最低賃金が上がると、それに合わせて賃金を引き上げる必要が出てきます。中小企業にとっては、人件費が増える一方で価格に転嫁しきれない、という悩みにつながりやすいところです。
厚生労働省の業務改善助成金は、その賃上げと設備投資をセットで行った場合に、設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。令和8年度の交付要綱は令和8年4月22日に公開され、申請の受付は9月1日から始まります。
上限額はいくらで、どういう事業者が対象なのか。厚生労働省の案内から、制度の中身を見ていきます。
- 事業場内最低賃金を50円以上引き上げ、設備投資等を行った場合が対象です。
- 助成上限額は引上げ額と人数で決まり、最大600万円です。
- 令和8年度の申請受付は9月1日から。締切は都道府県によって変わります。
1. 賃上げと設備投資をセットで行う制度です
厚生労働省の説明によると、業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金である事業場内最低賃金を50円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
流れとしては、事業場内最低賃金の引上げ計画と設備投資等の計画を立てて申請し、交付決定を受けたあとに計画どおり事業を進め、結果を報告することで助成金が支給されます。交付決定より前に実施した分は対象になりません。
設備投資等には、機械設備の導入やコンサルティングなどが含まれます。助成されるのはこの費用の一部であって、引き上げた賃金そのものではない点は押さえておきたいところです。
2. 事業場内最低賃金とは、その事業場で最も低い時間給のことです
制度の中心にある「事業場内最低賃金」は、その事業場で最も低い時間給を指します。ただしこの助成金では、雇入れ後6か月を経過した労働者の事業場内最低賃金を引き上げる必要があります。
計算方法は、国が例年10月以降に改定する都道府県単位の地域別最低賃金と同様で、最低賃金法第4条および最低賃金法施行規則第1条または第2条の規定にもとづいて算定されます。
3. 助成上限額は最大600万円です
【図表1】業務改善助成金のコース別・人数別の助成上限額1/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
助成上限額は、引き上げる額のコースと、引き上げる労働者数の組み合わせで決まります。コースは50円コース、70円コース、90円コースの3つです。
最も大きいのは90円コースで10人以上を引き上げた場合の600万円です。最も小さいのは50円コースで1人を引き上げた場合の30万円で、事業場規模30人未満の事業者では40万円となります。
1人と2〜3人の区分では、事業場規模30人未満の事業者の上限額が高く設定されています。4〜5人以上の区分では、どちらの事業者も同じ上限額です。
4. 助成率は5分の4または4分の3です
助成率は事業場内最低賃金の水準で分かれます。1050円未満の事業場は5分の4、1050円以上の事業場は4分の3です。
つまり、もともとの賃金水準が低い事業場のほうが、費用に対する助成の割合が高くなる設計になっています。
1日8時間、月20日働くとして月160時間で計算すると、時給を50円上げた場合の増加は1人あたり月8000円、年に9万6000円です。あくまで単純計算ですが、5人分なら年48万円になります。しかも一度上げた賃金は下げられませんから、翌年以降も続く負担です。
一方で助成されるのは、設備投資等にかかった費用の一部であって、賃金そのものではありません。上がった人件費は、生産性を上げて吸収してください、という組み立てになっているわけです。設備投資等の計画が要件に入っているのは、そのためなのだろうと思います。
では、どういう事業者が対象になるのでしょうか。
5. 対象は中小企業・小規模事業者で、事業所ごとに申請します
対象となるのは、次の要件を満たす事業者です。
- 中小企業・小規模事業者であること(大企業と密接な関係を有する、いわゆるみなし大企業でないこと)
- 事業場内最低賃金が、令和8年度の地域別最低賃金未満であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
申請は事業所ごとに行います。工場と事務所のように労働者がいる事業所が複数ある場合は、それぞれ別に申請することになります。
6. 特例事業者に当たると、上限額などが広がります
次のいずれかに当てはまる事業者は特例事業者となり、助成上限額の拡大を受けられます。
- 賃金要件:申請事業場の事業場内最低賃金が1,050円未満である事業者
- 物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前6か月間平均における利益率が前年度と比べ3%ポイント以上低下している事業者
図表1の「10人以上」の区分は、特例事業者が10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合に対象となります。また物価高騰等要件に該当する事業者は、助成対象経費も拡大され、パソコン等の新規導入が認められる場合があります。
なお「%ポイント」とは、パーセントで表された2つの数値の差を表す単位です。利益率が前年度から3%下がったという意味ではありません。
7. 令和8年度の申請受付は9月1日から、締切は都道府県で変わります
【図表2】業務改善助成金の流れと令和8年度の日程2/2
各種資料をもとにLIMO編集部作成
令和8年度の申請期間は令和8年9月1日から始まります。締切は、申請事業所の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日か、同年11月30日のいずれか早い日です。
地域別最低賃金の発効日は都道府県によって異なるため、締切もそれに合わせて変わります。全国一律の期限ではない点は、見落としやすいところです。
賃金引上げ期間は令和8年9月1日から、申請事業所に適用される地域別最低賃金発効日の前日までです。事業完了期限は交付決定年度の1月31日となっています。
8. まとめにかえて
業務改善助成金の中身を、厚生労働省の案内から見てきました。
- 事業場内最低賃金を50円以上引き上げ、設備投資等を行った場合が対象です
- 助成上限額は引上げ額と人数で決まり、最大は90円コース・10人以上の600万円です
- 助成率は事業場内最低賃金1050円未満で5分の4、1050円以上で4分の3です
- 令和8年度の申請受付は9月1日から。締切は都道府県の発効日によって変わります
賃上げの原資そのものが助成されるわけではなく、設備投資等の費用の一部が対象という設計です。賃上げと生産性向上をセットで考えるための制度、と読むほうが近いかもしれません。
制度の内容は年度によって変わります。この記事は令和8年度の案内にもとづいていますが、申請できるかどうかや対象経費の判断は個別の事情によって異なります。実際に検討するときは、業務改善助成金コールセンターまたは都道府県労働局の雇用環境・均等部室にご確認ください。
9. 【執筆者コメント】締切が都道府県で違うということ
この制度で気をつけたいのは、申請の締切が全国一律ではないことだと思いました。
締切は「申請事業所の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日」か「11月30日」の早いほうです。地域別最低賃金の発効日は都道府県ごとに違いますから、締切も都道府県によって変わります。
令和7年度の実績で見ると、10月中に発効した県が20県あった一方で、令和8年に入ってから発効した県も6県ありました。発効が早い県ほど、申請できる期間は短くなる計算です。
制度の中身を調べているうちに締切が過ぎていた、というのは避けたいところです。まず自分の都道府県の発効日を確かめて、そこから逆算するのが確実だと思います。
発効日は厚生労働省の地域別最低賃金の一覧に載っています。申請の相談は業務改善助成金コールセンターのほか、都道府県労働局の雇用環境・均等部室でも受け付けています。
参考資料
中沢 新
