弁護士ドットコムは、法律相談のポータルサイトから始まった会社です。最近ではAIを活用した新サービス「リーガルブレイン」が話題となり、同社はすっかり「AI法務の会社」になったと認識している人も多いのではないでしょうか。しかし、直近の決算資料で売上の中身を見ると、意外な事実が浮かび上がってきます。業績を牽引しているのはAIではなく、別の事業なのです。一体なぜ、話題のAIサービスが売上に現れていないのに、これほど力強い成長を続けられるのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。

1. 業績を牽引しているのは「AI」ではない?

株式市場では、弁護士ドットコムはAI関連の成長企業として注目を集めています。AI半導体関連の銘柄が崩れる場面でも値上がりランキングの上位に連日顔を出しているという指摘に対し、泉田氏は企業の歴史と売上の実態から冷静な分析を提示します。

多くの人は、弁護士ドットコムが提供を開始したAIサービス「リーガルブレイン」が業績を押し上げていると考えているかもしれません。実は、売上の中身を見ると話が違います。

2027年3月期第1四半期の売上高48億3,800万円のうち、最大の割合を占めているのは電子契約サービスの「クラウドサイン」であり、四半期で約25億円を稼ぎ出しています。そして、創業事業である法律相談ポータルサイトの「弁護士ドットコム」が約15億円で2番目に続いています。

2027年3月期 第1四半期 サービス別売上の構成1/3

2027年3月期 第1四半期 サービス別売上の構成

出所:弁護士ドットコム「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」を基にイズミダイズム作成

一方で、市場から大きな注目を集めているリーガルブレインは、決算資料の売上構成のどこにも独立した項目として出てきません。会社側が開示しているのは、2026年3月を基準としたARR(月間経常収益の12倍)の成長倍率のみです。

泉田氏は、この企業の成長の本質は、単発の画期的なサービスを生み出したことではなく、着実な「足し算」の歴史にあると指摘します。

「この会社はいわゆるメディアからスタートして、いろんなツールとかアプリケーションをどんどん足してきた会社の歴史なんだよ」

つまり、法律相談のメディアという土台の上に、クラウドサインという実務ツールを足し、さらに新しいサービスを足し続けてきた結果が、現在の力強い売上構成に表れていると考えられます。事業を評価する投資家は、「AIがどれだけ売れたか」を見る前に、この強固な事業基盤の存在を理解する必要があります。

2. 成長を支える「ストック型」のビジネスモデル

弁護士ドットコムの直近の業績は、いわば「健康診断書」のうち、稼ぐ力を示す項目が揃って良好な状態にあります。2027年3月期第1四半期の決算は、売上高が48億3,800万円(前期比27.3%増)、営業利益が6億9,800万円(同36.8%増)、最終利益が4億3,900万円(同37.0%増)と、すべての項目で大幅な増収増益を達成しました。

なお、この増収率には、今期から連結対象として加わった子会社(ミカタ少額短期保険)の売上も含まれており、前期と同じ基準の比較ではありません。通期の会社計画でも、売上高205億円、営業利益30億円という高い目標を掲げています。

2027年3月期 第1四半期の業績(前年同期比)2/3

2027年3月期 第1四半期の業績(前年同期比)

出所:弁護士ドットコム「2027年3月期 第1四半期決算短信」を基にイズミダイズム作成

この安定した利益成長の背景には、売上高で最大のクラウドサインのビジネスモデルがあります。クラウドサインは、企業が一度導入して業務フローに組み込むと、他社のサービスに乗り換えるのが難しいという特性を持っています。

泉田氏はこのストック型ビジネスの強みを次のように解説します。

「1回入っちゃったらやめにくいサービスなんで、新規のお客さんがどんどん入ってきて、解約がなければどんどん積み上がっていくっていうビジネスモデルですね」

毎月新しい顧客を獲得し、それが地層のように積み重なっていくことで、四半期で約25億円という安定した収益基盤が形成されています。単発の売り切り型ビジネスとは異なり、将来の売上の見通しが立てやすいことが、同社の持続的な成長を支えていると考えられます。

3. 高いROEと、利益を再投資する財務

稼ぎの成績を示す損益計算書(P/L)に加えて、資産と資本の内訳を示す貸借対照表(B/S)からも財務の状態を確認しておきましょう。

第1四半期末時点の総資産は165.7億円、純資産は76億1,500万円となっています。自己資本比率は44.2%と、前期末の53.2%から低下しています。これは買収した子会社が加わったことで資産規模が拡大したためです。それでも総資産の4割超を自己資本でまかなう状態にあります。

注目すべきは、同社がこれだけの利益を出しながらも、配当を出していないという点です。成長機会があるのなら配当は出さないのか、という問いに対して、泉田氏はこう応じます。

「成長株の1番典型的な配当政策かな」

企業が稼いだ利益を配当として外に出さず、内部に留保して次の事業投資に回すことは、成長のための投資余力をそのまま手元に残すことを意味します。そうして積み上がった自己資本を使ってどれだけ稼げているかを示す指標が、ROE(自己資本利益率)です。

泉田氏の簡易的な計算によれば、通期の最終利益予想である20億円を、第1四半期末の純資産76億1,500万円で割ると、ROEは26.26%に相当します。

「このROEがずっと続くと、3年で純資産は倍になる」

稼いだ利益を効率よく再投資し、自己資本を雪だるま式に増やしていく。このサイクルが機能している間は、配当を出さずに事業拡大を優先することが、結果的に企業価値の最大化につながると考えられます。