11. 定年を前に、積み立てで始めるつもりだった運用を考え直すことに。IFA・筒井 亮鳳が語る、まとまったお金の置き場所を決める順序

60歳代は、それまで毎月の給与から少しずつ積み上がってきたお金が、退職金や企業年金という形で一度にまとまって手元に来る時期です。前半でみたように、受け取れる厚生年金の額は、働いてきた期間と、その間の報酬の水準の積み重ねで決まります。勤め先が変わった時期があれば、その前後の扱いが後々の受取額に効いてくることもあります。そして定年を迎えると、お金を積み上げる側から、まとまったお金の置き場所を決める側へと立場が変わります。実務でご相談を受けていて感じるのは、この切り替わりのところで、これまでのやり方をそのまま延長しようとして手が止まってしまう方が多いということです。相談の場では次のような声を耳にします。

11.1 積み立てで始めるつもりだったのに、まとまった資金は一括のほうがいいと聞いて決めきれない

60歳代(ご相談者)

「定年退職が近づいてきました。勤めている間に積み上がった企業年金と、退職金がまとまって入ってくる予定です。手元の預貯金と合わせると、これまで自分で扱ったことのない規模になります。

これから運用を始めるなら、毎月少しずつ積み立てていく形が無難だろうと考えていました。ところが、まとまった資金があるなら一度に運用に回したほうが効率がいいという話を聞いて、考え直す必要があると感じています。受け取り方についても、一度に受け取るのか分けて受け取るのかで税金の扱いが変わると聞きました。次は、具体的にどういう商品があるのか、債券という仕組みがどういうものなのかまで聞いてみたいと思っています」

相談の場でも、積み立てで始めるつもりだったところに退職金や企業年金がまとまって入る時期を迎え、そのやり方のままでいいのか決めきれずにいる方に数多くお会いします。

11.2 【IFA・筒井 亮鳳が回答】入れ方を選ぶのは、いちばん最後でいい

筒井 亮鳳
「積み立てで始めるつもりだったのに、やり方ごと乗り換えなければいけないのだろうか」と決めつける前に、非課税で持てる器と受け取り方が決まっている器を先に並べ、値動きの性格が違うものをどの割合で組み合わせるかを決め、そのうえで積み立てと一括のどちらで入れるかを資金の性格から選び、始めた後に誰と見直していくかまで決めておくことが、定年という節目で置き場所を組み替えていく順序になります。また、一括運用の方が効率がいいという話もよくありますが、運用する商品によっては大きく値下がりしてしまう可能性があるものもありますので、まずは自分自身で一括運用をする商品と積立運用する商品とをリスクも併せて考えてみてはいかがでしょうか。

11.3 ポイント1:積み立てか一括かより先に、お金を入れる「器」の順番を決める

運用の話になると、どの商品を買うかから考えたくなりますが、その前に決めておきたいのが器のほうです。同じ投資信託を買っても、非課税で運用できる制度の中に入れるのか、税金が引かれる口座で持つのかで、手元に残る額が変わります。60歳代の方の場合、器はもう一つあります。勤め先で積み上げてきた確定拠出年金です。これは受け取れる時期や引き出せる条件が制度で決まっているぶん、自由に動かせる預貯金や退職金とは性格が違います。さらに、退職金と企業年金の受け取り方によっても税金の扱いが変わります。一度にまとめて受け取る場合は、勤めた年数に応じて差し引ける枠が用意されていて、その枠に収まるかどうかで負担が変わってきます。分けて受け取る場合は、また別の扱いになります。つまり、いくらを運用に回せるのかは、受け取り方を決めた後でないと確定しません。器の順番、すなわち「どの制度から埋めるか」と「どう受け取るか」を先に決める。ここが決まらないまま商品を選び始めると、後から器を入れ替えることになって、かえって手間が増えます。

