「投資は若いうちに始めるもの。60歳を過ぎてからでは遅い」――そう考えている方は少なくないのではないでしょうか。

しかし2024年からの新NISAでは、非課税で保有できる期間の上限がなくなりました。何歳から始めても、口座を持ち続ける限り非課税の恩恵を受けられる制度に変わったのです。

この記事では、60歳代から新NISAを始めた場合の積立シミュレーション、若い世代とは異なるリスク配分の考え方、そして運用しながら資産を取り崩していく出口戦略まで、順番に確認していきます。

1. なぜ今、「60歳代」から新NISAを始める意味があるのか

「60歳代スタートは遅すぎるのでは」という不安の背景には、制度が変わったことがまだ十分に知られていないという事情があります。

1.1 非課税保有期間の無期限化で「始める年齢」の壁がなくなった

かつてのつみたてNISAは非課税保有期間が20年、一般NISAは5年と定められており、口座を開設できる期間にも期限がありました。しかし2024年から始まった新NISAでは、非課税保有期間が無期限化され、口座開設期間も恒久化されています。年間投資枠はつみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円の合計最大360万円、生涯にわたる非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠は最大1200万円)です。

制度上「何歳までに始めなければならない」という締め切りがなくなったことで、60歳代から口座を開設しても、その後何年にもわたって非課税で資産を保有し続けられるようになりました。

1.2 60歳男性の平均余命は23年、女性は29年。「時間軸」で考える

投資の世界でよく言われる「時間を味方につける」という考え方は、60歳代であっても無縁ではありません。厚生労働省の令和6年簡易生命表によると、60歳時点の平均余命は男性が23.63年、女性が28.92年です。つまり60歳の方の多くは、その後20年以上の時間軸を持っていることになります。

もちろん平均余命はあくまで統計上の目安であり、個人差があります。ただし「60歳だから運用期間はもう短い」と決めつけるのではなく、数十年単位の時間軸で資産と向き合う余地が十分にあることは押さえておきたいポイントです。

2. 60歳から新NISAを始めたらどうなる?積立シミュレーション

実際に60歳から新NISAでの積立を始めた場合、資産はどのくらい育つのでしょうか。具体的な試算で確認してみましょう。

2.1 60歳から70歳まで、月5万円を10年間積み立てると

60歳から70歳までの10年間、毎月5万円を新NISAで積み立てたケースを試算すると、元本600万円に対して、年利1%では約631万円、年利3%では約699万円、年利5%では約776万円になります。年利5%で運用できた場合、運用益だけで176万円にのぼる計算です。

60歳から70歳まで新NISAで月5万円を積み立てた場合の試算表1/2

60歳から70歳まで新NISAで月5万円を積み立てた場合の試算表

LIMO編集部作成

2.2 退職金という原資をどう生かすか

60歳代ならではの選択肢として、退職金の一部を運用に回すという方法もあります。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者が受け取った退職給付額の平均は1896万円、勤続35年以上に限ると2037万円です。まとまった退職金があれば、月々の積立に加えて、成長投資枠を使ったある程度大きな金額の投資も選択肢に入ってきます。

ただし、退職金のような大きな資金を一度にまとめて投資する「一括投資」には注意が必要です。投資したタイミングでたまたま相場が高値だった場合、その後の下落局面で大きな含み損を抱えることになりかねません。退職金の全額を一度に投じるのではなく、時期をずらして複数回に分けて投資する、あるいは毎月の積立と組み合わせるといった「時間分散」を意識することで、購入価格が偏るリスクを抑えることができます。

和田直子
退職金が入ると、まとまったお金を早く運用に回したくなる方もいるかもしれません。ただ、60歳代でまとまった資金を一括投資に回すと、その直後に相場が下落した場合の値動きの影響を受けやすくなります。焦って一度に投じるのではなく、数回に分けて時期をずらす、あるいは毎月の積立と併用するなど、購入するタイミングを分散させる工夫を検討してみてください。

3. 60歳代のリスク配分。「増やす」から「守りながら増やす」へ

60歳代の資産運用では、若い世代とは異なるリスクとの向き合い方が求められます。

3.1 若い世代と違い、下落から回復する時間が少ない

20代や30代であれば、仮に相場が大きく下落しても、その後何十年という時間をかけて回復を待つことができます。しかし60歳代の場合、教育資金や住宅ローンといった大きな支出こそ一段落している一方で、下落した資産が回復するまで長期間待ち続けるという選択がしづらい年代でもあります。近い将来、資産の一部を取り崩して生活費に充てる可能性があることも踏まえておく必要があります。

3.2 「守りながら増やす」ための考え方

そのため60歳代では、値上がり益を追求する株式中心の資産配分一辺倒ではなく、値動きの振れ幅を抑えた資産を組み合わせることも選択肢になります。すべての資金を成長投資枠でリスク資産に投じるのではなく、当面使う予定のない資金と、数年以内に取り崩す可能性がある資金とを分けて考え、後者については値動きの小さい商品や預貯金の比率を高めておくといった調整が考えられます。資産配分に決まった正解はありませんが、「増やすこと」と「今ある資産を守ること」のバランスを、現役世代よりも意識する必要がある年代だといえます。

和田直子
「新NISAだから、なるべくリスクを取って増やすべき」と思われがちですが、60歳代はそれだけを追いかける年代ではありません。数年以内に取り崩す予定がある資金まで値動きの大きい商品に投じてしまうと、いざ使いたいタイミングで相場が下がっていた、ということも起こり得ます。「いつ使うお金か」を基準に、資産ごとに置き場所を分けて考えることをおすすめします。