「介護費用は月にいくらかかるか」という疑問に対して、多くの人がまず思い浮かべるのは総額の話です。しかし実際に家計へ響くのは、毎月の年金収入から介護費用がどれだけ出ていくか、という月単位の収支です。総額の平均を知るだけでは、この収支のイメージはつかめません。
この記事では、介護費用は総額でいくらかかるかを一時費用・月額・期間から試算した記事より一部を引用・参照しつつ、月々の介護費用が公的年金の平均的な受給額と比べてどの程度の負担になるのかを、公的資料にもとづき編集部が試算します。
1. 介護費用の月額は「在宅」と「施設」で2倍以上の差がある
まず、月々の介護費用そのものの水準を確認します。
1.1 平均9.0万円、在宅5.3万円、施設13.8万円という内訳
生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる月額費用は全体平均で9.0万円です。ただし、これは在宅介護と施設介護をならした平均であり、実際には在宅介護が平均5.3万円、施設介護が平均13.8万円と、2倍以上の開きがあります。
この差が生まれる主な理由は、施設介護には居住費・食費が毎月固定でかかる一方、在宅介護は訪問介護やデイサービスの利用回数に応じて費用が変動するためです。「介護費用は月9万円」という平均値だけを見ると、自分の状況に当てはめたときに実感と大きくずれることがあります。
1.2 【介護費用の月額(2024年度・生命保険文化センター調査)】
前提:生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」2024年度に基づく編集部整理1/2
出所:生命保険文化センター「介護にはどれくらい費用がかかるの?」を基にLIMO編集部作成
- 全体平均:9.0万円
- 在宅介護:5.3万円
- 施設介護:13.8万円
2. 年金の平均受給額と照らし合わせると、負担の重さが見えてくる
ここからが本題です。月々の介護費用を、公的年金の平均的な受給額と比べてみます。
2.1 基礎年金だけの人は、在宅介護でもやや厳しい計算になる
日本年金機構によると、老齢基礎年金の満額は月7万608円です(昭和31年4月2日以後生まれの場合)。自営業者やフリーランスで厚生年金に加入していなかった人は、老後の年金収入がこの基礎年金のみになるケースがあります。
この場合、在宅介護の平均月額5.3万円と比べると、年金収入の範囲内に収まる計算にはなりますが、家賃や食費など他の生活費もこの年金から支払う必要があるため、実際にはかなり切り詰めた家計になります。施設介護の平均月額13.8万円と比べると、基礎年金だけでは6万円以上不足する計算になり、貯蓄の取り崩しや家族からの援助が前提になりやすい水準です。
2.2 厚生年金の平均受給額であれば、在宅介護は年金の範囲内に収まりやすい
一方、厚生労働省年金局の資料によると、厚生年金の平均受給月額は全体で15万289円です(老齢基礎年金部分を含む)。この水準であれば、在宅介護の平均月額5.3万円はもちろん、施設介護の平均月額13.8万円も、年金収入の範囲内に収まる計算になります。
ただし、これはあくまで平均値同士を比較した目安です。実際の年金額は納めてきた保険料や加入期間によって個人差が大きく、平均を下回る年金収入の人にとっては、施設介護の費用が年金だけでは不足する可能性があります。
2.3 【年金の平均受給月額と介護費用月額の比較(編集部試算)】
前提:日本年金機構・厚生労働省年金局の公表情報と生命保険文化センター調査に基づく編集部試算2/2
出所:日本年金機構・厚生労働省年金局・生命保険文化センターの公表情報を基にLIMO編集部試算
- 老齢基礎年金(満額7.1万円):在宅介護との差+1.8万円/施設介護との差▲6.7万円
- 厚生年金(平均15.0万円):在宅介護との差+9.7万円/施設介護との差+1.2万円
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、この試算があくまで「平均額同士」の比較であり、個人の実際の年金額とは異なる点です。ねんきん定期便やねんきんネットで自分の見込み受給額を確認したうえで、この試算の考え方を当てはめ直すことをおすすめします。
また、負担限度額認定などの軽減制度を利用できれば、施設介護の実質的な自己負担はこの平均値より下がる可能性もあります。年金だけで判断せず、利用できる制度もあわせて確認することが実務上のポイントです。
4. 要介護度が上がると、月々の費用はどう変わるか