11.4 ポイント2:値動きの性格が違うものを、どの割合で組み合わせるかを決める

器の順番が決まったら、次は中身の組み合わせです。運用商品は、期待できるリターンが大きいものほど値動きの幅も大きくなります。ここは避けようのない関係で、リスクを抑えたもの、その中間、リスクを取るものという段階で整理すると考えやすくなります。値動きが穏やかな側には、満期まで持てば決まった利息を受け取り満期に額面が戻ることを前提にした債券が入ります。中間には、複数の対象にまとめて投資する投資信託が入ります。リスクを取る側には個別の株式が入ります。大事なのは、このうちのどれが正解かではなく、どれをどの割合で持つかです。すべてを値動きの穏やかなものに寄せれば、増える力も穏やかになります。すべてをリスクを取る側に寄せれば、必要な時期に目減りしている可能性が高くなります。だから、性格の違うものを分けて持つ。この割合を先に決めておくと、個別の商品を選ぶときの基準ができます。60歳代の場合は、この先いつ使うお金なのかによって、割合の置き方も変わってきます。

11.5 ポイント3:入れ方を選ぶ。積み立てが向く資金と、まとめて動かせる資金は別

ここでようやく、積み立てか一括かという話になります。この二つは、優劣ではなく資金の出どころで分かれます。積み立ては、毎月の収入の中から出していくお金に向いた入れ方です。まだ手元にないお金を、入ってくるたびに少しずつ運用に回していく。買う時期が自然に分かれるので、値動きの影響もならされます。一方、退職金や企業年金のように、すでに手元にあるまとまった資金を積み立てで入れていくと、運用に回っていない待機中の期間が長く残ります。長く置いておくつもりの資金であれば、その待機の期間が短いほうが、増える力を長く働かせられるという考え方です。ただし、まとめて入れた直後に相場が下がれば、その影響もまとめて受けます。ですから、全額を一度に動かすと決めてしまう必要はありません。長く置ける分と、近いうちに使う予定のある分を先に分けたうえで、長く置ける分の入れ方を選ぶ。その中で、何回かに分けて入れるという中間の選び方もあります。積み立てというやり方を捨てるのではなく、資金の性格に合わせて入れ方を選び直すということです。

11.6 ポイント4:始めた後に誰と見直すかまで決めてから、最初の一歩を踏み出す

最後に、始めた後のことです。運用は、商品を買った時点で終わりではありません。相場が動けば割合は当初決めたところからずれていきますし、生活の状況が変われば、必要になる時期も変わります。60歳代からの運用では、受け取りながら残りを運用していくという場面も出てきます。そのときに、どこで、誰に、どのタイミングで相談するのかを、始める前に決めておいてほしいのです。買うときだけ丁寧に説明を受けて、その後は一人で判断することになると、値下がりした局面で相談相手がおらず、慌てて動いてしまうことがあります。年に一度は割合を確認する、まとまった額を動かすときは事前に相談する、といった形で、見直しの機会をあらかじめ生活の中に組み込んでおく。この段取りまで含めて決まってから、最初の一歩を踏み出すのが安心です。

定年は、これまでのやり方が通用しなくなる時ではなく、お金の性格が変わったぶん、入れ物と入れ方を組み替える時です。器の順番、組み合わせの割合、入れ方、そして見直しの段取り。この順で決めていけば、積み立てか一括かという問いは、最後のほうで自然に答えが出ます。これは一つの考え方であり、どの器から埋めるべきか、どの割合が適しているか、受け取り方でどれだけ税負担が変わるかは、勤めた年数や資金の内訳、その後の働き方によって異なります。受け取り方を選ぶ段階では期限が決まっていることもあるため、勤め先の制度の条件を早めに確認し、税金の扱いについては専門家に相談しながら進めてください。

12. まとめにかえて

勤め先が変わって標準報酬月額が動くと、そのあと働く年数のぶんだけ2階部分の積み上がり方が変わります。月4万円の差で10年働いた場合の年金月額の差は約2192円で、1か月分としては小さい金額ですが、終身で受け取る給付なので受け取る年数のぶんだけ差が広がっていきます。

まずは給与明細で自分の標準報酬月額を確かめ、ねんきんネットで加入月数と見込額を見るところから始めてみてください。等級の区分や、これから積み上がる見込みの計算は、年金事務所や勤め先の担当部署に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

筒井 亮鳳