5. 2026年3月期の減益は、どの段階で起きたのか
2026年3月期の連結業績は、売上高1兆8,250億円と前期比+2.8%の増収だった。だが利益は大きく減っている。
営業利益は1,270億円で▲15.8%、経常利益は1,758億円で▲58.1%、親会社株主に帰属する当期純利益は2,132億円で▲49.9%となった。
減り方が段階ごとに違う点に目を留めたい。営業利益の減少幅より、経常利益の減少幅のほうがはるかに大きい。
海運の連結決算では、持分法適用会社の損益が営業利益の下、営業外損益に入ってくる。会社によると、この期の経常利益はコンテナ船事業の運賃市況の下落などによって前期比で減益となった。コンテナ船事業を担う持分法適用会社の落ち込みが、そのまま経常段階を押し下げた形である。
セグメント別に見ると、それが数字で確認できる。製品輸送事業の経常損益は959億円で▲68.3%、うちコンテナ船事業は266億円で▲87.7%だった。前期に2,176億円を稼いだ事業が、1期で10分の1近くまで縮んだことになる。
これに対して、不動産を含むウェルビーイングライフ事業や関連事業の振れ幅は小さい。関連事業は曳船事業の作業件数が堅調で、経常損益は36億円と+43.4%の増益だった。
同社は税金等調整前当期純利益2,390億円で着地し、Phase 1で掲げた2,400億円の目標をほぼ達成したとしている。市況が調整局面に入った期でも目標水準を維持できた、という整理だ。
2027年3月期に入ると風向きはまた変わった。1Qは売上高7,309億円、営業利益385億円、経常利益521億円、当期純利益610億円である。通期予想は経常利益2,250億円、当期純利益2,400億円へ引き上げられ、前期比ではそれぞれ+28.0%、+12.5%の増益見通しとなっている。
6. Phase 2が掲げる累進配当とROE10%超
資本配分の話に戻ろう。会社は2026年度から始まるPhase 2で、1株当たり年間205円を起点とする累進配当を導入し、総還元性向40%を目安とする方針を示している。市況の上振れで生じた超過利益は、機動的な自社株買いで返すという整理だ。
そのうえで掲げる目標がROE(自己資本利益率)10%超である。2026年3月期の実績は7.7%だから、現状からは開きがある。
もっとも、この7.7%という数字は海運業の中央値7.6%とほぼ並んでいる。営業利益率6.9%も業種の中央値7.0%前後と重なり、自己資本比率48.2%は中央値47.5%に近い。配当性向32.3%も中央値30.9%からそう離れていない。
海運といえば市況で大きく振れる業種というイメージが先に立つ。だが少なくとも2026年3月期の商船三井は、主要な指標のどれをとっても業種の真ん中に位置していた。振れていたのは連結全体ではなく、コンテナ船という特定の事業である。
財務面では、Phase 2でネットギアリングレシオ(自己資本に対する有利子負債の倍率)を1.0から1.1程度に抑える方針が示されている。投資を先行させたPhase 1から、成果を回収する局面へ重心を移すという構えだ。
7. 筆者コメント
業種の中での立ち位置に照らすと、この会社の姿は思ったより凡庸に見える。資本効率も利益率も財務の厚みも、海運業の中央値のすぐそばにある。
だが、同じ指標を時間軸で並べ直すと違う絵が出てくる。3年で2兆円を投じ、そのうち8割を安定収益型に向けた会社が、いま業種の中央値と同じ場所にいる。これは通過点なのか、それとも到達点なのか。
私は前者だと考えている。安定収益型の資産は、買った瞬間に利益を返してくれるわけではない。減価償却と金利を先に払い、賃料や長期契約で後から回収する。投資が先行した期の利益指標が平凡に見えるのは、順序としてむしろ自然だ。
そう考えると、次に確かめるべきは市況ではなく、積み上げた資産がどれだけの利益を返してくるかという点になる。運賃表ではなく、投じた資本の回収ペースを追う。この会社を見る物差しは、そちらへ移していい局面ではないだろうか。
参考資料
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石津 大希