ここまでは在宅か施設かという切り口で見てきましたが、同じ在宅・施設の中でも、要介護度によって費用は変わります。
4.1 要介護度が上がるほど、利用できるサービス量の上限も費用も増えやすい
在宅介護の場合、要介護度が上がるほど、介護保険サービスの月々の利用限度額(区分支給限度基準額)も大きくなります。限度額の枠内で1割から3割の自己負担でサービスを利用する仕組みのため、要介護度が上がるほど、利用できるサービス量が増える分だけ自己負担額も増える傾向があります。ただし、限度額をどこまで使うかは家庭ごとの判断であり、必ずしも上限いっぱいまで使うとは限りません。
施設介護の場合も同様に、要介護度が上がるほど介護サービス費の自己負担部分が上がる仕組みになっています。ただし、居住費・食費の基準費用額は要介護度にかかわらず共通のため、施設介護費用の増減は在宅介護ほど大きくは動きにくい、という違いがあります。
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、要介護度は一度認定されたら固定ではなく、状態の変化に応じて見直される点です。認定の更新時期を待たずに「区分変更申請」という随時の見直しを申請できる制度もあるため、状態が変化したと感じたらケアマネジャーに相談することが、費用面の見通しを立て直すきっかけになります。
月々の費用は、要介護度・在宅か施設か・年金の水準という3つの要素が組み合わさって決まります。どれか一つだけを見て判断せず、自分の状況に当てはめて総合的に考えることが実務上のポイントです。
6. 年金収入だけで不足する分は、何で補うことになるのか
試算の結果、年金だけでは不足するケースがあることを踏まえて、その不足分をどう補うのかも整理しておきます。
6.1 貯蓄の取り崩し、家族からの援助、あるいは負担軽減制度の活用
年金収入だけで介護費用を賄いきれない場合、多くの家庭では貯蓄を取り崩すか、家族が一部を負担するかたちで補っています。あらかじめ介護費用がどの程度不足しうるかを試算しておけば、貯蓄をどの程度確保しておくべきかの目安にもなります。
加えて、住民税非課税世帯等を対象にした「負担限度額認定」を受けられれば、施設の居住費・食費の自己負担が大幅に軽減される場合があります。年金収入が少ない世帯ほど、こうした軽減制度の対象になりやすい傾向があるため、年金だけで判断せず、制度の対象になるかどうかも確認しておくことをおすすめします。
※本記事は、編集部が日本年金機構・厚生労働省年金局・生命保険文化センターが公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. 配偶者の年金も合わせて考えると、負担感は変わる
ここまでは個人単位の年金額で見てきましたが、実際の家計は世帯単位で考える必要があります。
7.1 夫婦の年金を合算すれば、施設介護の費用にも対応しやすくなる
介護が必要になるのが夫婦のどちらか一方だけであれば、もう一方の年金収入も家計に含めて考えることができます。たとえば夫婦それぞれが老齢基礎年金を受け取っている世帯であれば、2人分を合算した年金収入は、施設介護の平均月額13.8万円をカバーできる水準に近づきます。
ただし、片方が施設に入居しても、もう一方の生活費は別途かかり続けます。介護費用だけを年金でカバーできるかという視点に加えて、世帯全体の生活費まで含めた収支で考える必要がある点には注意が必要です。単身世帯と夫婦世帯とでは、同じ「施設介護の平均月額13.8万円」でも、家計への影響の大きさが異なります。
8. まとめ
- 介護費用の月額は平均9.0万円ですが、在宅(5.3万円)と施設(13.8万円)で2倍以上の差があります。
- 老齢基礎年金の満額(月7万608円)だけでは、施設介護の平均月額13.8万円には約6.7万円不足します。
- 厚生年金の平均受給月額(15万289円)であれば、在宅・施設どちらの平均月額も年金収入の範囲内に収まる計算です。
- 実際の年金額には個人差が大きいため、この試算はあくまで目安として捉える必要があります。
介護費用が月にいくらかかるかは、在宅か施設か、そして自分の年金がどの水準かによって、負担感が大きく変わります。平均値だけを見て安心・不安に思うのではなく、自分の状況に当てはめて考えることが欠かせません。
特に、年金の種類や加入期間によって受給額には大きな個人差があるため、自分自身の見込み額を早めに把握しておくことが、最も確実な備え方だといえます。
