年金や私的年金だけでは生活費をまかなえず、貯蓄を取り崩しながら暮らしている方は少なくありません。取り崩す資産の置き場所としては普通預金や定期預金がまず思い浮かびますが、「投資信託」を使うという考え方もあります。
運用を続けながら決まった額を取り崩す「定額取り崩しサービス」を使う方法、必要な分だけそのつど売却する方法、そして分配金を毎月受け取る「毎月分配型」を使う方法などがあり、それぞれ特徴が異なります。
この記事では、預貯金と投資信託で取り崩した場合の資産の減り方の違いをシミュレーションで比較しながら、毎月分配型投資信託の仕組みとメリット・デメリット、選ぶ際の注意点を整理します。ただし、毎月分配型投資信託は元本割れのリスクがある商品です。ここで紹介する内容は、資産を増やすための投資法としてではなく、取り崩していく時期に「資産の寿命をできるだけ延ばすための工夫の一つ」として読んでいただければと思います。
1. 同じ「毎月3万円の取り崩し」でも、置き場所で資産の寿命は大きく変わる
取り崩す資産をどこに置くかによって、実は資産がもつ年数は数十年単位で変わってきます。本題に入る前に、まずこの記事で読み解いていく内容の要点を押さえておきましょう。
1.1 普通預金と投資信託では、資産が尽きるまでの年数に30年近い差が出る計算に
のちほど詳しく計算しますが、1000万円を毎月3万円ずつ取り崩した場合、普通預金(年0.5%)では約30年で資産が尽きる計算になるのに対し、投資信託で想定利回り3%を確保できれば約60年もつ計算になります。同じ「毎月3万円」でも、置き場所次第で資産の寿命は大きく変わり得るということです。
1.2 利回りが高いほど資産は長持ちするが、その分「元本割れ」のリスクも大きくなる
もっとも、利回りが高い商品ほど資産が長持ちするとは限りません。投資信託は預金と違って元本が保証されておらず、市場の状況によっては想定より早く資産が減ってしまう可能性もあります。長持ちする「可能性がある」ことと、実際に長持ちする「保証がある」ことは別物だと理解しておく必要があります。
1.3 目的は「増やす」ことではなく「減るスピードを緩める」ことだと意識しておく
この記事で紹介する毎月分配型投資信託の使い方は、資産を積極的に増やすための方法ではありません。取り崩していく資産の減るスピードを緩め、資産の寿命を延ばすための工夫の一つとして捉えることが大切です。増やす目的であれば、コストや税制の面で毎月分配型はむしろ不利になりやすい商品でもあります。
それでは、取り崩す資産の置き場所にはどのような選択肢があるのか、順番に見ていきましょう。
2. 取り崩した資産を置く場所、代表的な3つの選択肢
年金や生活費が不足する分を貯蓄で補う場合、その資産をどこに置いておくかにはいくつかの選択肢があります。
2.1 普通預金・定期預金は元本保証だが、金利は低い
普通預金や定期預金は、元本が保証されており、あらかじめ金利が確定しているという安心感が最大の特徴です。ただし金利は低く、たとえば普通預金は年0.5%程度、定期預金(5年もの)でも年1.5%程度にとどまるケースが目立ちます。取り崩しながら使う分には値下がりの心配がない一方で、資産を長持ちさせる効果は限定的です。
2.2 投資信託を取り崩しながら使う3つの方法
投資信託で運用を続けながら取り崩す方法には、主に次の3つがあります。1つ目は、証券会社などが提供する「定額取り崩しサービス」を利用し、毎月決まった額を自動的に売却して受け取る方法です。2つ目は、サービスを使わず、必要になった分だけ自分のタイミングで一部を解約する方法です。そして3つ目が、ファンド自体が定期的に分配金を支払う「毎月分配型」の投資信託を保有する方法です。
いずれの方法も、預貯金より高い利回りが期待できる可能性がある一方で、運用状況によっては資産が目減りするリスクを伴います。まずは、預貯金と投資信託とで実際にどれくらい資産の減り方が変わるのか、シミュレーションで比較してみましょう。
3. 1000万円を毎月3万円ずつ取り崩すと何年もつか、シミュレーションで比較
1000万円を毎月3万円ずつ取り崩していった場合、資産が尽きるまでにかかる年数を、普通預金(年0.5%)・定期預金(年1.5%)・投資信託(想定年3%、想定年4〜5%)の4パターンで試算しました。複利で運用しながら毎月3万円を取り崩すという前提での計算です。
1000万円を毎月3万円ずつ取り崩した場合の資産残高の推移1/2
