3. 【要注意】65歳が分岐点!「年金と失業給付」の併用ルールはどう変わる?

ここで注意したいのが、退職する年齢によって「年金」と「失業給付」の併用に関するルールが大きく異なるという点です。

65歳未満で退職してハローワークで基本手当(失業手当)の手続きを行うと、受給期間中は「特別支給の老齢厚生年金(※)」が全額支給停止となります。

これは実質的に「年金か失業手当か」のどちらか有利な方を選択する形になります。

一方、65歳以降に退職して「高年齢求職者給付金(一時金)」を申請する場合、老齢年金との併給調整は行われません。

つまり、年金を満額受け取りながら、同時に雇用保険から一時金を受け取ることが可能です。

この違いにより、「64歳11カ月で退職して基本手当を受給するケース」と「65歳になってから退職して年金と高年齢求職者給付金を受給するケース」では、受け取れる総額の仕組みが大きく変わってきます。

どちらが有利になるかは、個人の年金額、退職前の賃金、雇用保険の加入期間、基本手当の所定給付日数などによって異なります。

したがって、「65歳になる前に退職するか、65歳を迎えてからにするか」は、年齢だけで判断せず、年金と雇用保険から受け取れる金額を具体的に比較検討することが重要です。

セカンドライフの資金計画を立てるうえで、こうした制度の違いを理解し、最適な退職タイミングを見極めることが求められます。

※現在、男性(一般)の特別支給の老齢厚生年金は、支給開始年齢が65歳に引き上げられたため事実上終了しています。現在この対象となるのは、主に1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの女性や、障害などの特例に該当する方に限られます。自身が対象かどうかは「ねんきん定期便」等で確認が必要です。

4. 在職老齢年金の基準緩和!「65万円の壁」で働くシニアの年金カットはどう変わる?

現役世代と同様に働くシニアにとって、雇用保険の給付金と並んで重要なのが「在職老齢年金」制度です。

これは、厚生年金に加入しながら給与を受け取る場合、その収入額に応じて年金(報酬比例部分)が一部または全額支給停止される仕組みのことです。

この年金カットを避けるため、働く時間や給与を調整するシニアが多いことが長年の課題となっていました。

この課題に対応するため、2026年4月からは支給停止の基準額が51万円から65万円へと大幅に引き上げられています。

4.1 2026年4月からの新ルールを解説

毎月の賃金(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額の合計が「65万円」以下であれば、年金はカットされず全額を受け取れます。

  • 改正前(2025年度まで):合計額が51万円を超えた場合、超過額の半額が支給停止。
  • 改正後(2026年度から):合計額が65万円を超えるまでは支給停止なし。超過した場合のみ、その半額が支給停止。

※なお、老齢基礎年金(国民年金)は、給与額にかかわらず全額支給されます。

4.2 年金カット額の比較シミュレーション

  • 前提条件:年金(基本月額)10万円、給与(総報酬月額相当額)46万円(合計56万円)のケース
  • 改正前(51万円基準):合計額が51万円を超えるため、月額2万5000円の年金が支給停止されます(年金受給額:7万5000円)。
  • 改正後(65万円基準):合計額が65万円以下なので、年金はカットされず「10万円」が全額支給されます。

この大幅な改正によって、これまで年金の支給停止を懸念して働き方を調整していたシニア層も、収入を気にせず自身の経験や能力を活かして働ける環境が整います。

雇用保険の給付金を上手に活用し、改正された在職老齢年金制度のメリットを享受することで、働くシニアの経済的な安定につながるでしょう。

5. まとめにかえて|公的支援をフル活用して、賢く豊かなセカンドライフを設計

定年退職後も働き続けるシニア世代は増加しており、60歳代や70歳代で働くことはもはや珍しくありません。

老後の資金計画では、預貯金や投資といった「自助努力」に注目が集まりがちです。しかし、国が用意している支援制度を最大限に活用することも、生活を守るための非常に有効な手段といえます。

今回解説したような、長く働く人々を経済的に支える公的制度を正しく理解し、適切なタイミングで申請することが、豊かで安心なセカンドライフを実現するための第一歩となるでしょう。

6. 筆者からのコメント

熊谷 良子

今回ご紹介した数字を見ると、高齢者世帯の所得のうち公的年金・恩給が占める割合は6割超にのぼる一方で、稼働所得や貯蓄の取り崩しに頼る世帯も少なくないことが分かります。

厚生労働省「2025年国民生活基礎調査の概況」では、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち、年金だけで総所得のすべてをまかなえている(年金が占める割合が100%の)世帯は41.3%にとどまり、残る約6割は稼働所得や貯蓄の取り崩しなどで補っている実態も明らかになっています。

つまり、老後の家計を年金だけで完結させられる世帯は、必ずしも多数派ではありません。だからこそ、今回ご紹介した雇用保険の給付金や、2026年4月からの在職老齢年金の基準緩和は、働きながら年金を受け取る選択肢をより現実的なものにしてくれる制度といえるでしょう。

ご自身やご家族が対象になりそうな制度がないか、早めにハローワークや年金事務所の窓口で確認しておくことをおすすめします。

参考資料

池上 翠