もあるので、実際の年収はこの目安より下がることも上がることもあります。自分の数字を当てはめるなら、源泉徴収票の支払金額を並べたほうが確かです。
全国の水準も置いておきます。国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」(2025年9月公表)の平均給与は478万円で、役職に就いている層の年収はこれを上回ります。
ただし478万円のほうは、給与所得者全体をならした数字です。調べ方も対象も違うので、同じものさしに乗せた比較にはなりません。位置関係の見当を付けるための目印として置いています。
月額でみると、部長の賃金は非役職者のおよそ2.05倍、課長は約1.7倍、係長は約1.29倍です。倍率だけを取り出せば、段が上がることは収入の面で報われるようにみえます。ただ、この裏側では時間の使われ方が変わっています。
2. 管理職の約9割が実務を兼ねている今、時間と負担はどのように配分されているのか
一般社団法人日本経営協会が2026年7月に公表した「第8回 日本のミドルマネジャー意識調査」(部下を持つ課長〜部長級539名・2025年10〜11月)では、プレイヤーとして自分の実務も兼ねている人が86.8%を占めました。マネジメントに専念できているのは13.2%です。
プレイングマネージャーとは、部下をまとめる役割と自分の担当業務を同時に持っている状態を指します。9割近くがこの状態にあるということは、役職に就いても現場の仕事が手から離れないのが標準になっているという意味になります。
マネージャーに割ける時間の割合は、民間企業等では4~6割という区分が最多で36.3%、行政・自治体では7~9割が最多で35.0%でした。同じ役職でも、時間の使い方は働く場所によって形が違います。
この違いがどこから来ているのかは、調査の数字だけからは読み取れません。ただ、民間企業等では自分の担当業務に半分近くの時間を取られている層が最も多い、という並びになっていることは押さえておきたいところです。
業務負担については51.0%が「増えた」と答え、最大の悩みは「部署の人材不足」で50.3%でした。人が足りないぶん自分が現場に入り、入ったぶん負担が増えるという形が、2つの数字から浮かびます。
一方で、仕事に充実感が「十分ある」「それなりにある」と答えた人は合わせて70.5%です。負担が増えたという回答と充実感があるという回答は、どちらも半数を超えています。この2つは並び立つもので、片方だけを取り出して働き方を決めるのは早いところです。
これからも管理職として働き続けるために必要なこととして最も多く挙がったのは「生活(プライベート)の安定」で39.9%でした。仕事の中身を変えるには組織の側の手当てが必要ですが、生活の側の土台は自分で先に整えておける部分があります。
そして、この土台を整える作業には時間がかかります。だからこそ、負担が増えきってから考え始めるのと、昇進の話が出た段階で並べ始めるのとで、手をつけられる範囲が変わってきます。
額面から何が引かれて手元に届くのかという段は、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説でくわしく解説しています。
3. 【試算】昇進で生まれた年収差をそのまま積み立てに回すと、10年後にどこまで届くのか
段が一つ上がったときに生まれる年収の差を、使わずにそのまま積み立てに回したとして、10年後の残高がどこまで広がるのかを置いてみます。あわせて、始める時期が遅れた場合にどれだけ変わるのかも並べます。前提は次のとおりです。
- 年収差は、上でみた年収の目安の差をそのまま使う。非役職者 約497万円から係長 約639万円へ上がった場合は142万円、係長 約639万円から課長 約847万円へ上がった場合は208万円とする
- 年収差を12で割った額を毎月末に積み立てる。142万円なら月11万8333円、208万円なら月17万3333円(1円未満は切り捨て)
- 期間は10年(120ヶ月)、年利3%で運用できたものとする
- 月利は(1+年利)^(1/12)-1で求める(年利を12で割る方法は使わない)
- 額面の差をそのまま積み立てる置き方。増える税と社会保険料、手数料、賞与の月数の違いは計算に入れない
①142万円分を昇進と同時に積み立て始めた場合
- 元本:11万8333円 × 120ヶ月=1419万9960円
- 10年後の残高:約1650万1299円
- うち運用で増えた分:約230万1339円
②同じ142万円分を、3年遅れて積み立て始めた場合(昇進から10年後の時点)
- 積み立てた月数:84ヶ月(元本 993万9972円)
- 昇進から10年後の残高:約1102万9476円
- ①との差:約547万1823円
③係長から課長へ上がって208万円の差が出た場合(10年・120ヶ月)
- 元本:17万3333円 × 120ヶ月=2079万9960円
- 10年後の残高:約2417万939円
①と②を並べると、遅れたのは3年ぶんの積み立てなのに、10年後の残高の差は約547万1823円になりました。3年分の元本は約425万9988円ですから、差の残りは、置いておく期間が短くなったことで生まれた部分です。同じ年収差でも、動かし始めた時期のほうが結果を分けているという読み方ができます。
なお、ここで積み立てているのは額面の差です。実際に回せる金額は、増えた税と社会保険料を引いたあとの手取りの増分になりますから、①の月11万8333円をそのまま続けられる方は多くありません。それでも、置き始める時期が早いほうが有利という並びは、金額を下げても変わりません。
この試算はいずれも約であり目安で、この金額になることを保証するものではありません。年利3%は計算のために置いた仮の数字で、運用の結果は市場の動きによって変わり、元本割れが起こることもあります。年収差の142万円・208万円も、賞与を年4か月分と置いた目安どうしの差です。ご自身の昇進で年収がどれだけ動くのか、税や社会保険料がどれだけ増えるのかは、勤め先の給与・人事の担当部署や、税務署・税理士といった専門家に確かめていただきたいところです。