出所:LIMO編集部試算
1000万円を毎月3万円ずつ取り崩した場合の資産寿命の目安2/2
出所:LIMO編集部試算
3.1 年0.5%の普通預金は約30年、年1.5%の定期預金は約36年で資産が尽きる計算に
試算では、普通預金(年0.5%)は約29年11か月、定期預金(年1.5%)は約36年で資産が尽きる計算になりました。金利差はわずか1ポイントですが、資産がもつ期間には6年ほどの差が生まれます。
3.2 投資信託で年3〜5%を確保できれば、資産はさらに長持ちする計算に
投資信託で想定利回り年3%を確保できた場合は約59年10か月と、普通預金の2倍近くまで資産がもつ計算になります。さらに想定利回りが年4〜5%になると、毎月の取り崩し額(3万円)を利息や運用益が上回るため、理論上は資産が目減りするどころか増えていく計算にもなります。
3.3 ただし、これはあくまで「想定利回りどおりに運用できた場合」の試算
この試算はあくまで、想定した利回りで安定的に運用できた場合の机上の計算であり、実際の運用成果を保証するものではありません。投資信託は市場の変動によって基準価額が下落し、想定していた利回りを下回る、あるいは元本割れする可能性があります。「投資信託なら資産が長持ちする」と単純に受け止めるのではなく、あくまで一つの目安として捉えることが大切です。
4. 定期預金を使うなら、預入期間と金額を分けておくと安心
定期預金を取り崩しの置き場所として使う場合、預け方に一つ工夫を加えることで、思わぬ金利の目減りを避けられます。
4.1 満期前に解約すると、約束されていた金利を受け取れなくなることがある
定期預金は、満期を迎える前に解約すると「中途解約利率」という、当初の約束より大幅に低い金利が適用されるのが一般的です。一つの定期預金にまとまった金額を預けていると、必要な分だけを取り崩したくても口座ごと解約せざるを得ず、残りの分の金利まで失ってしまうことになります。
4.2 預入期間をずらす、または金額を分けて複数の契約にしておく
これを避けるには、預入期間をずらして満期のタイミングを分散させたり、同じ預入期間であっても100万円単位などで金額を分け、契約(口座)そのものを複数に分けておく方法があります。こうしておけば、取り崩しが必要になったタイミングで満期を迎えた分、あるいは必要な金額分の契約だけを解約すればよく、残りの定期預金はそのままの金利で満期まで置いておくことができます。
5. 毎月分配型投資信託の分配金、「運用の成果」とは限らない
毎月分配型投資信託を検討するうえで欠かせないのが、分配金の仕組みについての正しい理解です。分配金は必ずしも運用がうまくいっている証拠とは限りません。
5.1 「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の違い
投資信託の分配金には、運用で得た利益から支払われる「普通分配金」と、投資家自身が預けた元本の一部が払い戻されているだけの「特別分配金(元本払戻金)」の2種類があります。分配落ち後の基準価額が個別元本(自分が購入した時の基準価額)を上回っていれば分配金の全額が普通分配金となり、下回っていれば下回った分が特別分配金として扱われます。特別分配金は税制上非課税ですが、それは利益ではなく自分のお金が戻ってきているだけだからです。
5.2 「タコ足配当」と呼ばれる状態に注意
運用がうまくいかず基準価額が下がり続けている状態で毎月分配を続けると、分配金の多くが特別分配金(元本払戻金)になり、実質的に自分の元本を取り崩しながら分配しているだけの状態になることがあります。これは俗に「タコ足配当」とも呼ばれ、毎月分配型投資信託を検討するうえで特に注意すべき点の一つです。
5.3 毎月分配型は、現在のNISAでは購入できない
現在のNISA(つみたて投資枠・成長投資枠のいずれも)では、毎月分配型の投資信託を購入することができません。金融庁が示す対象商品の基準では、毎月分配型は元本を取り崩して分配が行われることで長期の資産形成に重要な複利効果を十分に得られない可能性があるとして、除外されています。毎月分配型投資信託を保有する場合は、課税口座(特定口座・一般口座)での保有が前提になり、普通分配金や値上がり益には通常どおり約20.315%の税金がかかります。
こうした分配金の仕組みを踏まえたうえで、毎月分配型投資信託のメリットとデメリットを整理してみましょう。
