3. なぜタイヤメーカーが大谷翔平を起用するのか

では、DUNLOPにとって大谷選手を起用するメリットはどこにあるのでしょうか。

ひとつは、「高性能」というイメージを直感的に伝えやすいことだと考えられます。

タイヤは、自動車の安全性や走行性能を左右する重要な部品です。一方で、一般の消費者が商品ごとの細かな性能差を広告だけで理解するのは簡単ではありません。

「氷上性能」「ウェット性能」「ゴムの剛性」など、技術的な説明を積み重ねても、それだけではブランドへの印象につながりにくい面があります。

そこで、大谷選手の持つ「一流」「挑戦」「高い能力」といったイメージをブランドに重ねることで、商品の機能を超えた価値を伝えやすくなります。

実際、同社は2026年からコミュニケーションブランドを「DUNLOP」に統一。「挑戦を支える安心」「期待を超える体験」「限界への挑戦」という3つの提供価値を掲げ、ブランドステートメントとして「TAKING YOU BEYOND」を設定しています。

こうしたブランドの方向性を考えると、さまざまな領域で挑戦を続ける大谷選手との組み合わせは、単なる知名度だけではなく、DUNLOPが伝えたいブランドイメージを視覚的に表現する存在として評価していることがうかがえます。

4. 「SYNCHRO WEATHER」は販売本数5倍に

DUNLOPによると、「SYNCHRO WEATHER」の2026年1~6月の販売本数は、前年同期比で5倍に拡大しました。

もちろん、この数字が直接的に「大谷効果」によるものというわけではありませんが、販売本数が大きく伸びているタイミングで、DUNLOPが継続的に大谷選手を起用して商品の認知を広げていることは興味深いポイントです。

特に「SYNCHRO WEATHER」のようなオールシーズンタイヤは、単に既存商品の性能を上げるだけの商品とは少し性格が異なります。

これまで一般的なタイヤ選びでは、夏はサマータイヤ、雪が降る地域では冬にスタッドレスタイヤへ交換するという方法が広く知られてきました。オールシーズンタイヤは、そこに別の選択肢を提示する商品です。

つまり、商品の性能だけでなく、「季節ごとにタイヤを交換する」という消費者の行動そのものを変える必要があります。この点が、マーケティング上の難しさにつながります。

たとえば、消費者が「オールシーズンタイヤ」という言葉を知っていたとしても、「雪道ではどうなのか」「凍結路面は大丈夫なのか」といった疑問が残れば、購入にはつながりにくいでしょう。

そこで今回のCMでは、あえて「凍結に弱い?」という疑問をタイトルにし、消費者が抱きやすい疑問をCMの入り口にして、その疑問を商品性能の説明につなげる構成を採用しています。さらに、雪国育ちの大谷選手を起用することで、「冬の道路」というテーマとの親和性も高めています。

5. トレンドウォッチャーのひとこと

大蔵 大輔

大谷翔平選手の広告出演による効果は凄まじく、高額な契約料にも関わらず、新規で手を挙げる企業が後を絶ちません。

大谷人気は今に始まったことではありませんが、ここ最近の各企業のマーケティングからは、目的意識がはっきりと透けてみえます。

例えば、ファミリーマートは大谷選手を「おむすびアンバサダー」としてカテゴリー限定で広告に起用。大谷選手の存在感で訴求したい内容が薄まらないように配慮しています。

今回のDUNLOPの戦略も、同ブランドが形成したいイメージとのリンクや雪国出身という背景情報をうまく活用した、上手な大谷マーケティングの一例といえるでしょう。

参考資料

大蔵 大輔