自分の年金の見込み額は、日本年金機構の「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認できます。介護費用の平均値とあわせて確認しておけば、漠然とした不安を具体的な数字に変えることができます。
9. よくある質問
9.1 Q. 介護費用は月にいくらかかりますか。
A. 生命保険文化センターの調査では、月額費用の平均は9.0万円です。ただし在宅介護は平均5.3万円、施設介護は平均13.8万円と、内訳によって2倍以上の差があります。
9.2 Q. 年金だけで介護費用はまかなえますか。
A. 年金の種類によります。老齢基礎年金の満額(月7万608円)だけでは、施設介護の平均月額13.8万円には約6.7万円不足する計算です。厚生年金の平均受給月額(15万289円)であれば、在宅・施設どちらの平均月額も範囲内に収まる計算になります。
9.3 Q. 在宅介護と施設介護、どちらが月々の費用は安いですか。
A. 平均で見ると在宅介護(5.3万円)の方が施設介護(13.8万円)より安くなります。ただし在宅介護は家族の時間的な負担が発生するため、金銭面だけで比較するのは適切ではありません。
9.4 Q. 介護費用が年金だけで足りない場合はどうすればよいですか。
A. 多くの家庭では貯蓄の取り崩しや家族による一部負担で補っています。また、住民税非課税世帯等を対象にした負担限度額認定を受けられれば、施設の居住費・食費の自己負担が軽減される場合があります。
9.5 Q. 自分の年金の見込み額はどこで確認できますか。
A. 日本年金機構の「ねんきんネット」や、毎年送付される「ねんきん定期便」で確認できます。将来の見込み額を確認したうえで、介護費用の目安と照らし合わせることをおすすめします。
9.6 Q. 生命保険文化センターの調査はどのくらいの頻度で更新されますか。
A. 「生命保険に関する全国実態調査」はおおむね3年ごとに実施されています。数字を参照する際は、最新の調査年度を確認することをおすすめします。
9.7 Q. 要介護度が上がると月々の費用も必ず増えますか。
A. 在宅介護は要介護度が上がるほど利用限度額が増え、費用も増えやすい傾向があります。施設介護は居住費・食費が要介護度にかかわらず共通のため、在宅介護ほど大きくは変動しません。
9.8 Q. 夫婦のどちらかが施設に入居する場合、費用はどう考えればよいですか。
A. 施設に入居する側の費用だけでなく、在宅に残るもう一方の生活費も引き続きかかる点を踏まえる必要があります。世帯全体の年金収入と支出を合わせて試算することをおすすめします。
9.9 Q. 介護費用を試算する際に気をつけることは何ですか。
A. 平均値はあくまで目安であり、個人の年金額や要介護度によって実際の負担は変わります。自分のねんきん定期便の見込み額と、想定する介護の形(在宅か施設か)を当てはめて試算し直すことが大切です。
9.10 Q. 施設介護の居住費・食費に軽減制度はありますか。
A. あります。住民税非課税世帯等を対象にした「負担限度額認定」を受けると、所得段階に応じて居住費・食費の自己負担に上限が設けられ、基準費用額より大幅に低く抑えられる場合があります。
9.11 Q. 在宅介護の費用は誰が主に負担していますか。
A. 多くの場合、要介護者本人の年金収入から支払われますが、不足する分を同居家族や別居の子どもが補うケースもあります。家族間であらかじめ費用分担の考え方を話し合っておくと、いざというときに揉めにくくなります。
9.12 Q. 介護費用の試算は、老後資金全体の計画にどう組み込めばよいですか。
A. 生活費とは別に「介護費用」という項目を分けて見積もっておくことが基本です。年金収入で足りる部分と、貯蓄で備えるべき不足分を分けて把握しておけば、老後資金全体の計画の中に無理なく組み込みやすくなります。
9.13 Q. 介護費用の試算に、医療費は含まれていますか。
A. 含まれていません。この記事の試算は介護サービスの費用のみが対象です。持病の通院費や入院費など医療費は別枠でかかるため、老後資金を考える際は介護費用と医療費の両方を分けて見積もっておく必要があります。
9.14 Q. 介護費用の月額は今後も同じ水準が続きますか。
A. 断定はできません。生命保険文化センターの調査は約3年ごとに実施されており、物価や人件費の動向によって次回調査で数字が変わる可能性があります。試算をやり直す際は、その時点の最新調査年度の数字を確認することをおすすめします。
参考資料
齊藤 慧
