6. 「いつから受け取るか」で変わる—繰下げで年金を増やす
年代別の受給額をみてきましたが、同じ人でも受け取りを始める年齢しだいで金額は変わります。遅らせて増やすのが「繰下げ受給」です。
6.1 1カ月0.7%・最大84%増(75歳まで)
65歳より遅らせると1カ月あたり0.7%ずつ増え、75歳まででは最大84.0%の増額になります(昭和27年4月2日以後生まれ)。
6.2 繰下げの前に確認したいこと
加給年金・振替加算は繰下げの対象外で、待機中は年金を受け取れません。増額の効果と、待つ間の暮らしのバランスを考えたいところです。
出所:日本年金機構「年金の繰下げ受給」をもとに作成
7. 65歳以上世帯の41.3%が「貯蓄が減った」。減額理由の8割は日常の生活費
「特別な買い物はしていないのに、通帳の残高が減っている」—心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
厚生労働省の2025年(令和7年)国民生活基礎調査によると、貯蓄の増減状況は、総数で「貯蓄が増えた」13.9%、「変わらない」38.9%、「貯蓄が減った」36.9%でした。世帯主が65歳以上の世帯(再掲)では、増えた7.4%、変わらない37.6%、減った41.3%となっています。
年齢によって景色は変わります。29歳以下では「増えた」が30.5%で「減った」は22.7%。60〜69歳になると増えた13.3%に対し減った39.7%、70歳以上では増えた6.4%に対し減った41.6%です。年齢が上がるほど、減る側に寄っていくことがうかがえます。
では何に減っているのでしょうか。65歳以上の世帯で貯蓄が減った理由(複数回答)は、日常の生活費への支出が80.8%。土地・住宅の購入費は3.3%にとどまります。裏を返せば、貯蓄を削っているのは大きな買い物ではなく、毎月の暮らしそのものだということでしょう。
減り方が生活費由来であれば、対策も毎月の収支に戻ってきます。年金の手取り額と毎月の支出を並べ、不足がいくらなのかを数字で押さえておくことが、取り崩しの速度を抑える手立てになるように思います。
8. まとめにかえて
年代別にみると、年金の受給額には想像以上の幅があります。平均や一覧表は目安としておさえつつ、大切なのは自分自身の金額を知ることです。
そのうえで見過ごせないのが、年金を受け取る世代の4割超が「貯蓄が減った」と感じているという実態です。減少の主な理由は、特別な出費ではなく日々の生活費でした。
ねんきんネットなどで自分の年金見込み額を確認し、繰下げなどの受け取り方も含めて検討するとともに、毎月の収支を把握しておくことが、老後の安心につながるのではないでしょうか。
9. 監修者からのコメント
今回とりあげた「貯蓄が減った」というデータで見落とされがちなのが、その中身です。
65歳以上の世帯で貯蓄が減った理由は、8割が日常の生活費でしたが、次に多いのは入学金や結婚費用、旅行など一時的な支出で16.8%を占めています(複数回答)。毎月の生活費だけでなく、数年に一度訪れるまとまった出費も、貯蓄を取り崩す要因になっているということです。
年金額を見るとき、私たちはつい「いくらもらえるか」という受取額そのものに目を向けがちです。しかし今回のデータが示すのは、受取額と同じくらい「どれだけ取り崩さずに済むか」という支出側の視点も大切だということではないでしょうか。
年金の繰下げ受給は月々の受取額を増やす有効な手段ですが、待機期間中は年金を受け取れません。まとまった出費の予定がある時期は、繰下げのタイミングをずらすなど、ライフイベントと合わせて検討する視点も持っておきたいところです。
参考資料
- 日本年金機構「年金はいつ支払われますか。」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
- 日本年金機構「特別支給の老齢厚生年金」
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」
池上 翠
