6. まとまった資金の運用を「もう少し待ってから」と考える60歳代。IFA・木村 悦朗が語る、待っている間に確かめておく順序
公的年金を受け取る時期になっても、毎月の生活費のうちどこまでを年金で賄えているかは人によって違います。土台の高さが違うので、手元に残ったまとまった資金をどう扱うかという答えも、そこから先で分かれていきます。前半でみたように、公的年金に加えて、要件に当てはまる方には年金生活者支援給付金という上乗せの仕組みがあります。この給付金は年金と同じ偶数月の15日に支払われますが、年金とは別の振込記録として入ってきます。つまり、公的な受け取りだけでも、通帳に並ぶ入金の記録は一本ではありません。ここに運用から受け取る分配金が加わると、どのお金がどこから来ているのかを、受け取っているご本人でも追いにくくなります。実務でご相談を受けていて感じるのは、始める時期を待つと決めた期間こそ、この整理を進めておく余裕があるということです。相談の場では次のような声を耳にします。
6.1 60歳代に多いお悩み相談は「タイミングを待つと決めたあと、何を見て判断すればよいのか」

「長く働いてきて、手元にまとまったお金が残っています。預けたままにしておくのはもったいないと思い、運用について相談を続けているところです。
ただ、いまは為替がかなり高い水準まで来ていると聞きます。せっかく始めるのに、いちばん高いところで買ってしまうのは避けたいので、もう少し様子を見てから決めたいと思っています。あらかじめ決めた水準に届いたら受け取りに切り替わるような仕組みには関心があるのですが、いくつか説明していただいた中で、どれがどう違うのかがまだ整理できていません」
相談の場でも、始める気持ちは固まっているのに、為替や金利の水準が気になって時期を決めきれない、という方に数多くお会いします。
年金を受け取る時期に入ると、失敗しても働いて取り返す、という前提が使いにくくなります。慎重になるのは自然なことで、待つという判断そのものが誤りというわけではありません。
こうした方に多いのは、待つと決めたあとに何を見ればよいかが決まっていないことです。相場を眺める時間は増えても、動く合図のほうは決まらないままになりがちです。
6.2 【IFA・木村 悦朗が回答】待つ期間は、寝かせる時間ではなく仕分けの時間に使える
6.3 ポイント1:何がどうなったら動くのかを先に決めて、そのうえで市場の動きを定期的に追う
ここで区別しておきたいのは、「様子を見る」と「決めずにいる」が別のものだということです。前者には、どうなったら動くのかという目安があります。後者にはありません。ご相談の場では、為替や金利、株価の動きを定期的にお伝えしながら検討を続けていくこともあります。大事なのは、その情報を受け取る側にも見る順番があることです。まずご自身の受け取りの側を確かめておきます。公的年金の見込み額はねんきん定期便やねんきんネットで分かります。給付金は年金とは別の振込記録として入るため、通帳の記載だけでは何の入金なのか判断しにくいことがあります。振込通知の見方や、そもそも対象になるのかどうかは年齢や所得などの要件によって変わりますので、年金事務所や日本年金機構の案内で確かめておいてください。ここが固まると、待っている間に見るべき数字は自分の側の不足額だけに絞られます。相場のほうを毎日眺めていても、動く目安は出てきません。
6.4 ポイント2:為替が受け取る額に効く場面を、買うときと受け取るときに分けて見る
待つ理由になっている為替について申し上げます。外貨で運用するものを持つとき、為替は二つの場面で効いてきます。ひとつは買うときで、円が安い時期に外貨に換えると、同じ金額でも持てる分は少なくなります。もうひとつは受け取るときで、円に戻す時点のレートによって手取りが変わります。待つという判断は、このうち前の場面だけを避けようとするものです。ただ、受け取るのが何年も先であれば、そのときのレートは今の水準とは関係なく決まります。ですから、いまの水準が高いか安いかという一つの問いに答えを出そうとするよりも、換える時期を何回かに分ける、受け取る時期も一度にまとめない、という形で振れの当たり方を薄くしていくほうが実際的です。円建てのもの、外貨で運用するもの、どちらの性質も持つものを組み合わせておけば、為替の一方向だけに結果を委ねることもなくなります。
6.5 ポイント3:決めた水準に届いたら受け取りに切り替わる仕組みは、時期の判断を自分だけで背負わない形になる
ご相談の場でご説明する候補のなかには、あらかじめ決めておいた水準に届いた時点で、運用から受け取りへ自動的に切り替わる仕組みのものもあります。関心を持たれるのは、値上がりしたときに大きく取れるからではありません。「いつ動くか」の判断を自分の手元だけで抱えなくてよくなる点です。始める時期に悩んでいる方は、その先の「やめる時期」でも同じように悩みます。切り替わる条件が先に決まっていれば、その判断を毎回の相場観に任せずに済みます。ただし、こうした仕組みには条件がついています。決めた水準に届かないまま満期を迎えたときにどう扱われるか、途中でやめた場合に戻る額はどう決まるのか、保険のかたちを取るものであれば受け取り方に応じて税金の扱いも変わります。契約前に交付される書面で、届かなかった場合の道筋まで含めて確かめてください。都合のよい場面だけで判断すると、後から動けなくなります。
6.6 ポイント4:候補を同じ表に並べて、受け取るお金の出どころと費用の差を見比べる
そのうえで、比べ方です。ご相談の場でも、複数の候補を並べて違いをご説明しています。並べるときに欠かせない列が二つあります。ひとつは、受け取るお金の出どころです。毎月や隔月でお金が入る形のものは、その原資が運用で得られた成果なのか、預けた元のお金の一部を戻しているのかで、意味がまったく変わります。分配金という同じ呼び方でも、後者が続けば、受け取っている間に元の資産は目減りしていきます。もうひとつは費用です。持っている間にかかるもの、途中でやめたときに引かれるもの、外貨と円を行き来するたびにかかるものがあり、どれがいくらかかるかは商品によって違うため、受け取る前から差になります。同じ表に並べると、名前や仕組みの新しさではなく、この二つの列で優劣が見えてきます。時期を待っている間にこの表を作っておけば、動くと決めたときに比べ直す必要がなくなります。
これは一つの考え方であり、待つ期間をどこまで延ばすかや、受け取りの形をどう選ぶかは、生活費のうち公的な収入で賄えている割合や、これから予定している支出によって状況ごとに異なります。
参考資料
- 【増額が決定!】2026年4月分からの「年金生活者支援給付金」給付基準額はいくらに?《支給対象になる人》や手続き方法を解説
- 年金生活者支援給付金とは?2026年最新の対象者・いくらもらえるか・ハガキが届かない理由を徹底解説
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 日本年金機構「65歳の誕生日を迎える方で、老齢基礎年金を新規に請求する方」
- 日本年金機構「年金生活者支援給付金請求書(はがき型)が届いた方へ」
- 日本年金機構「65歳の誕生日を迎えた方で、老齢基礎年金を繰上げ受給している方」
- 日本年金機構「Q.「支給金額変更通知書」(または「不該当通知書」)が届きました。なぜですか。」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金生活者支援給付金にかかる支給金額のお知らせの送付について」
