4月に昇進して、給与明細の役職手当が増えた。そこまでは実感があるのに、秋になって手取りが思ったより伸びていない—。

そんな戸惑いを覚える方もいるのではないでしょうか。9月は、社会保険料の金額が切り替わる月です。

毎年4月から6月の報酬をもとに、その年の9月から翌年8月まで使われる「標準報酬月額」が決め直されるためです。今回は日本年金機構の資料と条文をもとに、なぜ4月から6月なのか、いくら変わるのか、そして天引きが動くのはいつの給与からなのかを、順にみていきましょう。

ココがポイント
  • 4月・5月・6月の報酬で決め直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用される
  • 厚生年金保険料率は18.300%で、事業主と被保険者が半分ずつ負担。本人負担は9.150%
  • 前月分の保険料を当月の報酬から控除するのが法律上の原則。天引きが動くのは10月支払分からが基本

1. 9月から標準報酬月額が変わる。「定時決定」という毎年の仕組み

まず、何が起きているのかを確認します。日本年金機構によると、事業主は、7月1日現在で使用している全被保険者の3カ月間(4月、5月、6月)の報酬月額を算定基礎届により届出し、厚生労働大臣はこの届出内容に基づき、毎年1回標準報酬月額を決定し直します。

これを定時決定といいます。そして決定し直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。

算定基礎届の提出期限は毎年7月10日まで。対象となるのは7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者です。

報酬月額を計算する3カ月は、いずれも支払基礎日数17日以上であることが条件とされています(※特定適用事業所の短時間労働者については11日以上です)。

この標準報酬月額が、厚生年金保険料の計算の土台になります。日本年金機構によると、標準報酬月額は1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。

つまり、毎年夏に手続きが済み、秋から新しい金額が使われる。給与明細の数字が9月や10月に動くのは、この年に一度の決め直しが理由です。

ここで押さえておきたいのは、この決め直しが本人の申し出によるものではないという点です。事業主が届け出て、行政が決定する流れなので、こちらから何かをしなくても金額は動きます。

だからこそ、気づかないまま秋を迎えることになります。給与明細の控除欄を見て初めて「なぜ増えたのか」と考える方が多いのは、この仕組みによるものです。

2. なぜ4月から6月なのか。春に昇進した人は高く出やすい構造

ここが、今回いちばんお伝えしたい部分です。1年分の土台になるのは、4月・5月・6月という3カ月だけです。

多くの会社で、昇進や昇格は4月に発令されます。役職手当が加わった最初の月が、そのまま算定の対象期間に入るということです。

4月〜6月の報酬で、1年分の標準報酬月額が決まる1/2

4月〜6月の報酬で、1年分の標準報酬月額が決まる

出所:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」日本年金機構「厚生年金保険の保険料」をもとにLIMO編集部作成

図のとおり、4月から6月の報酬が7月に届け出られ、9月から翌年8月までの1年間に効いてきます。1年のうち3カ月分の状況が、残りの12カ月を決めるかたちです。

4月に昇進した場合には、役職手当が乗った月がまるごと算定期間に入りやすい。一方で、その手当が家計に定着したと感じる頃には、保険料のほうも上がっているということになります。

もう一点、見落とされやすいことがあります。この3カ月に含まれるのは基本給と役職手当だけではありません。報酬月額には、残業代のように月によって増減する賃金も含まれます。

春に業務が立て込んで残業が増えた方の場合、その分も4月から6月の報酬に反映されます。年間を通せば平均的な働き方でも、たまたまこの3カ月が忙しければ、1年分の標準報酬月額は高めに決まることになります。

なお、報酬が大きく変わったときには、定時決定とは別に随時改定という仕組みもあります。ご自身がどの等級で決定されているかは、勤務先の人事労務部門または年金事務所に確認するのが確実です。

宮野 茉莉子
「昇進したのにあまり家計が楽になった実感がない」と感じる方もいるのでは。さまざまな理由がありますが、額面と手取りが動くタイミングがずれているので、実感が追いつかないのだと思います。4月に額面が増え、秋に天引きが増える。この半年のずれを知っているだけでも、9月や10月の給与明細を見たときの受け止め方は変わります。増えた分がどこへ行ったのかが分かれば、家計の前提も立て直しやすくなります。